なぜアンデスはこんなにも色鮮やかなのか?|火山が生み、生命が彩った2億年の大地【驚き!地球!グレートネイチャー】

アンデス山脈と地球 BLOG
スポンサーリンク

標高5000メートル。空気は薄く、草木もほとんど見えない。南米・アンデス山脈の高地を歩いていると、まるで地球から色が失われていくような荒涼とした風景が続きます。ところが、その先で突然、目を疑うような光景に出会います。

”エメラルドグリーンの湖”、”真紅に染まった水面”。その向こうには、黒、ピンク、赤茶――まるで誰かが色を塗り分けたような岩山がそびえています。さらに標高5000メートルを超える火山には、剣山のような不思議な形をした純白の雪。朝日を浴びれば、大聖堂のような峰が黄金色に輝き始めます。

どうして、これほど過酷な大地が、こんなにも鮮やかな色を持っているのでしょう。その答えを探して大地の下へ潜っていくと、物語は2億年以上前まで遡ります。

南米大陸の西側では、長い時間をかけて海洋プレートが大陸の下へ沈み込み、地下ではマグマが生まれ続けてきました。噴火する。冷える。またマグマが上がってくる。違う性質の岩石が生まれ、それが積み重なり、隆起し、削られていく。アンデスの色彩を生み出した最初の絵筆は、確かに火山だったのでしょう。

けれど、それだけではありませんでした。岩石に含まれる鉄は、長い年月のなかで酸素と出会い、赤や褐色へ変わっていく。火山がもたらした熱水は岩石を変質させ、さまざまな鉱物をつくる。高地の窪地にたまった水は、強烈な太陽と乾燥によって濃縮され、極端な塩分を持つ湖へ変わっていく。

そして、そんな過酷な水の中にも――生命がいました。真紅の湖を彩る藻類や微生物。それらを含む食物を取り込み、やがて鮮やかな羽をまとっていくフラミンゴ。地球内部から上がってきたマグマの物語を追いかけていたはずなのに、その先にはいつの間にか、生命の色まで加わっていたのです。

そう考えると、アンデスを彩った画家は一人ではありません。火山が大地をつくった。水と空気が岩を変えた。太陽と乾燥が湖を変えた。そして最後には、生命までが絵筆を握った。NHK『驚き!地球!グレートネイチャー』「火山が彩る天空の大地 ~アンデス山脈~」では、標高5000メートルを超える火山が連なる天空の大地を訪ね、その奇妙な絶景が生まれた謎を追います。

でも今回は、そこからもう一歩だけ奥へ入ってみたいと思います。なぜアンデスは、これほど色鮮やかな大地になったのでしょう。黒い岩には、どんなマグマの記憶が残されているのか。赤茶色の山を染めたのは、本当に火山なのか。エメラルドグリーンの湖と真紅の湖では、何が起きているのか。そして、なぜこんな過酷な世界に、鮮やかな生命の色が生まれたのでしょう。

一つの色を拾うたび、時間を少しずつ遡ってみましょう。数千年。数百万年。そして――2億年。すると目の前に広がるアンデスの風景が、単なる「絶景」ではなくなってくるかもしれません。

それは地球が長い時間をかけて描き続けてきた、一枚の絵。火山がキャンバスをつくり、地球と生命が一緒になって色を重ねてきた、2億年の風景です。さあ、最初の色を探しに行きましょう。この大地を最初に塗ったものは、いったい何だったのでしょうか?

【放送日:2026年8月13日(木)12:00 -12:30・NHK-BSP4K】
【放送日:2026年8月16日(日)5:30 -6:00・NHK-BSP4K】

<広告の下に続きます>

  1. アンデスはなぜ火山だらけなのか?──2億年続く「沈み込み」の物語
    1. 海の底が、南米大陸の下へ消えていく
    2. 沈み込んだプレートが、なぜ火山をつくるのか?
    3. でも、アンデスは一晩では生まれなかった
    4. 山をつくったのも、沈み込みだった
    5. なぜ5000メートルを超える火山が並ぶのか?
    6. そしてマグマは、大地に「色の材料」を残した
  2. 黒、ピンク、赤茶──火山はなぜ山を三色に塗り分けたのか?
    1. 黒い岩──マグマが冷えて残した色
    2. 赤茶色──やっぱり「鉄」は怪しい
    3. ピンク色──マグマにも「性格」がある
    4. 三色の境目は、火山の「時間の境目」かもしれない
    5. 火山だけでは、この色は完成しなかった
  3. なぜ湖はエメラルドグリーンや真紅になるのか?──火山、水、塩がつくった色
    1. 湖は、アンデスがつくった「巨大なパレット」
    2. エメラルドグリーン──「何かが溶けている」とは限らない
    3. では、真紅の湖は「鉄」なのか?
    4. 「何もいないような湖」に、生命がいた
    5. 火山がつくった場所へ、生命が色を加えた
    6. そして湖のほとりに、ピンク色が立っている
  4. アンデスを彩ったのはマグマだけではなかった──真紅の湖とフラミンゴ
    1. フラミンゴは、もともとピンク色ではない
    2. エビが赤くなるのも「親戚の色」だった
    3. では、赤い湖とピンクの鳥は同じ色なのか?
    4. 色が、生命から生命へ受け渡されていく
    5. そして、その生命の舞台をつくったのは火山だった
    6. アンデスを彩ったのは、マグマだけではなかった
  5. アンデスを描いたのは誰だったのか?──火山と生命が描き続ける2億年の風景
    1. 最初に絵筆を握ったのは、地球の内部だった
    2. 水と空気が、火山の色を塗り替えた
    3. 太陽は、湖を巨大なパレットに変えた
    4. 生命もまた、絵筆を握った
    5. では、アンデスを描いたのは誰だったのか?
    6. この絵は、まだ完成していない…
  6. あわせて読みたい
    1. 共有:
    2. いいね:

アンデスはなぜ火山だらけなのか?──2億年続く「沈み込み」の物語

南米大陸の西側を、南北およそ7000キロにわたって貫くアンデス山脈。6000メートルを超える峰々が連なり、その中には現在も活動を続ける火山があります。でも、どうしてここにはこれほど多くの火山があるのでしょう。

その答えを探すには、山を見上げるのではなく――足元の、さらにずっと深いところを見なければなりません。アンデスの地下では今も、地球規模の大きな動きが続いているからです。

海の底が、南米大陸の下へ消えていく

南米大陸の西には、広大な太平洋があります。その海底をつくるプレートの一つが、ナスカプレートです。ナスカプレートは東へ移動し、南米プレートとぶつかっています。ところが大陸同士が正面衝突したヒマラヤとは、少し事情が違います。

海洋プレートは長い間、海の水に押しつぶされてきたので大陸プレートより密度が大きい、つまり重いんです。そのため両者がぶつかると、海洋プレートが大陸プレートの下へ斜めに潜り込んでいきます。これが、「沈み込み」です。

南米西岸沖には、その境界に沿ってペルー・チリ海溝があります。日本の近くにある日本海溝が、北米プレートの下に沈み込んでいく太平洋プレートとの境にあるような感じです。

私たちが地上から眺めるアンデスの巨大な山々と、太平洋の底にある深い海溝。一見すると正反対の風景ですが、実はどちらも同じプレート運動がつくった巨大な地形なのです。

沈み込んだプレートが、なぜ火山をつくるのか?

ここで一つ疑問が生まれます。プレートが沈み込むことと、火山ができることに、どんな関係があるのでしょう。地下へ沈んでいく海洋プレートには、海底の堆積物や、水を含んだ鉱物があります。

プレートがさらに深く沈み、温度と圧力が上がると、それらの鉱物から水などが放出されます。その水が上にあるマントルへ加わると、岩石の融け始める温度が下がる。すると、マントルの一部が融けて――マグマが生まれます。

マグマは周囲の岩石より軽いため、時間をかけて上昇していきます。地下にたまるものもあれば、地表まで到達するものもある。そして噴火を繰り返しながら、火山をつくっていきます。だから地図を大きく眺めると、海溝 → 沈み込む海洋プレート → マグマが生まれる領域 → 火山帯という巨大な仕組みが見えてきます。

アンデスの火山は、偶然そこに並んだわけではありません。地球内部で起きているプレート運動が、地上に姿を現したものなのです。

でも、アンデスは一晩では生まれなかった

そして今回の物語で大切なのが「時間」です。番組の紹介には、「2億年以上続くマグマの活動」という、とんでもない時間が出てきます。2億年前。まだ恐竜たちが地上を歩いていた時代です。

ただし、そのころ現在とまったく同じナスカプレートが、現在とまったく同じ形で南米大陸の下へ沈み込んでいた、と考えるのは正確ではありません。プレートは生まれ、移動し、分裂し、消えていきます。現在のナスカプレートが成立する以前にも、その前身となる海洋プレートが南米西縁へ沈み込んでいました。

つまり、主役となるプレートの名前や配置は変わっても、南米大陸の西側で海洋プレートが沈み込み、マグマ活動を起こすという大きな地球の営みが、気の遠くなるような時間をかけて続いてきたのです。

山をつくったのも、沈み込みだった

沈み込みが生み出したのは火山だけではありません。海洋プレートが南米大陸の下へ潜り込もうとすると、両者の境界には巨大な力がかかります。大陸側の地殻は圧縮される。岩盤は折れ曲がる。断層が生まれる。地殻は厚くなり、大地は持ち上げられていく。そうした長い変動を経て、アンデスという巨大な山脈が成長してきました。

つまり、沈み込みは地下でマグマをつくり、同時に地上では山脈を育ててきた。ここがアンデスの面白いところです。前に歩いたヒマラヤでは、インド亜大陸そのものがユーラシア大陸へ衝突しました。一方、アンデスでは海洋プレートが南米大陸の下へ潜り込み続けています。

どちらもプレートが出会う場所なのに、そこで起きていることは違う。だから生まれる大地の姿も違うのです。

なぜ5000メートルを超える火山が並ぶのか?

今回の舞台となる中央アンデスへ行くと、さらに風景は極端になります。もともと高く隆起した大地の上に、何度も火山活動が重なりました。火山が生まれる。侵食される。別の場所からマグマが上がる。巨大な噴火が起こる。火山灰や火砕流が広大な土地を覆う。そして、また新しい火山が育つ。

その繰り返しの果てに、標高5000メートルを超える火山がいくつも並ぶ「天空の火山地帯」ができあがりました。私たちが今日見ている一つの山は、地球の長い歴史のほんの一場面にすぎないのです。

そしてマグマは、大地に「色の材料」を残した

ここで、ようやく今回の旅のテーマへ戻りましょう。火山活動が繰り返されれば、地表にはさまざまな火山岩や火山灰が残されます。地下ではマグマから供給された熱によって熱水が循環し、岩石を変質させることもあります。

含まれる鉱物も違う。生まれた時代も違う。その後に受けた風化も違う。そうした大地が何百万年、何千万年という時間を経験していく。すると――黒。赤茶。ピンク。白。同じ火山地帯とは思えないほど、さまざまな色が地表に現れてきます。けれど、ここで慌てて、「赤いから鉄だね」と性急に答えを出すのは、もう少し待ちましょう(笑)。

火山が置いていったのは、完成した絵ではありません。言ってみれば、「色の材料」でした。そこへ水が入り、空気が触れ、太陽が照りつけ、長い時間が流れていく。岩は変わり始めます。そして、それぞれ違う色をまとっていく。2億年以上続いてきた地球内部の活動が、どうして現在のアンデスをこれほど鮮やかにしたのでしょう?

今度は地下から地上へ戻って、一つの山肌をじっくり眺めてみましょう。そこには――黒、ピンク、赤茶。まるで誰かが三色の絵の具を塗り分けたような、不思議な山があります。次に探すのは、火山が残した「色の正体」です。

<広告の下に続きます>

黒、ピンク、赤茶──火山はなぜ山を三色に塗り分けたのか?

標高5000メートル近いアンデスの高地。植物の少ない乾燥した大地を進んでいくと、目の前に奇妙な山が現れます。黒。ピンク。赤茶。まるで巨大な筆で三色に塗り分けたように、山肌の色がくっきりと変わっています。同じ山なのに、なぜこれほど色が違うのでしょう。

赤茶色の岩を見た瞬間、「鉄だろう」と思った人もいるかもしれません。私たちも、まずそこを疑いました。たしかに鉄は、アンデスの色を読み解く重要な手がかりです。でも、この山を塗った絵の具は一つではありません。色をよく見ていくと、そこにはマグマが生まれたときから現在までの、長い時間が残されていました。

黒い岩──マグマが冷えて残した色

まずは黒。火山の風景としては、いちばん想像しやすい色でしょう。地下から上がってきたマグマが噴出し、溶岩となって冷え固まれば火山岩になります。その岩石に輝石や角閃石などの暗色鉱物が多く含まれていれば、岩肌は暗い灰色から黒っぽく見えることがあります。玄武岩質の岩石もその代表です。

ただし、アンデスでは安山岩やデイサイトなど多様な火山岩が広く見られるため、「黒い岩=玄武岩」と決めつけることはできません。大切なのは、その黒が、地下で生まれたマグマが地表へ出て、冷え固まった歴史を伝えている可能性があるということです。いわば、火山が最初に置いていった色です。

赤茶色──やっぱり「鉄」は怪しい

では、赤茶色はどうでしょう。ここで、ようやくポケットに入れてきた、「赤=鉄」カードを出してみましょう(笑)。岩石には鉄を含む鉱物があります。

それらが地表で水や酸素と長い時間接すると、鉄は酸化し、酸化鉄などを含む赤や褐色の物質が生じます。身近な言葉でいえば、「錆びる」ことに少し似ています。もちろん山全体が鉄板のように錆びているわけではありません(笑)。

岩石を構成する鉱物が化学的に変化し、その生成物によって赤、黄、褐色などが現れるのです。つまり赤茶色は、マグマが直接「赤い岩」を噴き出した結果とは限りません。マグマが岩石をつくり、その岩が空気や水に触れ、長い時間をかけて変化していった。火山が置いた色の材料を、地表の環境が塗り直した。そう考えると面白いでしょう。

ピンク色──マグマにも「性格」がある

そして、いちばん不思議なのがピンク。火山というと黒い溶岩を想像する私たちには、ピンク色の山は少し意外です。でもマグマは、どこでも同じものではありません。地下でマグマが冷えたり、周囲の地殻と相互作用したり、結晶が分離したりする過程で、その化学組成は変化していきます。

その結果、より珪長質なマグマから生まれる岩石では、暗色鉱物が相対的に少なく、長石などの明るい鉱物が目立つことがあります。長石の種類や微量成分などによって、淡いピンクや赤みを帯びて見える岩石もあります。

さらに火山灰が固まった凝灰岩や、巨大噴火で生じた火砕流堆積物なども、組成や変質の状態によって白、灰、黄、赤、ピンクなどさまざまな色を見せます。だからピンクも、「この元素が入っているからピンク」という単純な話ではありません。

マグマの性質。噴火のしかた。岩石の種類。その後の熱水変質や風化。いくつもの条件が重なった結果として、私たちの目には「ピンクの山」として見えているのです。

三色の境目は、火山の「時間の境目」かもしれない

ここで、もう一度山全体を眺めてみましょう。黒。ピンク。赤茶。もし異なる性質や年代の火山噴出物が積み重なっているのなら、その境界は単なる色の境目ではありません。

ある時代に噴火した。長い時間が過ぎた。別のマグマが上がってきた。また噴火した。火山灰が積もった。熱水が岩を変えた。雨や風が山を削った。さらに新しい地層が現れた。いわば山に刻まれた”年輪”のようなものだと考えることもできます。

そんな出来事の一つひとつが重なり、侵食によって内部が露出すれば、私たちは現在、一枚の山肌の中に異なる時代を同時に見ることになります。だとすれば、この三色の山は、火山が塗り分けた絵というより、火山が書き残した履歴書なのかもしれません。

色が変わるところで、マグマの性質が変わったのかもしれない。噴火の時代が違うのかもしれない。あるいは、その後に受けた変質や風化が違うのかもしれない。色を見ることは、過去を読むことでもあるのです。

火山だけでは、この色は完成しなかった

そして、ここで一つ大切なことに気づきます。私たちは、「火山はなぜ山を三色に塗り分けたのか?」という問いから歩き始めました。でも本当は、火山だけが塗ったわけではありません。

マグマは岩石をつくりました。けれど、その岩へ水が入り込んだ。空気に触れた。熱水が流れた。太陽にさらされた。凍結と融解を繰り返した。風が削った。そして途方もない時間が流れた。そうして最初とは違う色が現れてきたのです。

火山は、完成した風景をつくったのではありません。火山がキャンバスと絵の具を用意し、時間がその色を変えていった。どうやら、アンデスを描いた画家は最初から一人ではなかったようです。そして次に私たちが出会う色は、もっと不思議です。

岩ならば、まだ分かります。鉱物の違い。酸化。風化。熱水変質。そんな地質学の言葉で説明できそうです。ところが山を越えた先には――エメラルドグリーンや真紅に染まった「水」があります。

水は、本来ほとんど色を持たないはずなのに。なぜアンデスの湖は、宝石のような色をまとっているのでしょう。今度は三色の岩山を下りて、天空の湖まで歩いてみましょう。そこでは、火山が置いていった絵の具に、水と塩、そして強烈な太陽まで加わってきます。

<広告の下に続きます>

なぜ湖はエメラルドグリーンや真紅になるのか?──火山、水、塩がつくった色

三色に塗り分けられた岩山を越えると、アンデスはさらに不思議な色を見せ始めます。今度は、岩ではありません。水です。

標高4000~5000メートルの乾燥した高原に、突然現れる鮮やかな湖。ある湖はエメラルドグリーン。ある湖は青白く輝き、そしてある湖は――真紅。

岩なら、まだ想像できます。黒い岩なら暗色鉱物。赤茶色なら鉄の酸化。白やピンクなら岩石や鉱物の違い。でも、水はどうでしょう。透明なはずの水が、どうしてこれほど鮮やかな色になるのでしょうか。

湖は、アンデスがつくった「巨大なパレット」

まず注目したいのは、湖の水そのものではありません。湖が置かれている場所です。中央アンデスの高地には、周囲から水が集まっても海まで流れ出しにくい、閉じた盆地があります。そこへ火山地帯の岩石を通ってきた水が流れ込む。地下から湧き出す水もある。

水は周囲の岩石や堆積物と接触しながら、さまざまな溶存成分を運んできます。ところが、この地域は非常に乾燥しています。標高が高いため日射も強い。湖へ入ってきた水は、やがて空へ蒸発していきます。でも、水に溶け込んでいた塩類やさまざまな成分まで、一緒に空へ飛んでいくわけではありません。

水だけが失われる。すると残された成分は、少しずつ濃くなっていきます。また水が入る。また蒸発する。それを長い時間繰り返す。そうしてアンデスの高地には、私たちが普段目にする湖とはまったく違う、塩分や溶存成分に富んだ極端な水環境が生まれました。

湖はただ水がたまった場所ではありません。火山と岩石が運んできたものを、水と太陽が長い時間をかけて濃縮してきた、天然のパレットでもあったのです。

エメラルドグリーン──「何かが溶けている」とは限らない

そんな湖を前にすると、私たちはつい考えます。「この緑色になる物質が、水に溶けているんだろう」でも湖の色は、そんなに単純ではありません。水中に溶けている成分だけでなく、微細な鉱物粒子や浮遊物、微生物、水深、湖底の色、そして光の散乱や吸収によっても、私たちの目に届く色は変わります。

だから、エメラルドグリーン=この元素という方程式は作れません。これは、美瑛の青い池を考えてみても分かります。青く見えるからといって、水そのものに「青い絵の具」が溶けているわけではありません。

微細な粒子と光の関係によって、私たちの目には鮮やかな色が現れることがあります。つまり湖の色とは、物質の色+水+光がつくる現象でもあるのです。ここへアンデスでは、さらに火山活動や極端な塩分環境まで加わります。ますます簡単には解けなくなってきました。

では、真紅の湖は「鉄」なのか?

そして目の前に、赤い湖が現れます。ここで再び、あのカードを出したくなります。

「赤=鉄!」

岩山では、かなり役に立ちました。火山地帯です。鉄を含む鉱物もあります。だったら赤い湖も、鉄を含む物質が水や湖底を赤く染めているのでしょうか?実際、湖の色に鉱物や堆積物が関係することはあります。ところが――それだけでは説明できない赤があります。

アンデス高地には、塩分が非常に高く、強い紫外線にさらされ、昼夜の温度差も大きい湖があります。私たち人間から見れば、「こんなところで生き物は生きられるの?」と思ってしまうような環境です。ところが、その水を覗いてみると、いました。生命です。

「何もいないような湖」に、生命がいた

ときには極端な環境にも適応した微生物や藻類などが暮らしています。そして種類や環境条件によっては、それらが持つ色素や大量に増殖することが、湖面を赤や赤褐色に見せる要因になることがあります。

ここで、私たちが追いかけてきた「色」の意味が少し変わります。黒い山を見たとき、私たちは岩石を調べました。赤茶色を見たとき、鉄の酸化を考えました。ピンクの山では、マグマや火山噴出物、風化や変質を考えました。エメラルドグリーンの湖でも、まず鉱物や水の性質を疑いました。

ところが真紅の水まで来たところで――地質学の物語の中へ、生物が入ってきた。アンデスを彩っているのは、どうやら地球だけではなかったのです。

火山がつくった場所へ、生命が色を加えた

もちろん、だからといって、「赤い湖=藻類」と覚えてしまうのも違います。湖ごとに成分も環境も異なり、鉱物や堆積物、塩分、水深、光、微生物など複数の要因が色に関係します。でも、ここで大切なのは一つ。生命は、火山とは無関係に突然やってきたわけではありません。

長い火山活動が高原をつくった。隆起や火山活動が複雑な地形をつくった。そこに水がたまった。乾燥した気候が水を蒸発させた。塩類などが濃縮された。そうしてできた特殊な環境に適応する生命が現れた。そして生命までが、風景の色を変えるようになった。最初にマグマが置いた一滴の絵の具から、ずいぶん遠くまで来ました。

そして湖のほとりに、ピンク色が立っている

真紅の湖から顔を上げてみましょう。水辺に、さらに不思議な色があります。ピンク色の鳥。フラミンゴです。ここで「ピンク」という色が、もう一度現れました。

さっき山で見たピンクとは、まったく違う理由で。火山岩のピンクは、岩石や鉱物、変質などが生み出した色でした。でもフラミンゴの羽は、生き物の色です。しかも、生まれたときから鮮やかなピンク色をしているわけではありません。その色には、彼らが何を食べて生きてきたのかが関係しています。

火山の話から始まったはずなのに、気がつけば私たちは、一羽の鳥が何を食べているのかを調べようとしています(笑)。でも、道を間違えたわけではありません。むしろ――ここまで全部、一本の道だったのかもしれません。

次は湖のほとりへ下りて、フラミンゴをもう少し近くから見てみましょう。アンデスを彩った最後の絵筆を握っていたのは、もしかすると――生命だったのかもしれません。

<広告の下に続きます>

アンデスを彩ったのはマグマだけではなかった──真紅の湖とフラミンゴ

赤い湖のほとりに立つと、もう一つの鮮やかな色が目に入ります。ピンク色のフラミンゴ。真紅の水。ピンク色の鳥。あまりにも出来すぎた色の組み合わせです。もしかすると、こう思うかもしれません。「赤い湖にいるから、フラミンゴも赤くなったのだろうか?」少しだけ当たっています。でも、そんなに単純ではありません。

フラミンゴは、もともとピンク色ではない

フラミンゴという名前を聞けば、誰もがあの鮮やかなピンク色を思い浮かべるでしょう。ところが、フラミンゴのヒナは灰白色。成長するにつれて、次第にピンク色をまとっていきます。

その秘密は、カロテノイドと呼ばれる色素にあります。ニンジンやトマトなどを赤や黄色に見せる色素の仲間です。フラミンゴは、このカロテノイドを自分の体内だけで一からつくっているわけではありません。食べ物から取り込んでいるのです。

藻類などを直接食べることもあれば、カロテノイドを持つ小さな甲殻類などを食べることもあります。取り込まれた色素は体内で代謝され、羽毛などへ蓄積されていく。そうして、あのピンク色が生まれます。だから、「フラミンゴは赤い藻を食べるからピンクになる」という説明だけでは少し足りません。

より正確には、藻類などがつくった色素が、直接あるいは甲殻類などの食物網を経てフラミンゴへ受け渡され、その羽を彩っていると考えたほうがよさそうです。

エビが赤くなるのも「親戚の色」だった

ここで突然、食卓のエビを思い出してみましょう(笑)。生のエビやカニは、種類によって灰色や褐色など、それほど鮮やかではありません。ところが加熱すると、赤やオレンジ色が目立つようになります。そこにも、カロテノイドの一種であるアスタキサンチンが関係しています。

生きている甲殻類ではアスタキサンチンがタンパク質などと結びついているため、本来の赤橙色が目立たない場合があります。加熱するとタンパク質の構造が変わり、アスタキサンチン本来の色が見えやすくなる。だからエビは、茹でると赤くなる。そしてフラミンゴもまた、甲殻類などを通じてカロテノイドを取り込むことがあります。

つまり、茹でたエビの赤とフラミンゴのピンク。ずいぶん遠く離れた二つの色ですが、化学的には同じカロテノイドという大きな一族につながっているのです。火山の記事でエビまで登場するとは、2億年前のマグマも予想していなかったでしょう(笑)。

では、赤い湖とピンクの鳥は同じ色なのか?

ここは少し慎重になりましょう。アンデス高地にある赤色や赤褐色の湖では、微細藻類や微生物、それらの色素、鉱物や堆積物などが景観の色に関係する場合があります。でも、「赤い湖の藻をフラミンゴが食べる → フラミンゴがピンクになる」という一本の矢印だけで、すべての湖やすべてのフラミンゴを説明することはできません。

フラミンゴの種類や生息地によって食べるものは異なります。藻類、微生物、小さな甲殻類、その他の水生生物。その中に含まれるカロテノイドを食物として取り込むことで、羽毛の色がつくられていきます。だから私たちがアンデスで見ているのは、「赤い水が鳥を染めた」という単純な現象ではありません。もっと長い、生命のつながりです。

色が、生命から生命へ受け渡されていく

ここで少しだけ、視点を変えてみましょう。太陽の光がアンデス高地へ降り注ぐ。藻類などの一次生産者が、そのエネルギーを利用して生きる。そこでつくられたカロテノイドなどの物質が、小さな生き物へ渡る。さらに、それをフラミンゴが食べる。そして最後には――ピンク色の羽になる。

色そのものがバケツリレーされているわけではありません。でも、生命がつくった物質が、食べる・食べられるという関係を通じて次の生命へ渡り、別の場所で色として現れる。そう考えると、フラミンゴの羽は単なる飾りではなく、この土地で何を食べ、どう生きてきたのかが見える色にも思えてきます。

そして、その生命の舞台をつくったのは火山だった

でも私たちは、もともとフラミンゴを見にアンデスへ来たわけではありませんでした。火山を見に来たのです。そこで、ここまで歩いてきた道を振り返ってみましょう。

海洋プレートが南米大陸の下へ沈み込んだ。地下でマグマが生まれた。火山活動が続いた。アンデスの大地が隆起した。火山岩や火山灰が積み重なった。盆地に水がたまった。乾燥した高地で水が蒸発し、塩分やさまざまな成分が濃縮された。そこに、その極端な環境へ適応した生命が暮らすようになった。

そして――その生命を食べるフラミンゴがいる。もちろん実際のアンデス形成史や生態系は、こんな一本の矢印で表せるほど単純ではありません。それでも目の前の風景には、地球内部の営みと生命の営みが同時に存在しています。2億年以上続いてきた地球の活動を追いかけていたら、最後には一羽の鳥の羽へたどり着いた。なんだか不思議です。

アンデスを彩ったのは、マグマだけではなかった

黒い岩。ピンクの岩山。鉄が酸化して現れる赤茶色。エメラルドグリーンの湖。真紅の水。そして、ピンク色のフラミンゴ。最初、私たちはこれらをすべて、「火山がつくった色」だと思っていました。でも、ここまで歩いてくると少し違って見えます。

マグマが岩をつくった。水と空気が岩を変えた。太陽と乾燥が湖を変えた。生命が極限の環境へ入り込み、さらに新しい色を加えた。つまり――アンデスを彩ったのは、マグマだけではなかった。火山が大地というキャンバスをつくり、水と空気と太陽がそこへ色を重ね、そして生命までが、最後の絵筆を握ったのです。

では、この絵を描いた「画家」はいったい誰なのでしょう? 火山でしょうか?水でしょうか?生命でしょうか?それとも――2億年という時間そのものなのでしょうか。最後にもう一度、少し高いところまで登ってみましょう。そこからなら、黒い山も、赤い大地も、鮮やかな湖も、そのほとりに生きるフラミンゴも、一枚の風景として見えるはずです。

<広告の下に続きます>

アンデスを描いたのは誰だったのか?──火山と生命が描き続ける2億年の風景

少し高いところまで登って、振り返ってみましょう。眼下には、これまで歩いてきたアンデスの大地が広がっています。黒い岩。ピンク色の山肌。赤茶色の大地。エメラルドグリーンの湖。真紅の水面。そして、そのほとりにはピンク色のフラミンゴが立っています。

最初にこの風景を見たとき、私たちは思いました。いったい誰が、こんな色をつけたのだろう。その答えを探して、ずいぶん遠くまで歩いてきました。距離だけではありません。時間を遡れば、およそ2億年。でも最後まで歩いてきた今なら、少し違う答えが見えてきます。アンデスを描いた「誰か」など、最初からいなかったのかもしれません。

最初に絵筆を握ったのは、地球の内部だった

物語の始まりは、私たちの足元よりはるかに深い場所でした。南米大陸の西側で、海洋プレートが大陸の下へ沈み込む。地下深くでマグマが生まれる。マグマが上昇し、噴火する。火山灰が積もる。溶岩が冷えて岩になる。また別のマグマが上がってくる。そんな営みが気の遠くなるような時間をかけて繰り返されてきました。

そう考えれば、最初にこの風景へ色の材料を置いたのは、火山だったと言えるでしょう。でも火山が描いたのは、まだ下絵にすぎませんでした。

水と空気が、火山の色を塗り替えた

地表へ現れた岩石は、そのままではありません。雨や地下水に触れる。空気にさらされる。熱水が岩石の中を通る。昼と夜で大きく変わる気温にさらされる。そして長い時間が流れる。鉄を含む鉱物が変化すれば、赤や褐色が現れることがあります。岩石が熱水によって変質すれば、また違った鉱物が生まれます。

風化した岩は削られ、その内部に隠れていた地層が顔を出す。つまり私たちが見ている山の色は、「マグマが何をつくったのか」だけではなく、「その岩がその後どんな時間を過ごしたのか」まで映し出しているのです。火山が置いた色を、水と空気と時間が何度も塗り直してきました。

太陽は、湖を巨大なパレットに変えた

そして高地の窪地に、水がたまりました。岩石や火山性の地層に触れた水には、さまざまな成分が運び込まれます。ところがアンデス高地では、乾燥した空気と強い日射によって水が蒸発していきます。水が減り、溶け込んだ塩類などが濃縮される。また水が入る。そしてまた蒸発する。

長い時間の中で、湖は極端な環境へ変わっていきました。水中の成分、微細な粒子、湖底、光、塩分…。それらが組み合わさって、湖は青や緑などさまざまな表情を見せるようになります。ここまでなら、まだ地球だけが描いているように見えます。ところが、その水の中に――生命がいました。

生命もまた、絵筆を握った

人間なら長く暮らすことのできないような高地の塩湖にも、微生物や藻類などが生きています。その存在が、ときには湖の色にまで関係する。そして湖のほとりにはフラミンゴがやってきます。藻類などが生み出したカロテノイドは、直接、あるいは小さな甲殻類などを経て、食物としてフラミンゴへ届きます。

取り込まれた色素は代謝され、やがて羽毛をピンク色に彩っていく。ここで私たちの旅は、少し不思議な場所へたどり着きます。始まりは、地球内部のマグマでした。その色を追いかけていたら、最後には、一羽の鳥の羽を見ていました。地下深くの地球と、地上を歩く生命。まったく別の物語に思えた二つが、一枚の風景の中で出会ったのです。

では、アンデスを描いたのは誰だったのか?

火山でしょうか。水でしょうか。空気でしょうか。太陽でしょうか。生命でしょうか。きっと、一つを選ぶ必要はありません。火山が大地をつくった。水と空気が岩を変えた。太陽と乾燥が湖を変えた。生命がそこへ新しい色を加えた。そして、それらすべての後ろには、途方もない時間がありました。

黒。赤茶。ピンク。緑。赤。それぞれ別々に見えていた色は、本当は2億年以上続いてきた一つの地球の営みから生まれた風景だったのです。

この絵は、まだ完成していない…

そして最後に、もう一度足元を見てみましょう。地下では今もプレートが動いています。海洋プレートは南米大陸の下へ沈み込み続けています。地球内部の熱は失われていません。岩は風化し続けています。湖の水位も、そこに暮らす生命も変わっていきます。

つまり、私たちが今日見たアンデスは、完成した作品ではありません。2億年かけて描かれてきた絵の、今日の一枚です。明日には、ほんの少しだけ違う絵になっているかもしれません。千年後には、もう少し変わっている。100万年後には、私たちには想像できない風景になっているかもしれません。

それでも地球は、描くことをやめないのでしょう。マグマで大地をつくり、水で岩を変え、風で削り、太陽で湖を乾かし、そして、その場所へ生命が入り込んでいく。そうして地球は今日も、少しずつ色を重ねています。私たちが「絶景」と呼んでいるものは、その長い営みの途中を、ほんの一瞬だけ覗かせてもらったものなのかもしれません。

標高5000メートル。もう一度、アンデスを見渡します。黒い山も。真紅の湖も。ピンク色のフラミンゴも。今度は最初に見たときとは、少し違って見えるでしょう。

アンデスを描いた画家は、一人ではありませんでした。火山も。水も。空気も。太陽も。生命も。そして2億年という時間も。みんなで、今も一枚の絵を描き続けています。その絵の名前を、私たちは――地球と呼んでいるのかもしれません。

タイトルとURLをコピーしました