京都や奈良といえば、寺社や歴史ある街並みを思い浮かべる人が多いだろう。しかしこの古都には、もう一つの顔がある。いにしえから守られてきた森や川がつながり、多くの生きものが静かに暮らす「命の聖域」だ。
寺社を包む森やコケの庭、山や水辺が一体となった環境には、ムササビやモリアオガエル、オオサンショウウオ、キツネ、シカなど多様な生きものが息づいている。歴史と文化が積み重なった古都の風景の中で、人と自然は長い時間をかけて独特の関係を築いてきた。
NHKワイルドライフ「Hidden Japan 知られざる日本の自然」では、京都と奈良を舞台に、古都に残された豊かな生態系と、そこに暮らす生きものたちの姿を美しい映像で描き出す。
【放送日:2026年3月10日(火)19:30 -20:59・NHK-BSP4K】
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京都と奈良に残る「命の聖域」とは?
京都や奈良には、千年以上にわたって守られてきた森が数多く残されています。寺や神社を囲むこうした森は、単なる緑地ではなく、古くから神聖な場所として大切にされてきました。
これらの森は一般に「鎮守の森」と呼ばれ、神社や寺院を守る存在として伐採を避けられてきた歴史があります。人が自然を守ろうとして守ったというより、信仰や文化を守り続けた結果として、森が残されたともいえるでしょう。
長い時間をかけて維持されてきたこうした森は、都市の中にありながら豊かな生態系を保っています。ムササビやモリアオガエル、オオサンショウウオ、キツネ、そして奈良公園で知られるシカなど、多くの生きものがこの環境の中で暮らしています。
歴史的な建造物や庭園とともに、森や川、水辺がひとつながりとなった古都の景観。その中には、人と自然が長い年月をかけて築いてきた独特の関係が息づいているのです。
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鎮守の森が守った都市の自然
京都や奈良に多く残る鎮守の森は、神社や寺院を囲む神聖な森として古くから大切にされてきました。こうした森は信仰の対象でもあり、むやみに木を切ることが避けられてきた場所です。
その結果、都市の中でありながら長い年月にわたって伐採や開発を免れた森が残されました。巨木が育ち、落ち葉が土に戻り、水辺や湿地が保たれることで、さまざまな生きものが暮らせる環境が維持されてきたのです。
ムササビが滑空するための高い木、モリアオガエルが産卵する池や水辺、オオサンショウウオが暮らす清流など、多くの生きものはこうした安定した環境を必要とします。鎮守の森は、都市の中にありながら自然の循環が保たれた小さな生態系として機能してきました。
現代では、都市の拡大や郊外の開発によって自然環境が失われることも少なくありません。しかし古都に残された鎮守の森は、人と自然が長い時間をかけて共存してきた一つの形を示しています。
信仰や文化を通して守られてきた森が、結果として多くの命を支えてきた――京都や奈良の風景には、そんな人と自然の深いつながりが今も静かに息づいているのです。
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古都に暮らすムササビやモリアオガエルの暮らしぶり
京都や奈良の寺社の森には、夜になると静かに活動を始める生きものがいます。木から木へと滑るように飛ぶムササビです。ムササビは前脚と後脚の間にある膜を広げて滑空し、森の中を移動します。

地面に降りると天敵に狙われやすいため、木から木へと飛び移る生活に適応してきたと考えられています。古都の寺社林には大きな木が多く残っているため、ムササビにとっては格好の住みかになっています。
一方、森の水辺では春になると不思議な光景が見られます。池や湿地の上に張り出した木の枝に、白い泡のような卵塊がいくつもぶら下がるのです。これはモリアオガエルの産卵です。
モリアオガエルは水中ではなく、池の上の枝に泡状の卵を産みつけます。やがて卵からかえったオタマジャクシは、泡の中から下の水面へ落ちて成長します。水辺と森がつながっている環境だからこそ成り立つ、独特の繁殖方法です。
古都の寺社林では、森と水辺が一体となった環境が長く保たれてきました。そのため、ムササビやモリアオガエルのような生きものたちが、今も静かに暮らし続けているのです。
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奈良公園のシカとフンコロガシの生態系
奈良といえば、奈良公園に暮らすシカの姿を思い浮かべる人も多いでしょう。人のすぐそばで暮らすシカの群れは、古都の風景を象徴する存在でもあります。
このシカたちは、古くから神の使いとして大切にされてきました。奈良の春日大社の神話では、神が白いシカに乗って、茨城の鹿島神宮から奈良の地に現れたと伝えられています。そのため奈良のシカは特別な存在として守られ、今も多くの個体が公園周辺で暮らしています。
しかし奈良公園の自然は、シカだけで成り立っているわけではありません。シカの暮らしを陰で支える小さな生きものもいます。それがマエカドコエンマコガネと呼ばれるフンコロガシの仲間です。

この昆虫はシカの糞を地面に埋め込み、その中で卵を育てます。糞はやがて分解されて土に戻り、植物の栄養となります。こうした働きによって奈良公園では糞が自然に処理され、森や草地の環境が保たれているのです。
人とシカ、そして小さな昆虫たち。奈良公園では、さまざまな生きものがつながりながら一つの生態系を形づくっています。観光地として知られる場所の足元にも、静かに働く自然の仕組みが息づいているのです。
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川に生きる巨大生物オオサンショウウオ
京都や奈良の自然を語るうえで、忘れてはならない生きものがいます。日本の清流に暮らす巨大な両生類、オオサンショウウオです。
オオサンショウウオは体長が1メートルを超えることもある世界最大級の両生類で、日本では特別天然記念物にも指定されています。普段は川底の岩の隙間などに身を潜め、夜になるとゆっくりと活動します。
動きはおだやかですが、古い時代の姿を今も残していることから「生きた化石」と呼ばれることもあります。何千万年も前からほとんど姿を変えずに生き続けてきた、地球の歴史を感じさせる生きものです。
こうしたオオサンショウウオが暮らせるのは、清らかな水と豊かな川の環境が保たれている場所です。京都や奈良の山や森から流れ出る水は、古都の自然と人の暮らしが長く共存してきた証ともいえるでしょう。
森、水辺、そして川。古都の自然はさまざまな環境がつながることで、多くの命を支え続けているのです。
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NHKワイルドライフ「Hidden Japan」の見どころ
NHKワイルドライフ「Hidden Japan 知られざる日本の自然」では、京都と奈良を舞台に、古都に残された豊かな自然の姿を美しい映像で描き出します。
寺社の森を滑空するムササビ、水辺で命をつなぐモリアオガエル、奈良公園のシカとそれを支える小さな昆虫、そして清流に生きるオオサンショウウオ。歴史と文化が重なり合う古都の風景の中で、さまざまな生きものたちが静かに暮らしています。
番組では、こうした生きものたちの姿を通して、人と自然が長い時間をかけて築いてきた関係を見つめます。寺社の森や川、山がひとつながりとなった環境は、古都の文化とともに守られてきた「命の聖域」ともいえる場所です。
京都と奈良の四季の移ろいとともに描かれる生きものたちの物語は、日本の自然の奥深さをあらためて感じさせてくれるでしょう。
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まとめ|古都が守ってきた日本の自然
京都と奈良の古都には、千年以上にわたる歴史と文化の中で守られてきた自然が残されています。寺社を包む鎮守の森や川、水辺の環境は、人々の信仰や暮らしとともに大切にされてきました。
その結果、都市の中でありながらムササビやモリアオガエル、シカ、オオサンショウウオなど多くの生きものが暮らす豊かな生態系が今も息づいています。人と自然が長い時間をかけて築いてきた関係が、古都の風景の中に静かに残されているのです。
NHKワイルドライフ「Hidden Japan」は、こうした古都の自然を美しい映像で描きながら、日本の風土と生きものたちの物語を伝えてくれます。
華やかな観光地として知られる京都や奈良。その足元には、歴史の中で守られてきた静かな命の世界が広がっています。古都の森や川は、人と自然が共に生きてきた時間を、今も私たちにそっと語りかけているのかもしれません。