いよかんを搾ったあとに残るもの。それは、これまで「使い道のないもの」として、当たり前のように扱われてきた。けれど、その搾りかすに、もう一度、役割を与えようとする人たちがいる。
愛媛・松山で生まれたのは、いよかんの皮を原料とした「人工皮革」。鮮やかな色と、独特の質感。そして、ただ再利用するだけではない、新しい価値としてのかたち。
まだ広く知られているわけではないけれど、そこには、地域の資源と向き合う静かな挑戦があった。これは――捨てられるはずだった果実が、もう一度、別の姿で残っていく物語だ。
【放送日:2026年4月16日(木)8:15 -9:55・NHK-総合】
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いよかん人工皮革とは?搾りかすから生まれた新素材
いよかんを搾ったあとに残る、皮や繊維。これまでそれは、多くが廃棄されるものとして扱われてきた。けれど、その“残りもの”に、もう一度、役割を与えようとする試みがある。
愛媛県松山市に拠点を置く「株式会社モノツク工業」が開発したのは、いよかんの搾りかすを原料の一部として使った人工皮革。細かく加工した柑橘の素材を、独自の技術で樹脂と組み合わせることで、これまでにない質感を持つ素材が生まれている。
特徴的なのは、その見た目だ。いよかんらしい、やわらかなオレンジ色。そして、わずかに感じる凹凸。それは単なる着色ではなく、素材そのものが持つ表情として現れている。

さらに、植物由来の原料を多く配合することで、石油由来の素材の使用を抑える工夫もされている。環境への配慮と、素材としての成立。その両方を意識した設計だ。
そして、この素材は見た目だけではない。自動車のシートにも使えるレベルの耐久試験をクリアするなど、日常の中で使うことを前提とした強さも備えている。いよかんの搾りかすから生まれた人工皮革。それは、「使われなかったもの」を別のかたちに変えていく試みのひとつだ。
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なぜ“搾りかす”に価値を見出したのか?|見過ごされてきた資源
いよかんは、果実としては広く親しまれている。特に愛媛県では柑橘類の生産が盛んだ。けれど、その裏側で生まれる“残りもの”に、目が向けられることは、あまり多くなかった。ジュースや加工品に使われたあとの皮や繊維。それらは長いあいだ、行き場のない廃棄物として扱われてきた。
もちろん、「もったいない」という感覚は、どこかにあったはずだ。けれどそれは、“何かに使えたらいい”という思いのまま、具体的なかたちにはなりにくいものでもある。
そんな中で、この搾りかすを「素材」として捉え直す視点が生まれた。廃棄物としてではなく、まだ役割を持ちうる存在として見ること。それは、新しい技術というよりも、SDG’sという考え方の中から生まれ、見方を少し変えることから始まっているのかもしれない。
ただ――価値があることと、その価値が社会の中で広く使われることは、必ずしも同じではない。どれほど魅力的な素材であっても、それが“使われる理由”を持たなければ、静かに埋もれてしまう可能性もある。
だからこそ、この取り組みは、いまもまだ“途中”にあるのかもしれない。搾りかすに価値を見出したこと。それ自体は確かな一歩だ。けれど、その価値が、どのように人の暮らしの中に入っていくのか――その答えは、これから少しずつ見えてくるものなのだろう。
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環境と性能の両立|人工皮革としての実力
いよかん人工皮革は、単に“環境にやさしい素材”というだけではない。見た目のやわらかさとは裏腹に、実用に耐えるだけの強さを備えている。
そのひとつの目安が、耐久性だ。この素材は、自動車のシートにも使用できるレベルの耐久試験をクリアしているとされている。日常の中で繰り返し使われることを前提とした、確かな性能を持っているということだ。
さらに、植物由来の原料を多く取り入れることで、石油由来素材の使用を抑えている点も見逃せない。環境への配慮と、素材としての機能性。その両方を同時に成立させようとする設計は、決して簡単なものではないはずだ。
こうして見ると、いよかん人工皮革は、素材としての条件をしっかりと満たしているように見える。見た目の個性もあり、強度もあり、環境にも配慮されている。
それでも――この素材が、まだ私たちの身の回りに広く見かけられるわけではないのは、なぜだろう?たとえば、サンダルのような雑貨への応用は検討されているものの、日常の中で自然に手に取る機会は、まだ多くない。
素人考えで言わせてもらえれば、柑橘類の皮の消臭・脱臭効果を活かして、運動靴などの皮として開発して使っていくことなども考えられなくもない。機能としては成立していても、それが「選ばれる理由」になるかどうかは、また別の話なのかもしれない。
もちろん、これは否定ではない。むしろ――ここまで形にしていること自体が、ひとつの成果だ。ただ、その先にある「どんな場面で、どんな人が使うのか」という視点が加わったとき、この素材は、もう一歩先へ進む可能性を持っている。
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広がる可能性とこれから|暮らしの中に入る日は来るのか?
いよかん人工皮革は、すでに素材としてのかたちを持っている。サンダルなどの雑貨への応用も検討され、地域の資源循環モデルとして評価も受けている。けれど、それが「当たり前に使われるもの」になるまでには、まだ少し距離があるようにも感じられる。
新しい素材が広がっていくとき、そこにはいくつかのきっかけが必要になる。使う理由があること。選びたくなる魅力があること。そして、手に取れる場所にあること。単なるアクセサリーではやはり発信力は弱いのではないだろうか?

いよかん人工皮革は、すでにその一部を持っている。やさしい色合い。環境への配慮。そして、しっかりとした強さ。あとはきっと、それが“誰のどんな場面に寄り添うのか”が見えてきたとき――この素材は、もう少し自然に、暮らしの中に入り込んでくるのかもしれない。
たとえば、日々履く靴の中に。手に取る小物のひとつとして。気づかないうちに、そこにあるものとして。いよかんの搾りかすから生まれた素材は、いま、まだ静かな場所にある。
けれどその中には、確かに次のかたちへとつながる可能性が、眠っている。それが広がるかどうかは、これからの時間の中で、少しずつ試されていくのだろう。
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まとめ|見過ごされてきたものに、もう一度光をあてる
いよかんを搾ったあとに残るもの。それは長いあいだ、特別な意味を持たないものとして扱われてきた。けれど、その中に価値を見出し、別のかたちへとつなげようとする試みがある。素材として成立させる技術。環境への配慮。そして、まだ広がりきっていない可能性。そのすべてが、いま、この素材の中にある。
ただ――価値があることと、それが自然に選ばれることは、少しだけ違う。だからこそ、この取り組みは、いまもまだ途中にあるのだろう。どんな場面で使われ、どんな人の手に渡っていくのか。その答えは、これからの時間の中で、少しずつ形になっていく。
いよかんの搾りかすから生まれた人工皮革。それは、見過ごされてきたものに、もう一度光をあてる試みであり、同時に、その価値が問われていく過程でもある。もしかすると――まだ気づかれていないだけで、私たちの身の回りにも、そんな“そのへん(草原)のペガサス”は、いくつもあるのかもしれない。