毎日のお弁当が、なぜか少しだけおいしそうに見える。そんな不思議な魅力を持つのが、日本の伝統工芸「曲げわっぱ」だ。
杉やひのきの木肌を生かして作られる曲げわっぱは、軽くて美しく、使うほどに味わいを深めていく。お弁当箱として人気を集める一方で、飯切(はんぎり)や和せいろ、さらにはモダンなトレーやぐいのみなど、その世界は今も広がり続けている。
秋田・大館では、良質な秋田杉を使いながら、職人たちが伝統の技を受け継いできた。そこには木を無駄なく生かし、人の暮らしに寄り添う日本ならではの美意識が息づいている。
今回の「美の壺」は、木肌のぬくもりと職人の技が生み出す曲げわっぱの世界へ。毎日の食卓を少し豊かにしてくれる、その奥深い魅力に迫る。
【放送日:2026年6月3日(水)19:30 -20:00・NHK-BSP4K】
【放送日:2026年6月8日(月)13:00 -13:30・NHK-BSP4K】
【放送日:2026年6月9日(火)19:30 -20:00・NHK-BS】
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壺① 木肌を味わう|曲げわっぱが愛される理由
曲げわっぱの魅力を語るとき、多くの人がまず口にするのが「ご飯がおいしく感じられる」ということだ。
見た目の美しさだけではない。ふたを開けた瞬間に広がる杉やひのきのほのかな香り。手に取ったときのやさしいぬくもり。木肌ならではの心地よい手触り。曲げわっぱには、五感で楽しむ魅力が詰まっている。
特にお弁当箱として人気を集める理由のひとつが、木の持つ調湿性だ。余分な湿気を吸い取りながら、乾燥しすぎないよう適度な水分を保ってくれるため、ご飯がべたつきにくく、時間が経ってもおいしさを保ちやすい。だからこそ、昔から多くの人に愛されてきたのである。
また、曲げわっぱは料理を引き立てる力も持っている。真っ白なご飯。鮮やかな玉子焼き。色とりどりのおかず。木のやわらかな色合いが背景となることで、料理そのものが美しく見えるのだ。
そこには派手さはない。しかし、毎日使うほどに木肌の風合いが深まり、自分だけの道具へと育っていく楽しみがある。曲げわっぱが長く愛され続けてきた理由は、その美しさだけではない。木とともに暮らす心地よさを、そっと教えてくれる器だからなのだ。
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壺② 一枚の板から生まれる美|職人が受け継ぐ曲げの技
曲げわっぱの美しさは、そのなめらかな曲線にある。角のないやさしい形。継ぎ目を感じさせない自然な曲面。しかし、その姿は最初から存在しているわけではない。
もともとは一枚の杉板から始まる。秋田・大館の曲げわっぱに使われるのは、木目が美しく均一な秋田杉。職人たちは、その木目を見極めながら薄く板を削り出していく。
そして板を蒸気で温め、木の繊維をやわらかくしたうえで、慎重に曲げていく。ほんの少し力を入れすぎれば割れてしまう。逆に弱すぎれば思い描いた形にならない。そこには長年の経験によって培われた職人の感覚が欠かせない。
曲げられた板は桜の樹皮などで継ぎ合わされ、美しい円や楕円へと姿を変えていく。木の個性を生かしながら、人の手で形を与える。
その工程は、木を支配するのではなく、木と対話しているようにも見える。だからこそ曲げわっぱには、不思議なやわらかさが宿るのだろう。一枚の板が器へと生まれ変わるまでには、素材の力と職人の技、その両方が必要なのである。
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壺③ 食卓に広がる木のぬくもり|現代に息づく曲げわっぱ
曲げわっぱというと、お弁当箱を思い浮かべる人が多いかもしれない。しかし、その世界は今、食卓全体へと広がっている。和せいろや飯切(はんぎり)、トレー、ぐいのみ――。伝統の技術はさまざまな形へ姿を変えながら、現代の暮らしに溶け込んでいるのだ。
近年では、直線を生かしたモダンなデザインや、洋食にも似合うスタイリッシュな器も登場している。それでも共通しているのは、木のぬくもりを感じられること。
手に触れた瞬間のやさしさ。ほのかに漂う木の香り。使うほどに深まる風合い。曲げわっぱは単なる道具ではなく、暮らしの中で育っていく存在なのである。
忙しい毎日の中で、私たちは便利さを優先しがちだ。けれど木の器を手に取ると、ほんの少しだけ時間の流れがゆるやかになる。
自然の恵みを感じながら食事を楽しむ。そんな豊かな時間を思い出させてくれるのも、曲げわっぱの魅力なのだろう。
受け継がれてきた技と、新しい感性。曲げわっぱは今も進化を続けながら、私たちの食卓に木のぬくもりを届けている。