なぜ九州には巨大カルデラが集まっているの?|阿蘇や鹿児島湾から鬼界カルデラへ、海底に眠るマグマの謎【フロンティア】

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九州には、雄大な火山の風景が広がっています。世界有数の規模を誇る阿蘇カルデラ。桜島が噴煙を上げる鹿児島湾。そして、鹿児島の南の海底には、巨大な鬼界カルデラが隠されています。

こうして地図を眺めてみると、不思議なことに気づきます。なぜ九州には、これほど多くの巨大カルデラが集まっているのでしょうか?その背景には、フィリピン海プレートの沈み込みによって生まれるマグマと、日本列島の複雑な地殻の活動があります。

そして今、研究者たちが注目しているのが、鹿児島県の南方に広がる鬼界カルデラです。約7300年前の縄文時代、ここでは日本列島の歴史に残る超巨大噴火が起こりました。その後、長い年月が流れた海底の地下で、いったい何が起きているのでしょうか?

NHK『フロンティア』「巨大カルデラ噴火~激動の大地の宿命~」では、10年にわたる海底探査によって明らかになってきた巨大なマグマだまりと、光ファイバーを使った新たな観測技術が紹介されます。

ただし、巨大なマグマだまりが見つかったからといって、近い将来に超巨大噴火が起こると決まったわけではありません。地球の活動は、私たち人間の時間感覚とは比べものにならないほど長い時間をかけて進んでいます。

巨大噴火を起こした火山の地下では、その後、何千年、何万年という時間の中で、どのような変化が続いているのでしょうか? 今回は、阿蘇や鹿児島湾に残された巨大噴火の痕跡をたどりながら、鬼界カルデラの地下に隠された謎と、日本列島を形づくる大地の営みに迫ってみたいと思います。

【放送日:2026年11月10日(火)21:50 -22:50・NHK-BSP4K】

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九州には、なぜこれほど多くの火山が集まっているの?

九州の地図を眺めてみると、火山が多いことに気づきます。熊本県には、世界有数の規模を誇る阿蘇カルデラ。宮崎県と鹿児島県の県境には霧島連山。そして鹿児島湾には、今も噴煙を上げる桜島があります。さらに南へ目を向ければ、薩摩硫黄島や口永良部島など、海に浮かぶ火山島もあります。

なぜ九州には、これほど多くの火山が集まっているのでしょうか。実は、これらの火山は、まったく無関係な場所に偶然生まれたわけではありません。その秘密は、九州の地下深くにあります。九州の東側では、海底をつくる「フィリピン海プレート」が、陸側のプレートの下へ沈み込んでいます。

プレートとは、地球の表面を覆っている巨大な岩盤のことです。海のプレートが地下深くへ沈み込むと、岩石に含まれていた水が周囲のマントルへ放出されます。すると、その水の働きによってマントルの岩石が融けやすくなり、一部が融けてマグマが生まれます。こうして生まれたマグマが上昇し、地表まで達することで火山が形成されるのです。

プレート沈み込みによる火山活動の概念図
プレート沈み込みによる火山活動の概念図

ただし、海のプレートが沈み込んでいる場所なら、どこにでも火山ができるわけではありません。沈み込んだプレートが地下およそ100〜150kmの深さに達するあたりでは、マグマが生まれやすい条件が整います。そのため、火山はプレートが沈み込んでいる境界の海溝から一定の距離を置いた場所に、帯状に分布する傾向があります。

この火山分布の海溝側の境界を結んだ線が、「火山フロント」です。九州では、阿蘇や霧島、桜島などの火山が、この火山フロント付近に連なっています。つまり、九州に火山が多いのは、地下に沈み込むフィリピン海プレートの活動と深く関係しているのです。

火山フロント(出典:「西方浄土筑紫嶋」より)
火山フロント(出典:「西方浄土筑紫嶋」より)

もっとも、フィリピン海プレートは九州だけでなく、四国や紀伊半島の地下にも沈み込んでいます。それなのに、近畿地方には活火山がありません。実は、沈み込むプレートの温度や年代、地下で水が放出される条件などが地域によって異なり、マグマのできやすさにも違いが生まれると考えられています。

九州に火山が集中する背景には、こうした地下の条件も関係しているのです。では、火山が多いことと、巨大カルデラが多いことは同じなのでしょうか。ここには、もう一つ考えなければならない問題があります。

普通の火山活動では、マグマの一定量が地表に噴き出し、溶岩や火山灰が積み重なって火山が成長します。一方、巨大カルデラは、大量のマグマが一度の噴火活動で放出され、地下のマグマが存在していた領域の上部が大きく陥没することで形成されます。そのためには、地下に大量のマグマが蓄積される必要があります。カルデラとはスペイン語で「鍋」を意味します。

九州に火山が多い理由は、プレートの沈み込みから説明できます。しかし、なぜ阿蘇や南九州で、巨大カルデラを生み出すほどのマグマが蓄積されたのかは、それだけでは説明できないのです。

そして、そんな巨大噴火の痕跡が、現在の鹿児島湾にも残されています。桜島がそびえるあの美しい湾の地形には、私たちが普段目にしている風景からは想像しにくい、壮大な火山活動の歴史が隠されているのです。

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鹿児島湾は、巨大カルデラがつくった海なの?

鹿児島市から桜島を眺めると、海の向こうに大きな火山がそびえています。桜島といえば、今も噴火を繰り返す日本を代表する活火山です。けれど、ここで少し視点を変えてみましょう。桜島が浮かぶ鹿児島湾(錦江湾)そのものは、どのようにしてできたのでしょうか?

実は、鹿児島湾は、巨大な火山活動によって生まれたカルデラと深い関係がある海なのです。カルデラとは、大量のマグマが噴出したあと、地下のマグマだまりの上にある地盤が陥没するなどして形成される、大きなくぼ地のことです。熊本県の阿蘇カルデラは、その代表的な例でしょう。

阿蘇では、約27万年前から約9万年前にかけて、4回の大規模な火砕流噴火が起こりました。その結果、東西約18km、南北約25kmにも及ぶ巨大なカルデラが形成されました。

現在は、その内側に町や田畑が広がり、中央には中岳などの火山がそびえています。つまり、私たちが目にしている阿蘇の雄大な風景は、巨大噴火のあとに長い時間をかけてつくられてきたものなのです。

では、鹿児島湾はどうでしょうか。鹿児島湾の北側、桜島より奥に広がる海は、「姶良(あいら)カルデラ」と呼ばれています。直径およそ20kmのこのカルデラでは、約3万年前に巨大な噴火が起こりました。このとき発生した「入戸火砕流」は南九州の広い範囲を覆い、大量の火山灰や軽石などが堆積しました。

鹿児島県内で広く見られる「シラス台地」も、こうした火山噴出物によって形成された地形です。さらに、この噴火で放出された細かな火山灰は、風に運ばれて日本列島の広い範囲に降り積もりました。各地の地層の中に残る「姶良Tn火山灰(AT火山灰)」は、現在でも約3万年前という時代を知るための重要な手がかりになっています。

そして、姶良カルデラの巨大噴火が終わったあと、その南側で新たな火山活動が始まりました。それが、現在の桜島です。桜島は、姶良カルデラをつくった巨大噴火よりもあとに成長した火山なのです。つまり、桜島の背後に広がる鹿児島湾の奥深い海も、桜島そのものも、異なる時代の火山活動によって生まれたものだったんですね。

さらに鹿児島湾を南へ進むと、今度は「阿多(あた)カルデラ」と呼ばれる巨大噴火の痕跡があります。阿多カルデラは、現在の鹿児島湾南部から薩摩半島南部にかけて広がる火山地域と関係しています。およそ10万年前には大規模な噴火が起こり、大量の火砕流や火山灰が放出されました。

ただし、阿多カルデラの地形は、阿蘇や姶良ほど単純に一つの輪郭で示せるものではありません。複数の噴火や地形の変化が重なっているため、その範囲や形成過程についても研究が続いています。

こうして見ると、鹿児島湾は、一度の巨大噴火でぽっかりと穴が開き、そこへ海水が流れ込んでできた単純な地形ではないことがわかります。北側には姶良カルデラ、南側には阿多カルデラに関係する火山地形があり、長い年月にわたる火山活動や地殻の変化が、現在の湾の姿をつくってきたのです。

そして、この巨大カルデラの連なりは、鹿児島湾で終わりではありません。さらに南へ約60km、薩摩半島と屋久島の間の海底には、「鬼界カルデラ」があります。海面からは、その巨大な地形を直接見ることはできません。けれど、その一部は薩摩硫黄島や竹島として、今も海の上に姿を現しています。

阿蘇、姶良、阿多、そして鬼界。これらの巨大カルデラは、同じ一つの噴火でできたわけでも、地下で一つのマグマだまりにつながっているわけでもありません。それぞれが異なる時代に、独自の火山活動を繰り返してきたのです。

鹿児島湾の美しい海の景色は、何十万年もの間に繰り返された巨大噴火の歴史を、今に伝えているのかもしれません。そして、その南の海底にある鬼界カルデラでは、約7300年前、縄文時代の日本列島に大きな影響を及ぼす巨大噴火が起こりました。次は、その噴火によって何が起こったのかをたどってみましょう。

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7300年前、鬼界カルデラでは何が起こったの?

鹿児島県の薩摩半島から南へ約40km。屋久島との間に広がる海の底には、東西約20km、南北約18kmにも及ぶ巨大な鬼界カルデラがあります。その北側には、薩摩硫黄島や竹島が海面上に姿を現していますが、カルデラの大部分は海底に隠されています。

鬼界カルデラ(出典:神戸大学)
鬼界カルデラ(出典:神戸大学)

今から約7300年前、縄文時代の日本列島で、この鬼界カルデラが巨大噴火を起こしました。「鬼界アカホヤ噴火」と呼ばれる噴火です。その規模は、私たちが普段ニュースで目にする火山の噴火とは、まったく異なるものでした。

噴火は、軽石や火山灰を大量に噴き上げる爆発的な活動から始まったと考えられています。噴煙は成層圏にまで達し、大量の火山灰が上空の風に運ばれて、日本列島の広い範囲へ降り注ぎました。そして噴火がさらに激しくなると、高温の火山ガスや火山灰、軽石などが一体となった「火砕流」が発生しました。

火砕流は海を越え、薩摩半島や大隅半島、屋久島などにまで到達したと考えられています。海に囲まれた火山だからといって、火砕流の影響が海の中だけにとどまるわけではなかったのです。さらに近年の研究では、海に流れ込んだ火砕流の一部が海水と混ざり、海底を広がる密度流となって、広大な範囲に噴出物を堆積させたことが明らかになりました。

2024年に神戸大学の研究チームが発表した調査では、鬼界カルデラの周辺海底4500平方キロメートル以上に、噴火に由来する堆積物が広がっていることが確認されています。海底に残された噴出物は、少なくとも71立方キロメートル。さらに広域に降り積もった火山灰などを合わせると、噴出物の総量は332〜457立方キロメートル以上と推定されました。

これは、約1万1700年前から現在までの「完新世」に起こった噴火として、世界最大規模にあたります。ただし、これは火山灰や軽石などを含む噴出物の体積であり、地下に存在していた液体のマグマの体積をそのまま表した数字ではありません。

それでも、7300年前の鬼界アカホヤ噴火が、地球の歴史の中でも非常に大きな噴火だったことは間違いありません。そして、この噴火の痕跡は、今も日本列島の地層に残っています。「鬼界アカホヤ火山灰」と呼ばれる火山灰は、九州から東北地方にかけて広く分布しています。

考古学では、この火山灰の層が、縄文時代の遺跡の年代を調べるための重要な手がかりになっています。火山灰の下にある遺物は噴火以前のもの、上にある遺物は噴火以後のもの。そのように、巨大噴火の痕跡が、遠く離れた地域の歴史を結びつける目印になっているのです。

では、当時の人々には、どのような影響があったのでしょうか? 約7300年前の南九州には、すでに縄文時代の人々が暮らしていました。豊かな森や海の恵みを利用しながら、土器を作り、集落を営んでいた人々です。しかし、鬼界アカホヤ噴火によって、南九州の広い地域は火砕流や大量の火山灰に覆われました。

森林や水辺の環境が大きく変わり、人々の生活の場にも深刻な影響が及んだと考えられています。実際に、南九州の遺跡では、アカホヤ火山灰の堆積を境に、土器の様式や遺跡の分布などに変化が見られます。

ただし、ここで注意したいことがあります。巨大噴火が起こったからといって、南九州の縄文人が一人残らず姿を消したと断定できるわけではありません。

火砕流が直接到達した地域と、火山灰が降り積もった地域では、被害の程度も異なります。また、噴火後の人々の移動や、生活環境の回復についても、考古学的な研究が続いています。確かなのは、この巨大噴火が、当時の南九州の自然環境と人々の暮らしに、大きな転換をもたらしたということです。

そして、ここで一つの疑問が生まれます。これほど大量のマグマを噴き出したあと、鬼界カルデラの地下はどうなったのでしょうか? 噴火によって、マグマはすべてなくなってしまったのでしょうか? それとも、長い年月の間に、地下では新たなマグマが供給されてきたのでしょうか?

約7300年前の巨大噴火は終わりました。しかし、鬼界カルデラという火山の活動そのものが終わったわけではありません。その地下で今、何が起きているのか。研究者たちは、海底に残された噴火の痕跡と、地下を伝わる地震波を手がかりに、その謎へ迫ろうとしているのです。

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巨大噴火から7300年、地下では何が起きているの?

約7300年前、膨大な量のマグマを噴き出した鬼界カルデラ。その巨大噴火が終わったあと、地下のマグマはどうなったのでしょうか? すべて噴き出して空っぽになったのか、それとも地下深くから新たなマグマが供給され続けているのでしょうか?

その答えを探すのは、簡単なことではありません。鬼界カルデラの大部分は海底にあります。陸上の火山のように地表を歩いて岩石を調べることもできず、地下数キロメートルまで掘削してマグマを直接確かめることも、容易ではありません。

そこで研究者たちは、調査船を使って海底の地形を測り、岩石を採取し、地震波が地下を伝わる様子を調べてきました。こうした長年の探査によって、鬼界カルデラの地下に隠された姿が、少しずつ明らかになってきたのです。

まず研究者たちが注目したのは、カルデラの内側にある巨大な盛り上がりでした。2018年、神戸大学の研究チームは、鬼界カルデラの海底に、体積32立方キロメートルを超える巨大な溶岩ドームが存在することを報告しました。溶岩ドームとは、地下から上昇した粘り気の強いマグマが、火口付近に盛り上がるようにして形成する地形です。

しかも、この溶岩ドームは、7300年前の巨大噴火よりもあとに形成されたものだとわかりました。つまり、あれほどの巨大噴火が起こったあとにも、鬼界カルデラでは新たなマグマが上昇し、海底の地形を変えていたのです。

さらに、溶岩ドームを構成する岩石を調べると、7300年前の巨大噴火で噴き出したマグマとは、化学組成が異なることがわかりました。このことは、巨大噴火のあと、地下に新しいマグマが供給されてきた可能性を示しています。では、そのマグマは現在、どこに、どれほど存在しているのでしょうか?

ここで重要になるのが、「地震波」を利用した地下探査です。地震波は、地下を伝わる振動のことです。その伝わる速さは、岩石の種類や温度、内部に液体が含まれているかどうかによって変化します。一般に、高温で一部が融けた岩石の中では、地震波の伝わる速度が遅くなることがあります。

研究者たちは、この性質を利用して、直接見ることのできない地下の構造を調べるのです。2026年に発表された神戸大学と海洋研究開発機構(JAMSTEC)の共同研究では、調査船「かいめい」を使い、鬼界カルデラを横断する約175kmの測線に沿って、39台の海底地震計を設置しました。

そして、調査船から人工的に地震波を発生させ、地下を通って海底地震計に届くまでの時間を詳しく解析しました。いわば、地震波を使って地下の断面を描き出すような調査です。その結果、鬼界カルデラの地下約2.5〜6kmに、周囲よりも地震波の速度が遅い、大規模な領域が見つかりました。

研究チームは、その速度の違いを、地下の温度や岩石が融けている割合などから解析しました。そして、この領域には、岩石の一部が融けた「部分溶融したマグマだまり」が存在すると推定したのです。

研究で見えてきた地下の姿の模式図
(※実際の地下構造や深さの縮尺を再現したものではありません)
研究で見えてきた地下の姿の模式図
(※実際の地下構造や深さの縮尺を再現したものではありません)

ただし、ここで少し注意が必要です。「巨大なマグマだまり」と聞くと、地下に真っ赤な液体のマグマが湖のようにたまっている姿を想像するかもしれません。しかし、今回見つかったのは、そのような完全に液体で満たされた空間ではありません。研究チームが推定した岩石の溶融度は、主に3〜6%程度で、最大でも約10%でした。

つまり、地下の岩石の大部分は固体のままで、その一部が融けている状態だと考えられているのです。そして、この部分溶融した領域は、少なくとも内側のカルデラの幅に匹敵する、約12kmもの広がりを持っていました。

巨大な噴火のあとに、再び大規模なマグマだまりが形成されていることを示す、重要な発見です。ただし、地震波の解析によって地下の状態を推定できても、そこに存在する液体のマグマの総量を、正確に測りきれるわけではありません。マグマだまりの大きさと、実際に噴火で放出され得るマグマの量も、同じではないのです。

さらに、研究者たちは、鬼界カルデラの過去の噴火にも注目しています。2024年には、地球深部探査船「ちきゅう」によって海底から採取された地層を分析し、約9万5000年前の巨大噴火から7300年前の鬼界アカホヤ噴火に至るまで、地下でマグマがどのように蓄積されてきたのかを調べた研究成果が発表されました。

その結果、7300年前の巨大噴火につながる新たなマグマの供給は、少なくとも約4万3000年前には始まり、約1万6000年前から約9000年をかけて、本格的にマグマだまりが成長したと考えられています。巨大噴火は、ある日突然、何の準備もなく起こったわけではなかったのです。

地下では、私たちの想像を超える長い時間をかけて、マグマが供給され、蓄積されていました。そして、7300年前の巨大噴火のあとにも、新たなマグマの供給が起きていたことが、最新の研究によって見えてきました。

では、現在見つかっている巨大なマグマだまりは、将来の巨大噴火につながるのでしょうか? それを判断するためには、地下の状態を一度調べるだけでは十分ではありません。マグマだまりが時間とともにどのように変化しているのか、継続して観測する必要があります。

そこで今、鬼界カルデラでは、海底の光ファイバーを利用した新しい観測技術にも期待が寄せられています。目に見えない海底の地下で、マグマはどのように動いているのでしょうか? そして、私たちは、その変化をどこまで捉えることができるのでしょうか?

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海底のマグマの動きは、どこまで見えるようになるの?

鬼界カルデラの地下に、巨大なマグマだまりが存在している。そんなニュースを聞くと、少し不安になる人もいるかもしれません。地下にマグマがたまり続け、やがて限界に達すると、一気に噴き出してしまう。まるで風船を少しずつ膨らませて、最後に破裂させるような光景を想像してしまいそうです。

けれど、実際のマグマだまりは、風船のような単純な仕組みではありません。地下の岩石は、温度や圧力によって性質が変わります。マグマも、供給されるだけでなく、冷えて固まったり、周囲の岩石と反応したりしながら、長い時間をかけて変化しています。

しかも、今回の鬼界カルデラの研究で見つかったのは、地下の岩石の一部が融けている領域でした。その大部分は固体のままであり、巨大な空洞に液体のマグマが満たされているわけではありません。では、現在のマグマだまりは、次の巨大噴火が近づいていることを意味するのでしょうか。

ここで思い出したいのが、7300年前の鬼界アカホヤ噴火に至るまでの長い歴史です。研究によれば、その巨大噴火につながるマグマの供給は、少なくとも約4万3000年前には始まっていました。そして、約1万6000年前から約9000年前にかけて、地下のマグマだまりが大きく成長したと考えられています。

私たち人間にとって、7000年という時間は気の遠くなるような長さです。日本列島では縄文時代から弥生時代、古代、中世、近世を経て、現代に至るまで、社会も暮らしも大きく変わってきました。けれど、地球の内部では、そうした長い時間をかけて、ようやく一つの巨大噴火に至る準備が進んでいたのかもしれません。

人間の一生と、巨大カルデラが活動する時間の尺度は、まったく違うのです。もちろん、過去に数千年以上かかったからといって、次の巨大噴火まで同じ時間が必要だとは限りません。現在のマグマだまりが、いつ、どのような噴火につながるのかを、正確に予測することはできないのです。

だからこそ、研究者たちは、地下で起こる小さな変化を捉えようとしています。そのための新しい方法の一つが、海底の光ファイバーを利用した観測です。光ファイバーといえば、インターネットなどの通信に使われる細いケーブルを思い浮かべるでしょう。実は、この光ファイバーを、地震や地下の振動を捉えるセンサーとして利用する技術が発展しています。

「DAS(分布型音響センシング)」と呼ばれる技術です。光ファイバーの中にレーザー光を送り、内部でわずかに散乱して戻ってくる光の変化を調べることで、ケーブルに沿った振動やひずみの変化を捉えます。一本の光ファイバーを、数多くの観測点が並んだ長いセンサーのように利用できるのです。

これは、海底に広がる鬼界カルデラのような場所では、特に期待される技術です。陸上なら地震計を設置して観測できますが、広大な海底に多数の観測機器を設置し、長期間維持するのは簡単ではありません。しかし光ファイバーを利用すれば、これまで観測が難しかった海底の微小な振動を、より細かく捉えられる可能性があります。

ただし、光ファイバーでマグマそのものを直接見ることができるわけではありません。観測できるのは、地下で起こる地震や振動などの変化です。その情報を地震波による地下構造の解析や、海底地形の調査などと組み合わせることで、マグマだまりの状態を理解するための手がかりが増えていくのです。

では、観測技術が進歩すれば、巨大噴火が起こる日時まで予測できるようになるのでしょうか? 残念ながら、現在の科学では、そこまで正確な予測はできません。地下にマグマが存在することと、それが噴火に至ることの間には、まだ十分に解明されていない過程があるからです。

それでも、観測を続ける意味はあります。地下のどこにマグマが存在するのか。その状態は時間とともに変わっているのか。どのような変化が、火山活動の活発化と関係しているのか。一つひとつの疑問に答えていくことで、巨大カルデラという火山の仕組みを、少しずつ理解できるようになるからです。

7300年前、鬼界カルデラでは、縄文時代の人々の暮らしを大きく変える巨大噴火が起こりました。そして現在、その海底には新しい溶岩ドームがあり、地下には大規模なマグマだまりが存在していることが明らかになってきました。

けれど、それは巨大噴火が間近に迫っているという意味ではありません。むしろ、研究が進むほど、巨大噴火が起こるまでには、私たちの想像を超える複雑な過程があることが見えてきます。阿蘇の雄大なカルデラも、桜島がそびえる鹿児島湾も、そして鬼界カルデラの海底も…。

それぞれが、何万年、何十万年という時間をかけて形づくられてきた風景です。私たちが生きる数十年、百年という時間は、地球にとってはほんの一瞬なのです。それでも、その一瞬を生きる私たちが、地球の長い歴史を調べ、地下のわずかな振動に耳を澄ませることには、大きな意味があります。

目に見えない海の底で、今も静かに続いている地球の営み。その姿を知ろうとすることが、いつか巨大カルデラの謎を解き明かすことにつながっていくのでしょう。


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