宇宙の95%は見えない!? ダークマターとは何なのか、なぜ存在がわかったのか?|NHKフロンティア

コズミック・ウェブ BLOG
スポンサーリンク

ブラックホールという言葉は、多くの人が一度は聞いたことがあるだろう。光さえ逃げ出せないほど強い重力を持つ天体。姿は見えないのに、その周囲の星やガスの動きから「そこにある」と分かる、”影絵のような”不思議な存在だ。

宇宙には、そんな“見えないもの”がいくつもある。その中でも今、天文学者たちを最も悩ませているのが「ダークマター」だ。ダークマターは光を出さず、望遠鏡でも直接見ることができない。それなのに、銀河の回転や宇宙の構造を説明するためには、どうしても存在しなければならないと考えられている。

しかも、その量は私たちが知っている星や惑星などの通常の物質の5倍以上。つまり宇宙の約95%は、いまだ正体が分かっていない“見えないもの”で満たされている可能性があるのだ。

そして2025年11月、東京大学の研究チームがダークマターの正体に迫るかもしれない信号を捉えたと発表した。90年以上追い続けられてきた宇宙最大級の謎は、ついに解明へ向かうのだろうか? 見えないものから宇宙を読み解く――。ダークマター研究の最前線を追う。

【放送日:2026年3月9日(月)22:00 -23:00・NHK-BSP4K】

<広告の下に続きます>

宇宙の95%は見えない?──ダークマターとは何か?

私たちが見ている宇宙は、実はほんの一部に過ぎない。夜空を見上げれば、星や銀河が無数に輝いている。望遠鏡を使えば、さらに遠くの宇宙まで観測できる。

しかし現在の宇宙論では、こう考えられている。宇宙の中で、私たちが知っている宇宙に存在している「普通の物質」はわずか約5%。残りのほとんどは、正体がまだ分からない存在だ。

そのうち約27%を占めるとされるのが「ダークマター」。光を出さず、光を反射することもなく、望遠鏡でも直接見ることができない“見えない謎の物質”である。では、なぜそんなものの存在が考えられるのか? 理由は、銀河の動きだった。

天文学者が銀河の回転速度を測定すると、理論と合わない現象が見つかった。見えている星やガスの重さだけでは説明できないほど、銀河が速く回っていたのだ。

つまり、そこにはまだ見えていない質量があるはずだ。もちろんそれが何なのか、わからない。だからこの「見えない質量」がダークマターと呼ばれるようになった。

これは現在では、銀河や銀河団の構造を説明するためには欠かせない存在と考えられている。もしダークマターが存在しなければ、宇宙の歴史そのものが違っていた可能性もある。

銀河はうまく集まらず、星も生まれにくかったかもしれない。つまり私たちの太陽や地球、そして人間の存在もまた、今とは違う宇宙になっていた可能性があるのだ。見えないのに、宇宙を形づくっているもの。それがダークマターという謎である。

<広告の下に続きます>

なぜ存在がわかったのか?──銀河の回転が示した謎とは?

では、光も出さず、望遠鏡でも見えないダークマターの存在を、天文学者たちはどうやって知ったのだろうか? ヒントは「銀河の回転」にあった。

銀河は、中心を軸にして巨大な円盤のように回転している。私たちの住む天の川銀河も同じだ。もし重力を生み出しているのが、目に見える星やガスだけだとしたら、回転速度は中心から遠ざかるほど遅くなるはずだった。

太陽系でも、外側の惑星ほど公転速度が遅くなるのと同じ理屈だ。太陽から離れるほどに重力は弱まるから、それに見合う遠心力も少なくていい。ところが実際に観測してみると、結果はまったく違っていた。

銀河の外側にある星も、中心付近の星とほとんど同じ速さで回っていたのである。これは奇妙なことだった。

見えている星の重さだけでは、その速度を説明できない。計算すると、銀河の中には見えている物質の何倍もの質量が存在しなければならないことになる。つまり、銀河は「見えない重力」に包まれているというわけだ。

この見えない質量の存在を最初に強く指摘したのが、1930年代の天文学者フリッツ・ツビッキー だった。彼は銀河団の運動を観測する中で、見えている銀河の質量だけでは説明できない重力が働いていることに気づいた。

その後1970年代になると、天文学者ヴェラ・ルービン が銀河の回転速度を詳細に観測し、この奇妙な現象を決定的に示した。銀河の周囲には、光では見えない巨大な質量の「ハロー(外側の殻)」が広がっている――そう考えなければ説明がつかなかったのである。

こうして、天文学者たちは一つの結論にたどり着いた。宇宙には、見えない物質が存在している。それが「ダークマター」と呼ばれるようになった。

<広告の下に続きます>

90年の謎に迫る──戸谷友則教授の最新研究とは?

ダークマターの存在が指摘されてから、およそ90年。その正体を突き止めるため、世界中の研究者が観測や実験を続けてきた。

地下深くの実験施設では、未知の粒子が検出器にぶつかる瞬間を待ち続けている。宇宙望遠鏡は、銀河や銀河団から届く微弱な放射を観測し、見えない物質の痕跡を探している。しかしこれまで、決定的な証拠は見つかっていなかった。

そんな中、2025年11月、日本の研究チームが新たな可能性を報告した。東京大学の宇宙物理学者、戸谷友則のグループである。戸谷教授たちは、宇宙から届くX線の観測データを詳細に分析する中で、これまで説明が難しかった「特定のエネルギーの信号」に注目した。

この信号は、もしダークマターが未知の素粒子で構成されている場合、その粒子が崩壊する際に生まれる可能性があると考えられている。つまり、見えない物質そのものを観測したわけではない。しかし、その痕跡かもしれない光が見つかった可能性がある。

もちろん、この結果がすぐにダークマターの正体を証明するわけではない。宇宙の観測では、別の天体現象が似た信号を生むこともあるため、慎重な検証が必要だ。それでも研究者たちは、この結果を重要な一歩と考えている。

もしこの信号が本当にダークマター粒子の崩壊によるものだと確認されれば、長い間理論だけで語られてきた存在が、初めて観測によって裏付けられることになるからだ。90年追い続けてきた宇宙の謎は、いま少しずつ輪郭を現し始めている。

<広告の下に続きます>

宇宙を形づくる“見えない骨組み”とは?──ダークマター研究の未来

もしダークマターが本当に存在しているとしたら、宇宙はどのように見えているのだろうか?この問いに答えるため、天文学者たちは宇宙の構造をコンピューターで再現するシミュレーションを行っている。すると、興味深い結果が現れる。

ダークマターは宇宙の中に均等に広がっているわけではなく、巨大な網の目のような構造をつくっていると考えられている。銀河や銀河団は、その網が連結している節の部分に集まって生まれる。

この構造は「宇宙の大規模構造」と呼ばれ、しばしばコズミック・ウェブ(宇宙の網)と表現される。まるで見えない糸が宇宙全体に張り巡らされ、その結び目に星や銀河が輝いているような姿だ。

つまり私たちが見ている銀河の分布は、ダークマターという見えない骨組みの上に築かれた「光る建物」のようなものなのかもしれない。もしこの考え方が正しければ、ダークマターは単なる謎の物質ではない。宇宙の形そのものを決める、基盤のような存在になる。

では、その正体は何なのか? 研究者たちは地下実験施設で未知の粒子の検出を試み、宇宙望遠鏡で遠い銀河からの信号を解析し、巨大な粒子加速器で新しい素粒子の可能性を探っている。

もしダークマター粒子が確認されれば、宇宙の理解は大きく進むだろう。物質の成り立ち、銀河の誕生、そして宇宙の進化の歴史まで、新しい視点から説明できるようになるかもしれない。

しかし同時に、科学者たちは慎重でもある。これまでにも多くの候補が提案され、そのたびに検証が続けられてきたからだ。

宇宙の95%がまだ正体不明――。この事実は、人類が宇宙を理解し始めたばかりであることを静かに示している。ダークマターの謎は、まだ完全には解けていない。けれど、その輪郭は少しずつ見え始めている。

<広告の下に続きます>

まとめ|見えない世界の地図を描く

宇宙はまだほとんど分かっていない。それでも人間は、見えないものを少しずつ推理してきた。ブラックホールも、重力波も、ニュートリノも、最初は「見えない存在」だった。そして観測技術が進むたびに、宇宙は少しずつその姿を見せてきた。ダークマターもまた、その長い探究の物語の途中にある。

そして考えてみると不思議なことだ。私たちは星を見て宇宙を理解しているつもりでいるが、本当は――見えていないものの方が、宇宙の大部分をつくっているのかもしれない。

だから宇宙研究というのは、ある意味でこういう学問なんだと思う。見えない世界の地図を描く学問。そしてその地図は、いまも書き換えられ続けている。

タイトルとURLをコピーしました