3億年前の海が、どうして山になったの?|石灰岩がつくったベトナム「変幻の大地」【体感!グレートネイチャー】

3億年前のハロン湾 BLOG
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海からニョキニョキと突き出す、無数の奇岩。世界遺産・ハロン湾の風景は、写真やカレンダーで一度は見たことがあるかもしれません。

でも、不思議です。どうして、こんな形になったのでしょう?さらにベトナム北部を旅してみると、空へそびえる塔のような山々、巨大な洞窟、ぽっかりと穴が開いた「神の目」の山、そして国境を流れ落ちる大瀑布まで――まるで別々の場所で生まれたような絶景が次々と現れます。

ところが、その足元をたどっていくと、意外な共通点が見えてきます。石灰岩です。しかも、その物語の始まりは約3億年前。まだ「ベトナム」という国の形などなかったころ、現在とはまったく違う大陸と海が広がる世界で、石灰岩のもとになる炭酸塩が海に積み重なっていました。

海で生まれた石灰岩が、やがて陸へ上がり、水に溶かされ、削られ、ときには再び海に囲まれていく。その途方もない時間が、いま私たちが「絶景」と呼んでいる風景をつくったのだとしたら――。

3億年前の海は、どうやって山になったのでしょう? NHK「体感!グレートネイチャー」と一緒に、ベトナム北部を1,800km。今回は少しだけ時計を巻き戻して、3億年の旅にも出かけてみましょう。

【放送日:2026年9月21日(月)19:30 -21:00・NHK-BSP4K】

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3億年前、ここは海だったの?

ハロン湾に浮かぶ奇岩も、空へ伸びる塔のような山も、その正体をたどれば「石灰岩」です。では、その石灰岩はどこで生まれたのでしょう?

時計をぐるぐると巻き戻して、およそ3億年前。もちろん、そこに現在のような「ベトナム」はありません。現在の東南アジアを形づくる大陸片は、いまとはまったく違う場所にあり、その周辺には古テチス海と呼ばれる海の世界が広がっていました。

その暖かな浅い海では、海の生物に由来する殻や骨格、炭酸カルシウムを含む泥などが長い時間をかけて堆積していきます。それが固まり、やがて分厚い石灰岩の地層になりました。つまり、いま私たちが見上げているベトナム北部の石灰岩の山には、はるか昔の海の記憶が残されているのです。

ただし、ここでちょっと注意。「3億年前、ベトナムは海の底にありました」……というほど単純ではありません。そもそも現在のベトナムは、最初からひとまとまりの土地だったわけではありません。南中国側やインドシナ側など、異なる歴史を持つ大地が、長い地殻変動の末に現在の姿へ組み上がっていきました。

だから3億年前の地図を広げて、「えーっと、ベトナムはどこかな?」と探しても――。ありません(笑)。まだ「ベトナム」という形になるずっと前。その大地をつくることになる地域の海で、後の絶景の材料となる石灰岩が静かに積み重なっていたのです。

でも、ここで新しい疑問が浮かびます。海の底で生まれた石灰岩が、どうしていま山になっているのでしょう? 石灰岩は、自分で海からはい上がってくるわけではありません。次は、この石灰岩を海から山へ運んだ、地球規模の大きな動きを追いかけてみましょう。

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海の底の石灰岩は、どうやって山になったの?

約3億年前の海で、静かに積み重なっていった石灰岩。でも、どれだけ分厚く積もっても、海の底にあるだけでは、ハロン湾の奇岩にも、空へそびえる山にもなりません。では、その石灰岩を海から持ち上げたのは誰なのでしょう?

ここから動き始めるのが、大地そのものです。当時の東南アジアには、現在のような国境はもちろんありません。現在のベトナム北部を形づくる地域には、南中国側とインドシナ側の大地があり、その間には古テチス海に関係する海洋域が広がっていました。

ところが、その海は永遠には続きません。海洋プレートが沈み込み、大地と大地との距離が少しずつ縮まっていきます。
陸 🌊🌊🌊 陸
だったものが、
陸 🌊 陸
となり、やがて――。
陸💥陸(ドッカン!)

ペルム紀末から三畳紀ごろ、現在の北部ベトナム周辺では大規模な地殻変動が起こりました。その痕跡のひとつが、北西部を走るソンマー縫合帯です。「縫合帯」という名前のとおり、そこには、かつて別々だった大地が接合していった長い歴史の痕跡が残されています。

実際、この地域からは、かつての海洋地殻の一部だったと考えられる岩石も見つかっています。いま山の中にある岩石が、「ここには昔、海がありました」と教えてくれているのです。

もちろん、大陸同士が一度「ドッカン!」とぶつかって、翌朝に山脈が完成したわけではありません(笑)。沈み込み、圧縮、褶曲、断層運動、隆起――。気が遠くなるほど長い地殻変動を経て、海で生まれた石灰岩は変形しながら陸上へ姿を現していきました。

そして、ここが大切です。石灰岩が山になっただけでは、まだ現在の絶景にはなりません。隆起したばかりの石灰岩が、最初からハロン湾のような奇岩の姿をしていたわけではないのです。海の底から陸へ上がった石灰岩を待っていたもの。それは――。水でした。

雨が降る。水が岩の割れ目へ入り込む。地下へ流れる。そして、ほんの少しずつ石灰岩を溶かしていく。硬い岩を相手に、そんなことを何万年、何百万年、さらに長い時間をかけて繰り返したら、いったい何が起きるのでしょう?

次は、ベトナム北部の大地を「絶景」へ変えていった、もう一人の主役を追いかけてみましょう。岩よりずっと柔らかい水が、どうして山の形まで変えられるのでしょう?

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岩より弱い水が、どうして山を削れるの?

海の底で生まれ、地殻変動によって陸へと押し上げられた石灰岩。ここまで来れば、ベトナム北部の絶景は完成――。……ではありません。むしろ、ここからが長いのです。

新しく主役になるのは、巨大なプレートでも、大陸同士の衝突でもありません。雨です。水なんて、岩に比べたらずっと柔らかいもの。手ですくえば指の間からこぼれ落ちてしまいます。そんな水が、どうして巨大な山の形まで変えることができるのでしょう?

実は石灰岩には、ほかの岩石とは少し違った性質があります。雨水は大気中や土壌の二酸化炭素を取り込むことで弱い酸性になり、石灰岩の主成分である炭酸カルシウムを少しずつ溶かしていきます。

一度の雨で山が削れるわけではありません。最初は、岩に入った小さな割れ目。そこへ雨水が入り込みます。ほんの少し溶かす。また雨が降る。また溶かす。それを気の遠くなるような時間、繰り返していくのです。

すると小さかった割れ目は次第に広がり、水はさらに奥へ入り込むようになります。地表には窪地や谷が生まれ、地下には水の通り道ができる。その通り道がさらに大きくなれば、やがて巨大な洞窟へ。

そして地表では、周囲の石灰岩が溶かされて低くなっていく一方、溶け残った部分が塔のようにそびえることがあります。これがタワーカルストです。つまり、塔のような山が下からニョキニョキと生えてきたわけではありません。

大きな石灰岩の大地から、水が少しずつ周囲を引き算していった。そう考えると、あの不思議な景色が少し違って見えてきます。

そして、ここで「カルスト」という言葉も整理しておきましょう。海の底に石灰岩が分厚く積もっただけでは、まだ「カルスト地形」ではありません。その石灰岩が陸上へ現れ、雨水や地下水によって溶かされることで、初めてカルスト特有の地形が発達していくのです。

海で生まれた石灰岩を、大地の力が陸へ運び――。今度は、水が彫刻する。海が材料をつくり、大地が持ち上げ、水が形をつくる。こうしてベトナム北部では、巨大な洞窟や塔のような山々など、石灰岩ならではの景観が生まれていきました。

でも、ここでもう一つ不思議なことがあります。材料は、同じ石灰岩。削っているのも、同じ水。それなのに――。ある場所では塔のような山になり、ある場所では巨大な洞窟になり、山にぽっかりと大きな穴が開いた場所まであります。

どうして同じ石灰岩から、こんなにも違う景色が生まれるのでしょう?
次は、ベトナム北部を1,800kmにわたって彩る、「石灰岩の七変化」を見ていきましょう。

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同じ石灰岩なのに、どうして景色がこんなに違うの?

ここまでたどってくると、ベトナム北部の絶景が生まれる基本的な仕組みは見えてきました。
約3億年前の海で石灰岩が生まれた。地殻変動によって、それが陸上へ現れた。そして雨水や地下水が、気の遠くなるような時間をかけて石灰岩を溶かしていった。

だったら、どこも同じような景色になりそうなものです。ところが――。実際にベトナム北部を旅してみると、そうはなっていません。

ある場所では、石灰岩の山が何本もの塔のようにそびえています。別の場所では、山の内部に巨大な洞窟が広がっています。さらに山腹に大きな穴が開き、向こう側の空まで見えてしまう場所もある。そして川が流れるところでは、水が豪快に落下する滝まで現れます。

同じ石灰岩なのに、どうしてこんなに違うのでしょう?その答えは、「石灰岩だから」だけでは決まりません。石灰岩の厚さや硬さ、地層の傾き。地殻変動によって生じた割れ目や断層。雨の量。川や地下水がどこを流れるのか。そして、大地がどのくらいの速さで隆起し、どのくらい長く侵食を受けてきたのか。

同じ材料でも、そこに重なった時間と環境の履歴が違うのです。たとえば、水が石灰岩の割れ目に沿って地表から下へ入り込めば、地下の通り道が少しずつ広がっていきます。小さな亀裂だったものが水路になり、さらに溶食が進めば大きな空洞になる。それが長い時間をかけて成長したものが、ベトナム北部で見られる巨大な洞窟です。

ところが、同じことが地表側で進むと、違う景色になります。水が割れ目や谷に集中して石灰岩を溶かし、周囲の地面が少しずつ低くなっていく。それでも他の部分よりやや硬く溶け残った部分があれば――。そこだけが高く残る。こうして、まるで大地から巨大な塔が何本も生えているようなタワーカルストがつくられていきます。

つまり、洞窟は「石灰岩の内側」で進んだ水の仕事。タワーカルストは「石灰岩の外側」に現れた水の仕事。同じ水と石灰岩でも、水がどこを通ったかによって、見える景色は大きく変わるのです。

では、山にぽっかりと開いた「神の目」は?これも、まったく別の仕組みで突然穴が開いたとは限りません。石灰岩内部にできた洞窟や水の通り道が拡大し、その後の侵食や崩壊によって一部が開口すれば、巨大な天然の窓やアーチのような地形が残ることがあります。かつては山の内側だった場所が、いつの間にか空とつながってしまう。そう考えると、「神の目」という名前が少し違って見えてきます。

神の目(出典:共同テレビジョン)
神の目(出典:共同テレビジョン)

そして、川が石灰岩地帯を流れれば、また別の物語が始まります。水に溶けやすい石灰岩では、地表を流れていた川が地下へ消えたり、再び地上へ現れたりすることがあります。

一方で、地層や岩盤の状態、断層、隆起などによって川床に大きな段差がつくられれば、水はそこを一気に落下する。番組に登場する中国との国境の大瀑布も、石灰岩の大地と水が出会って生まれた、また別の表情です。

大瀑布(出典:Vetter)
大瀑布(出典:Vetter)

こうして見ていくと、「石灰岩の七変化」の正体が少し見えてきます。石灰岩自身が、勝手に七つの姿へ変身したわけではありません。割れ目がどこにあったのか。水がどこを流れたのか。どこが隆起したのか。どこが溶け、どこが残ったのか。そして、それがどれだけ長く続いたのか。

3億年という時間の中で、それぞれの場所が経験してきた物語が違ったのです。だから、同じ石灰岩でも同じ景色にはならない。そして、その違いこそが、ベトナム北部を「変幻の大地」にしたのでしょう。

でも――。まだ一つ、大きな絶景を忘れています。ハロン湾です。海から石灰岩の塔が無数に突き出す、あの風景。

ここまで読んでくると、新しい疑問が浮かんできます。あの奇岩も、もともと海の中であの形になったのでしょうか?それとも――。一度、陸の上でつくられた山が、再び海へ帰ったのでしょうか?

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海で生まれた山は、どうしてまた海へ帰ったの?

海から何本もの奇岩が突き出す、ハロン湾。ここまで3億年の旅をしてきた私たちは、もう最初とは少し違った目で、この風景を見ることができるかもしれません。一見すると、海が岩を削って、この不思議な形をつくったようにも見えます。でも――。あの山々は、最初から海の中に立っていたわけではありません。

ハロン湾(出典:NHK ONE)

その物語の始まりは、約3億年前の海でした。暖かな海で炭酸塩が積み重なり、分厚い石灰岩になる。大地が動き、海だった場所が陸へと姿を変える。そして陸上へ現れた石灰岩に雨が降り、地下水が流れ、長い時間をかけて岩を溶かしていく。ここまではこれまでの説明通りです。

谷が深くなり、洞窟が生まれ、周囲が削られ、やがて塔のような山々が残っていく。つまり、ハロン湾の奇岩の原型となるカルスト地形は、いったん陸の上でつくられていたのです。では、どうして現在は海の中にあるのでしょう?

ここで、もう一度動いたのが――。海面です。地球が寒冷な氷期に入ると、大量の水が氷として陸上に蓄えられ、海面は低くなります。反対に、気候が暖かくなって氷が融ければ、海面は上昇する。第四紀には、そんな海面の上昇と下降が何度も繰り返されました。

最終氷期の寒冷な時期には、ハロン湾周辺の海面も現在より大幅に低く、いま海になっている場所の多くが陸地として現れていました。そこにあったのは、海に浮かぶ島々ではなく――。石灰岩の山々が並ぶ、陸上のカルスト地形。そして氷期が終わり、海面が上昇していきます。

低い土地へ、海が入ってくる。谷が沈む。低地が沈む。でも、高くそびえていた石灰岩の塔は水面より上に残る。そうして見えてきたのが、現在のハロン湾です。

私は以前、パラオで海の中にある鍾乳洞へ潜ったことがあります。水中に鍾乳石が残っている光景は、少し不思議でした。でも考えてみれば、鍾乳石が育ったのは、そこがまだ空気のある洞窟だった時代。

その後、海面が上昇するなどして洞窟が水没したからこそ、いま私たちは「海の中にある、かつての陸上の風景」を見ることができるのです。

海中鍾乳洞(出典:fishnfins)
海中鍾乳洞(出典:fishnfins)

ハロン湾も、それとどこか似ています。いま海の中にあるからといって、海の中で今の姿になったとは限らない。そう思ってもう一度ハロン湾を見ると、海から突き出した奇岩の一本一本が、まるで長い地球の歴史を語っているように見えてきます。

約3億年前。その石灰岩は、海で生まれました。やがて大地の動きによって陸へ上がり、雨と地下水に削られ、山になりました。そして長い時間の果てに――。海が、もう一度やってきた。海で生まれた石灰岩が、山になり、水に彫られ、そして再び、海に囲まれる。

ハロン湾の絶景をつくったのは、一度の巨大な出来事ではありません。海がつくり、大地が動かし、水が彫り、時間が重なり、そして最後に、海が戻ってきた。そのすべてがそろって初めて、私たちがいま目にしている風景になったのです。

番組のタイトルにある、「変幻の大地」。それは、いろいろな形の奇岩が並んでいるというだけではないのかもしれません。同じ石灰岩が、3億年という時間の中で、置かれた場所や水との出会いによって、まったく違う姿へ変わってきた。その長い物語そのものが、「変幻」なのでしょう。

3億年前の海が、どうして山になったの?その答えを探して旅をしてきたら――。最後に待っていたのは、海で生まれた山が、もう一度海へ帰ってきた風景でした。


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