神が湖の上を歩いた――。
冬の北海道東部では、凍てついた湖面が大きな音を立てて盛り上がり、まるで誰かが歩いた跡のような一本の氷の道が現れることがあります。この不思議な自然現象は「御神渡り(おみわたり)」と呼ばれ、古くから人々はその壮大な姿に畏敬の念を抱き、自然の営みにさまざまな思いを重ねてきました。
今回の『体感!グレートネイチャー』は、北海道・屈斜路湖に現れる世界最大級の御神渡りをはじめ、「氷の華」や「氷の宝石」など、極寒の大地だからこそ生まれる神秘の絶景を巡ります。さらに、神出鬼没といわれる御神渡り誕生の瞬間を記録するため、全面結氷した湖で長期間にわたる撮影にも挑戦。轟音とともに動き出す氷が見せる、地球の鼓動ともいえる壮大なドラマに迫ります。
この記事では、屈斜路湖に刻まれる「神の足跡」と呼ばれた御神渡りの謎や、その背景にある大自然の力、そして北海道東部が育む冬の絶景の魅力を、番組内容とともにご紹介します。
【放送日:2026年8月3日(月)19:30 -21:00・NHK-BSP4K】
【放送日:2026年8月5日(水)15:30 -17:00・NHK-BSP4K】
【放送日:2026年8月10日(月)8:00 -9:30・NHK-BSP4K】
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世界最大級の御神渡りとは?|屈斜路湖に現れる「神の足跡」
北海道東部に広がる屈斜路湖は、日本最大のカルデラ湖として知られています。冬になると湖面は一面の氷に覆われ、その静寂を破るように、ある日突然、大きな轟音とともに一本の氷の筋が現れます。この現象が「御神渡り(おみわたり)」です。
御神渡りは、湖全体が結氷したあと、昼夜の気温差によって氷が膨張と収縮を繰り返し、その力に耐えきれなくなった氷が押し上げられることで生まれます。氷が何メートルもの高さまでせり上がり、一本の道のように湖面を横切る姿は、まるで誰かが湖の上を歩いた足跡のよう。その壮大な光景から、人々は古くから「神が湖を渡った跡」と考え、「御神渡り」と呼ぶようになりました。
屈斜路湖の御神渡りは、長さがおよそ10kmに達することもある世界最大級の規模を誇ります。全面結氷する広大な湖と、北海道東部ならではの厳しい寒さという二つの条件がそろって初めて生まれる、まさにこの土地ならではの自然の芸術です。
今回の『体感!グレートネイチャー』では、この世界最大級の御神渡りを中心に、その誕生の瞬間を記録するという壮大な挑戦が描かれます。
一方でこの記事では、番組で紹介される絶景だけでなく、なぜ人々がこの現象を「神の足跡」と呼び、大切に語り継いできたのかという背景にも目を向けながら、その魅力をたどっていきます。
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「神が歩いた」と人はなぜ思ったのか?|自然への畏敬が生んだ物語
御神渡りは、現在では気温の変化によって湖面の氷が膨張・収縮し、押し上げられることで生まれる自然現象だと考えられています。しかし、科学的な仕組みが分かっていなかった時代、人々は突然湖に現れる巨大な氷の道を前に、どのような思いを抱いたのでしょうか。
静まり返った冬の湖で、ある日突然、地鳴りのような轟音が響き渡り、広い湖面に一本の大きな氷の隆起が現れる――。その光景は、当時の人々にとって人の力では説明できない出来事だったことでしょう。だからこそ、人々はその跡を「神が歩いた道」と呼びました。
さらに興味深いのは、この現象をアイヌの人々も「カムイ パイカイ ノカ(神が歩いた跡)」と呼び、神聖なものとして受け止めてきたと伝えられていることです。
北海道には古くから、山や湖、森や動物など、自然のあらゆるものにカムイ(神)が宿るという世界観が息づいてきました。屈斜路湖もまた、人々が自然への深い畏敬の念を抱いてきた場所の一つです。
和名の「御神渡り」と、アイヌ語の「カムイ パイカイ ノカ」。文化は異なっても、人々が巨大な氷の道を前に「神が歩いた跡」と感じたことは共通しています。それは、人知を超えた自然の力に対する畏敬の心が、時代や文化を越えて受け継がれてきたことを物語っているのかもしれません。
日本各地には、山や巨岩、滝や巨木など、人知を超えた自然に神々の存在を感じてきた歴史があります。北海道東部もまた、雄大な山々や湖、火山、そして厳しい冬とともに人々が暮らしてきた土地です。こうした自然への深い敬意は、この地域に受け継がれてきたさまざまな文化や伝承にも息づいています。
今回の『体感!グレートネイチャー』は、御神渡り誕生の瞬間を科学の視点から追いかけます。しかし、その壮大な映像を見ていると、昔の人々が「神が歩いた」と語り継いだ気持ちも、どこか理解できるような気がしてきます。
科学は自然の仕組みを教えてくれます。一方で、伝承は自然とどう向き合い、どう敬ってきたのかを教えてくれます。御神渡りは、その二つが美しく重なり合う、北海道が世界に誇る冬の奇跡なのかもしれません。
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氷が咲き、宝石が輝く|極寒だからこそ生まれる北海道東部の絶景
冬の北海道東部では、厳しい寒さがさまざまな「氷の芸術」を生み出します。今回の『体感!グレートネイチャー』でも紹介される「氷の華」や「氷の宝石」は、その代表ともいえる現象です。
「氷の華」は、風の弱い寒い朝、湖面や水辺で水蒸気が凍りつき、花びらを広げたような繊細な結晶をつくる自然現象です。一つひとつは小さくても、無数の結晶が咲き誇る様子は、まるで冬だけに現れる花畑のよう。ほんのわずかな気温や湿度の違いで姿が変わるため、同じ景色に二度と出会えないことも珍しくありません。

一方、「氷の宝石」は、透明度の高い氷に太陽の光が差し込むことで、青や緑、時には虹色にも輝いて見える幻想的な光景です。氷の中で光が屈折や反射を繰り返すことで生まれる自然の輝きは、まるで誰かが宝石を湖畔に散りばめたような美しさを見せてくれます。
十勝川の河口に位置する豊頃町で見られる「氷の宝石(ジュエリーアイス)」は、太平洋に面した豊頃町の大津海岸に打ち上げられた氷の塊のことです。毎年1月中旬〜2月下旬頃にしか見られない、世界的にも珍しいといわれている自然現象です。
これは、十勝川の氷が大津海岸に打ち上げられてできたものですが、いわゆる「流氷」とはまったく別物です。ジュエリーアイスと流氷の大きな違いは、氷の色と透明度にあります。
流氷はアムール川が凍った氷の上に降り積もった雪が固まったもので、一般的に空気を多く含んでいるので白色ですが、ジュエリーアイスは十勝川の水が凍ったもので透明なので、光を受けて輝く様が宝石のように綺麗に輝き、波で角が削られて丸くなり、宝石のような形になります。

こうした絶景は、ただ寒いだけでは生まれません。澄んだ空気、安定した低温、風の強さや湿度、そして湖の水質など、さまざまな自然条件が偶然にも重なったときだけ現れる、一瞬の芸術です。
今回の『体感!グレートネイチャー』は、こうした神秘的な風景を美しい映像で紹介するだけではありません。その背景にある自然の仕組みにも光を当て、「なぜ、この景色が生まれるのか」を科学の視点から解き明かしていきます。
自然は、ときに芸術家のように美しい作品をつくり出します。そして科学は、その作品がどのように生まれたのかを静かに教えてくれます。北海道東部の冬は、厳しさと美しさが共に息づく、地球が創り上げた壮大な美術館なのかもしれません。
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御神渡り誕生の瞬間|地球は静かに生きている
御神渡りは、「いつ現れるのか」が分かりません。湖面が全面結氷し、気温の変化によって氷に大きな力が加わることで生まれる現象ですが、その瞬間を正確に予測することは難しく、何日、何週間待っても起こらないこともあります。だからこそ、その誕生の瞬間を映像として記録することは容易ではありません。
今回の『体感!グレートネイチャー』では、全面結氷した屈斜路湖にカメラを据え、御神渡りが生まれる瞬間を待ち続けます。静まり返った氷の世界。風の音だけが響く湖畔。そして、ある瞬間――。湖全体を揺るがすような轟音とともに、静かだった氷がゆっくりと動き始めます。それは、まるで眠っていた大地が目を覚ましたかのような光景です。
私たちは普段、大地や湖は動かないものだと思っています。しかし地球は、目には見えないところで絶えず呼吸を続けています。御神渡りは、その「地球が生きている証」を、ほんの数秒だけ私たちに見せてくれる奇跡なのかもしれません。
今回の映像の裏側には、その一瞬を信じて待ち続けた撮影スタッフの時間があります。自然は、人間の都合では動いてくれません。だからこそ、自然と向き合う人は、待つことを知っています。その忍耐があるからこそ、私たちはテレビの前で、めったに見ることのできない地球の鼓動を目撃できるのです。
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北海道の冬は「厳しさ」ではなく「贈り物」だった
北海道の冬と聞くと、多くの人は厳しい寒さや吹雪、雪深い暮らしを思い浮かべるかもしれません。もちろん、その冬は決して楽なものではありません。しかし、その厳しさがあるからこそ、この季節にしか出会えない風景があります。
湖面に咲く氷の華。光を受けて七色に輝く氷の宝石。そして、神が歩いた跡と語り継がれてきた御神渡り。どれも、人が作り出したものではなく、地球が長い時間をかけて育んだ冬からの贈り物です。
今回の『体感!グレートネイチャー』は、そうした冬の絶景を紹介するだけではありません。その一つひとつが生まれる理由を科学の目で見つめ、そこに暮らしてきた人々が自然へ抱いてきた畏敬の念にもそっと寄り添っていきます。
自然を知ることは、感動を失うことではありません。むしろ、その仕組みを知るほどに、一枚の氷、一筋の光、湖に響く轟音までもが、かけがえのない奇跡に思えてきます。
北海道の冬は、人を試す季節であると同時に、人の心を豊かにしてくれる季節でもあります。だからこそ、この番組を見終えたあとには、極寒の大地を「寒い場所」としてではなく、地球が静かに息づく場所として思い出していただけたら幸いです。