福岡県北九州市の南部には、街の賑わいから少し離れた場所に、今も豊かな里山の風景が広がっています。石灰岩が点在する草原がどこまでも続く、日本有数のカルスト台地・平尾台。そして、全国に名を知られるブランドタケノコの産地・合馬地区。
初めて訪れる人は、その美しさに「こんな景色が今も残っていたんだ」と驚くかもしれません。けれど、その景色は自然に残っていたわけではありません。
江戸時代から続く野焼き。手をかけ続けて守られる竹林。人手不足という課題に向き合いながら、新しいアイデアで里山を未来につなごうとする人たち。誰かが手をかけ、誰かが守り続けてきたからこそ、今もそこに残る風景があります。
今回の『小さな旅』「里に宝あれ 〜福岡県 北九州市〜」は、平尾台や合馬地区を訪ねながら、地域の宝を守ろうと奮闘する人たちに出会います。美しい景色の向こう側には、いつだって誰かの見えない営みがあります。私たちが「残っていてほしい」と願う風景は、きっと誰かが今日も守り続けているもの。北九州の里山を歩きながら、そんな静かな力に目を向けていきます。
【放送日:2026年5月24日(日)8:00 -8:25・NHK-総合】
【放送日:2026年5月29日(金)11:05 -11:30・NHK-総合】
【放送日:2026年5月30日(土)6:05 -6:30・NHK-BSP4K】
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平尾台ってどんなところ?|日本有数のカルスト台地が広がる北九州の絶景
福岡県北九州市の南部に広がる平尾台は、日本を代表するカルスト台地のひとつです。石灰岩が点在する草原。なだらかな丘がどこまでも続く景色。まるで日本ではないような、どこか異国にも見える風景が広がっています。
山口県の秋吉台と並び称されることも多く、日本有数のカルスト地形として知られています。カルスト台地とは、長い時間をかけて石灰岩が雨水などに溶かされながら作り出された地形のこと。平尾台には、羊の群れのように見える石灰岩「羊群原(ようぐんばる)」と呼ばれる独特の景観も広がり、四季折々で違う表情を見せてくれます。
春は若草。夏は緑の草原。秋はススキが揺れ、冬には静かな草原が広がる。季節とともに景色が少しずつ移り変わる場所です。
初めて訪れた人は、きっと驚くかもしれません。「こんな景色が北九州にあったんだ」と。北九州と聞くと、工業都市や製鉄の町を思い浮かべる人も少なくありません。かつて筑豊炭田のエネルギーとともに発展し、日本の近代化を支えてきた地域。
けれどその一方で、街から少し離れた場所には、こうした豊かな里山の風景が今も息づいています。ただ、この景色は自然に残っていたわけではありません。
草原は放っておけば、少しずつ木々が育ち、やがて森になっていきます。平尾台の草原もまた、人が手をかけ続けてきたからこそ、今の姿を守ってきました。その営みのひとつが、次に訪ねる「野焼き」です。誰かが守り続けてきたから、今もそこにある。平尾台の風景には、そんな静かな時間が流れています。
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平尾台の草原はなぜ守られてきた?|江戸時代から続く“野焼き”の営み
平尾台の広々とした草原を初めて見た人は、こう思うかもしれません。「昔から自然のまま残ってきた景色なんだろうな」と。けれど実は、この風景は“自然のまま”ではありません。
平尾台では江戸時代から続く「野焼き」が行われてきました。春先、草原に火を入れる。一見すると自然を傷つけているようにも見える営みです。けれど、それはむしろ草原を守るための大切な仕事でした。
もし野焼きをやめれば、草原には木が育ち始めます。少しずつ低木が増え、やがて森へ変わっていく。時間をかけて、平尾台の景色そのものが変わってしまうのです。
草原は、何もしなくても残る景色ではありません。人が手をかけ続けることで守られてきた風景です。伊豆の大室山も、山口県の秋吉台も。全国の草原の景色の多くが、同じように人の営みとともに続いてきました。
自然は、止まっているものではありません。少しずつ変わり続けています。だから守るためには、関わり続けることが必要になる。
火を入れる。草を整える。景色を見守る。その積み重ねが、何十年、何百年という時間をつないできました。野焼きは、ただ昔から続いてきた作業ではありません。景色を未来へ渡すための営み。平尾台の草原には、そんな静かな時間が流れているのです。
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合馬のタケノコはなぜ特別?|里山を支える竹林と人の知恵
北九州市南部にある合馬(おうま)地区は、全国でも名高いタケノコの産地として知られています。合馬のタケノコは、やわらかく、えぐみが少なく、香りがよい。春の味覚として、多くの人に親しまれてきました。けれど、その美味しさは自然に生まれるものではありません。
竹林には、人の手が必要です。古い竹を間引く。日当たりや風通しを整える。地面の環境を守る。竹が適度な間隔で育つように整えながら、次の世代のタケノコが伸びてくる環境をつくっていく。放っておけば、竹はどんどん増えていきます。
密集した竹林は次第に光が届きにくくなり、新しい竹が育ちにくくなる。管理する人が減れば、竹林そのものが荒れ、里山の景色も少しずつ変わっていきます。近年、全国各地で課題になっている「荒れた竹林」。合馬地区もまた、人手不足という現実と向き合いながら、里山を守る工夫を続けています。
美味しいタケノコを育てること。竹林を未来へ残していくこと。それは、単なる農作業ではありません。里山の風景そのものを守る仕事でもあります。春になれば、今年もタケノコが顔を出す。その当たり前を続けるために。今日も誰かが竹林に入り、一本一本、未来につながる手入れを続けています。
自然は、ただ放っておいて残るものではない。守る人がいるから続いていく。合馬の竹林にも、そんな静かな時間が流れています。
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里山を守る新しい挑戦|マウンテンバイクが竹林を救う?
里山を守る。言葉にすると簡単ですが、実際には簡単なことではありません。平尾台の草原も。合馬の竹林も。人が関わり続けることで守られてきました。けれど今、その「人」が少しずつ減っています。高齢化。担い手不足。里山を維持したくても、人手が足りない。そんな現実に、多くの地域が向き合っています。
合馬地区も例外ではありません。手を入れきれなくなった竹林は、少しずつ姿を変えていきます。竹が密集する。光が届かなくなる。管理が難しくなる。そして人の足が遠のけば、さらに荒れていく。そんな課題に向き合う中で生まれたのが、新しい発想でした。
マウンテンバイク。自然の中を駆け抜けるスポーツを、竹林を守る取り組みにつなげる。一見すると結びつかないように思える組み合わせです。けれど、人が訪れる場所には、人の目が届きます。道を整える。環境を維持する。
地域に人の流れを作る。「守る」だけではなく、「使いながら守る」。そんな新しい考え方が、里山の未来を少しずつ変え始めています。
昔から続く知恵を大切にすること。そして、今の時代だからこそできる新しい工夫を取り入れること。その両方があって、里山は未来へ続いていくのかもしれません。自然を残す。景色を守る。その方法は、ひとつではない。合馬地区では今日も、新しい挑戦が静かに始まっています。
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里の景色は、守る人がいるから続いていく|北九州に生きる“地域の宝”
平尾台の草原。合馬の竹林。北九州の里山に広がる景色は、自然に残っていたものではありません。草原を守る野焼き。竹林を整える営み。里山に人が関わり続けてきた時間。その積み重ねが、今日の景色を作ってきました。
けれど時代は変わります。人が減る。担い手が足りなくなる。昔と同じやり方だけでは、守り続けることが難しくなる。だから新しい知恵が生まれます。昔からの営みを大切にしながら、今の時代に合う方法も探していく。
マウンテンバイクも、そのひとつでした。守るためだけではなく、楽しみながら関わる。地域の外の人も力を貸してくれる。好きなことが、誰かの役に立つ。そんな新しい循環が、少しずつ里山の未来を支え始めています。
地域の宝とは、美しい景色そのものだけではありません。その景色を守ろうとする人。工夫を続ける人。未来へ渡そうとする人。そうした人の営みもまた、地域の宝なのかもしれません。
平尾台にも。合馬にも。静かな里山の向こうには、今日も誰かの「そのへんのペガサス」がいます。目立たない。けれど、いなくなれば景色は変わってしまう。
誰かが守り続けているから、今年も草原が広がる。誰かが手を入れているから、春になればタケノコが顔を出す。里の景色は、守る人がいるから続いていく。北九州の里山は、そのことを静かに教えてくれているようでした。
※そのへんのペガサス:誰にも注目されることはないけど、実は凄いことをやっている人