香川県高松市の庵治(あじ)半島は、瀬戸内海に面した静かな土地。ここで生まれる「庵治石(あじいし)」は、花こう岩のダイヤモンドとも呼ばれる美しい石材として知られてきました。かつては墓石として高い評価を受けてきたこの石ですが、時代の変化とともに、その役割も少しずつ変わり始めています。
今回の「小さな旅」では、庵治石に新たな価値を見いだそうとする人たちの姿が描かれました。住宅建材としての可能性を探る職人や、石をガラスに溶け込ませることで新しい表現を生み出す作家たち――。変わりゆく時代の中で、それでも石と向き合い続ける人々の情熱に出会う旅です。
この記事では、香川・庵治半島の庵治石の魅力と、その未来を切り拓こうとする人たちの物語を、やさしくひもといていきます。
【放送日:2026年4月12日(日)8:00 -8:25・NHK-総合】
【放送日:2026年4月17日(金)11:05 -11:30・NHK-総合】
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庵治石とはどんな石?花こう岩のダイヤモンドと呼ばれる理由とは?
香川県高松市の庵治半島で産出される「庵治石(あじいし)」は、花こう岩の中でも特に高い品質を持つ石材として知られています。その美しさから、“花こう岩のダイヤモンド”とも呼ばれてきました。
花こう岩は、マグマが地下深くでゆっくりと冷え固まることで、石英や長石、雲母といった鉱物の結晶がしっかりと育った岩石です。
庵治石もそのひとつで、きめが細かく、光の当たり方によって繊細に表情を変えるのが特徴です。表面に現れる独特の模様は「斑(ふ)」と呼ばれ、同じものが二つとない景色をつくり出します。
こうした性質から、庵治石は古くから高級な墓石として重宝されてきました。磨き上げることで深みのある光沢を帯び、時間が経つほどに味わいを増していく。その静かな存在感は、人の想いを託す素材として選ばれてきた理由のひとつなのかもしれません。
ただの石のようでいて、光や時間とともに表情を変える――庵治石には、そうした奥行きのある美しさが宿っています。
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庵治石はどこから来たのか?地下で生まれた石の時間
庵治石は、もともと地表にあったものではありません。はるか昔、地下深くでマグマがゆっくりと冷え固まることで生まれた花こう岩の一種です。
地下ではマグマの中で、石英や長石、雲母といった鉱物が時間をかけて結晶となり、それぞれが少しずつ成長しながら、ひとつの石としてまとまっていきます。
急激に冷える玄武岩のような火山岩とは違い、ゆっくりとした時間の中で育った結晶は、きめが細かく、整った構造を持つようになります。庵治石の美しさも、こうした長い時間の積み重ねによるものです。
そしてこの石は、地下にとどまり続けるわけではありません。周囲の岩石との比重の違いや地殻変動によって、何十万年、あるいはそれ以上の時間をかけて、少しずつ地表へと近づいていきます。やがて風化や浸食によって姿を現し、人の手に触れられる場所へと現れるのです。
地上に出た花こう岩は、さらに時間とともに風化し、細かく砕けていきます。日本各地で見られる「真砂土(まさど・まさつち)」も、そのひとつの姿です。硬く、変わらないように見える石も、長い時間の中では、少しずつ形を変えながら存在し続けているのです。
庵治石もまた、そうした地球の時間の中で生まれ、今ここにある石のひとつ。人の手に届くその背後には、想像もつかないほど長い時間が流れています。
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墓石から建築材へ——変わりゆく庵治石の役割
庵治石は長いあいだ、高級な墓石として人々の暮らしに寄り添ってきました。磨き上げることで深い光沢を帯び、時間が経っても美しさを保ち続けるその性質は、大切な想いを託す素材として選ばれてきたのです。
けれど近年、その役割は少しずつ変わり始めています。ライフスタイルの変化や価値観の多様化によって、墓石の需要は以前ほどではなくなり、石材を取り巻く環境も大きく揺らいでいます。庵治半島でも、「このままではいけない」という思いが、静かに広がっていきました。
そうした中で生まれてきたのが、庵治石の新たな使い方です。住宅の外壁や内装材として取り入れたり、空間のアクセントとしてデザインに活かしたり――。これまで“記憶を刻む石”だったものが、“暮らしを彩る石”へと、その役割を広げようとしています。
そこには、単に用途を変えるだけではない、職人たちの試行錯誤があります。長年、墓石として石と向き合ってきた技術や感覚を、まったく違う分野に応用することは、簡単なことではありません。それでもなお、新しい可能性を探り続ける姿には、石とともに生きてきた人たちの誇りが感じられます。
変わらないように見える石も、時代の中でその役割を変えていく。そしてその変化を支えているのは、やはり人の手と、人の思いなのです。
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庵治石とガラスが生み出す新しい美しさとは?
庵治石の新たな可能性は、石そのものの使い方を変えるだけにとどまりません。異なる素材と出会うことで、これまでにない表現を生み出す試みも始まっています。
そのひとつが、ガラスとの融合です。庵治半島で活動するガラス作家・杉山利恵さんは、庵治石を細かく砕き、ガラスに混ぜ込むことで、独特の質感と色合いを持つ作品を生み出しています。
とくに印象的なのは、瀬戸内海を思わせる深い青。透明なガラスの中に、石の粒子がわずかに揺らぎを与え、光の加減によって表情を変えていきます。それは、硬く重いはずの石が、やわらかな光の中に溶け込んでいるようにも見えました。

石は本来、削り、磨き、形を整えることでその美しさを引き出してきた素材です。けれどここでは、いったん砕かれ、別の素材と混ざり合うことで、新しい価値を得ています。変わらないはずの石が、まったく違う姿で再び輝く――その過程には、素材の可能性を信じる作り手のまなざしが感じられます。
庵治石とガラス。異なる時間を生きてきた素材が重なり合うことで生まれる新しい美しさは、石の未来をそっと照らしているのかもしれません。
リエ・グラス・ガーデン
- 香川県高松市松福町2丁目2−17
- TEL:090-4782-4681
- 営業時間:14:00~17:30
- 営業日:土・日・月曜
- URL:https://aji-glass.jp/
RGG取扱店・イノカド。 -INOKASHIRA POTTERY & LIFESTYLE
- 東京都三鷹市井の頭4−14−11
- TEL:非公開
- 営業時間:11:00~18:00
- 定休日:月・火曜
- URL:https://www.instagram.com/inocado_/
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庵治半島に受け継がれる石の文化と人の営み
庵治半島では、長いあいだ石とともに生きる暮らしが続いてきました。採石場で石を切り出し、形を整え、磨き上げて送り出す――その一つひとつの工程の中に、職人たちの技術と経験が受け継がれています。
かつては墓石の産地として多くの石材店が軒を連ね、石に関わる仕事は地域の大切な産業のひとつでした。けれど時代の変化とともに、その風景も少しずつ変わり始めています。それでもなお、この土地には石とともに生きてきた人たちの記憶と誇りが残り続けています。
新しい使い方に挑戦する職人、異なる素材と組み合わせる作家たち。その一方で、日々の仕事として石に向き合い続ける人たちもいます。華やかな変化だけではなく、変わらない営みがあるからこそ、この文化は途切れることなく続いてきたのかもしれません。
庵治石は、ただの資源ではなく、この土地の時間そのもの。人の手によって磨かれ、使われ、受け継がれていく中で、石は地域の暮らしと静かに結びついています。
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まとめ|石は変わらないものではなく、変わり続けるもの
石は、動かず、変わらないものの象徴のように思われがちです。けれど庵治石の物語をたどっていくと、その見方が少しだけ変わっていきます。
地下深くで生まれ、長い時間をかけて地上へと現れ、人の手によって形を与えられ、そして新たな使い方の中で再び意味を持つ――石は、静かに姿を変えながら存在し続けてきました。
墓石として人の想いを受け止めてきた庵治石は、いま、建築やガラスといった新しい世界の中で、また違った表情を見せ始めています。その変化は決して断絶ではなく、これまで積み重ねてきた時間の延長線上にあるものなのかもしれません。
変わらないように見えるものも、少しずつ形を変えながら未来へと続いていく。庵治半島で出会った人たちの姿は、そんな静かな確かさを教えてくれました。

