夜の長良川に、篝火(かがりび)が揺れます。暗い川面を照らしながら進む鵜舟(うぶね)。その先で、鵜匠(うしょう)に導かれた鵜たちが、水の中へ勢いよく潜っていきます。
岐阜・長良川の鵜飼いは、1300年以上続くともいわれる日本の伝統漁法です。けれど今、人々を惹きつけているのは、単なる“古い漁”だからではないのかもしれません。
火。水。闇。
そして、人と鵜が呼吸を合わせるように魚を追う姿――。そこには、現代ではなかなか出会えない、幻想的な時間が流れています。今回の『あさイチ』中継では、そんな長良川の鵜飼いに注目。なぜ1300年もの間、人々は鵜飼いに魅せられ続けてきたのでしょうか。
【放送日:2026年5月14日(木)8:15 -9:55・NHK-総合】
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鵜飼いとはどんな漁なのか?|鵜と人が呼吸を合わせる“古代漁法”
長良川の鵜飼いは、鵜(う)を使って鮎(あゆ)を捕る、日本の伝統的な漁法です。鵜匠(うしょう)と呼ばれる漁師が、鵜を操りながら夜の川を進み、篝火(かがりび)の明かりで鮎を集めていきます。
使われるのは、海辺に生息する「海鵜(うみう)」。潜水が得意で、魚を追う力が強いため、古くから鵜飼いに使われてきました。鵜匠は、鵜につながれた「手縄(たなわ)」を巧みに操りながら、鵜の動きや呼吸を感じ取り、川の流れの中で鮎を追っていきます。
また、鵜の首元には紐が巻かれており、大きな鮎を飲み込みすぎないよう調整されています。そのため鵜は魚を捕まえ、あとで吐き戻すことで漁が成り立っているのです。一見すると不思議な漁ですが、そこには人と鵜が長い時間をかけて築いてきた関係があります。
鵜匠は、鵜の性格や体調まで見ながら世話をし、鵜もまた鵜匠の合図に応えながら川へ潜っていきます。まるで互いの呼吸を合わせるように行われる鵜飼い。それは単なる漁というより、人と自然が共に生きてきた“古代の技”なのかもしれません。
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なぜ長良川の鵜飼いは1300年も続いたのか?|皇室にも守られてきた伝統
長良川の鵜飼いは、1300年以上の歴史を持つともいわれています。古くは『日本書紀』にも鵜飼いに関する記述が残されており、日本では古代から行われてきた漁法でした。その中でも、長良川の鵜飼いは特別な存在として受け継がれてきました。
大きな理由のひとつが、長良川の清らかな水です。長良川は、鮎が育つ清流として古くから知られ、その鮎は“献上品”として将軍家や朝廷へ届けられていたといいます。
鵜飼いで捕られた鮎は、傷が少なく美しいことでも評価されていました。鵜のくちばしの先を丸く削るなど、鮎を傷つけないための細やかな工夫も、長い歴史の中で受け継がれてきたのです。
また、現在の長良川の鵜匠たちは、「宮内庁式部職鵜匠」という特別な役職に任命されています。これは、皇室に鮎を献上する伝統が今も続いているからです。
つまり長良川の鵜飼いは、単なる地方の漁ではなく、日本の歴史や文化そのものと深く結びつきながら守られてきた存在なのです。篝火の中で行われる夜の漁には、1300年の時間が今も静かに流れているのかもしれません。
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夜の長良川はなぜ幻想的なのか?|篝火が生む“火と水の美”
長良川の鵜飼いが人を惹きつける理由のひとつが、夜の川に浮かぶ“篝火の美しさ”です。暗い川面を照らす炎。水に映る揺らめき。そして、闇の中を静かに進む鵜舟――。そこには、現代ではなかなか見ることのない、“火と水がつくる風景”があります。
篝火は、単に鮎を集めるためだけのものではありません。その炎は、鵜匠や鵜、舟の姿を浮かび上がらせ、長良川の夜そのものを幻想的な空間へ変えていきます。
燃える薪の音。川の流れ。鵜が水へ潜る気配――。鵜飼いでは、光だけでなく、音や匂いまでもが“夜の体験”として重なっていくのです。
今の時代、夜はどこへ行っても明るくなりました。けれど鵜飼いの夜には、人工的な光ではない、“炎の闇”があります。だからこそ人は、篝火の揺らぎにどこか心を奪われるのかもしれません。
『あさイチ』中継では、1300年受け継がれてきた長良川の鵜飼いを通して、日本人が古くから大切にしてきた“火の美”も感じられそうです。
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鵜匠と鵜はどんな関係なのか?|人と動物がつくる特別な時間
長良川の鵜飼いを見ていると、不思議に思うことがあります。鵜は懸命に鮎を捕るのに、大きな魚は飲み込めないようになっている――。それでも、なぜ鵜は川へ潜り続けるのでしょうか?
実は、鵜はすべての魚を取られてしまうわけではありません。首に巻かれた紐によって、大きな鮎だけが飲み込めないよう調整されており、小さな魚は普通に食べています。
また、鵜匠たちは日頃から鵜の世話をし、体調を細かく見ながら一緒に暮らしています。食事も与えられ、漁の後にはしっかり休ませる。そこには、単なる“道具”としてではない、長い時間を共にする関係があります。
鵜匠は、鵜の性格や癖まで把握しているといいます。一方で鵜もまた、鵜匠の動きや合図に応えながら川へ潜っていく。その姿は、命令だけで成り立つ関係というより、“互いに呼吸を合わせる相棒”のようにも見えてきます。
野生の海鵜を使いながら、長い時間をかけて築かれてきた信頼関係。長良川の鵜飼いには、人と動物が共に生きてきた、日本独特の文化が今も残されているのです。
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なぜ現代人は鵜飼いに惹かれるのか?|長良川に残る“夜の祈り”
長良川の鵜飼いを見ていると、不思議と心が静かになっていきます。篝火が揺れる夜の川。暗闇の中へ潜っていく鵜。そして、静かに舟を操る鵜匠――。そこには、現代では失われつつある“夜の時間”が流れているのかもしれません。
今の私たちは、いつも明るい光の中で暮らしています。スマートフォンを開けば、絶えず情報が流れ続け、夜ですら完全な静けさを感じることは少なくなりました。だからこそ、篝火だけが照らす長良川の闇に、人は強く惹かれるのでしょう。
鵜飼いは、自然を力で征服する漁ではありません。川の流れを読み、鵜と呼吸を合わせ、季節の恵みを受け取りながら行われる営みです。その姿には、自然への畏れや感謝の気持ちさえ感じられます。
1300年もの間、長良川の夜に受け継がれてきた鵜飼い。それは単なる観光文化ではなく、日本人が火や水、自然とともに生きてきた記憶なのかもしれません。『あさイチ』中継では、そんな長良川の鵜飼いに残る“夜の祈り”のような時間も感じられそうです。