盛岡といえば“三大麺”──冷麺、わんこそば、じゃじゃ麺。実はそれぞれに、盛岡の歴史や人々の暮らしと深く結びついた物語があります。韓国から伝わり地元風に進化した冷麺、江戸から続くそば文化を盛岡流に楽しむわんこそば、そして戦後に誕生したじゃじゃ麺。三つの麺が交差することで、盛岡は“麺の都”と呼ばれるようになりました。今回はその発祥と文化、さらに現地で愛される人気店を巡りながら、三大麺の魅力を紐解いていきます。
盛岡は“麺の都”!? 冷麺・わんこそば・じゃじゃ麺の三大スター
盛岡は“麺の都”。その看板を背負うのが──冷麺、わんこそば、じゃじゃ麺です。近年は外国人観光客も訪れるという「ラーメン」が含まれていないのはちょっと不思議ですが、その訳はおいおい説明するとしましょう。
盛岡冷麺とは?
韓国冷麺をルーツに日本人の味覚に合うようにアレンジされた盛岡の名物料理です。小麦粉とでんぷんから作られる、ゴムのように強く、つるりとした独特の麺が特徴です。
冷麺は捏ねた生地を押し出し機に仕込んで、上から強い力で麺の太さに開けられた穴から熱水の中に押し出して作られます。本場韓国の冷麺がそば粉などで作られる一方、盛岡冷麺では小麦粉を主原料にしている点が異なります。
スープは牛骨などでじっくりと取った出汁ベースの、透き通った黄金色。酸味と辛味、そして奥深いコクが調和した爽やかな味わいです。
わんこそば
わんこそばは、岩手県の郷土料理で、お椀に一口大の温かいそばを次々と入れてもらい、満腹になるまで食べるそばの食べ方です。
給仕が「じゃんじゃん」などの掛け声とともに、一口大の温かいそばを椀に投げ入れ、刻みねぎ、大根おろし、のり、まぐろなど、少しずつ薬味を加えて味を変えながら楽しみます。
食べ終わった椀を空にすると、給仕が次のそばを次々と入れてくれます。満腹になったら、お椀にフタをして「ごちそうさま」の意思を伝えます。
元は「そばの振る舞い」が起源ともいわれていて、現在では食べたお椀の数を競う遊び心のある名物料理ともなっています。
盛岡じゃじゃ麺とは?
きしめんやうどんに近い平たい麺に、甘み・酸味・辛みが複雑に交じり合った特製の肉味噌とキュウリ、長ネギをかけ、好みに合わせてラー油やおろしショウガやニンニクや酢をかけて食べる麺料理です。
中華麺とは異なり、じゃじゃ麺用の平打ちうどんか平うどんに似た独特の平麺を使います。
麺を食べ終わった後の器に卵を割り、肉味噌を加えて茹で汁を注いでかき混ぜた卵スープを「鶏蛋湯(チータンタン)」とよび、「チータンタン」と略され呼ばれるスープも魅力のひとつです。
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麺の都の発祥と歴史は?
盛岡冷麺のルーツは?
盛岡冷麺は1954年、在日朝鮮人の青木輝人氏が始めたのが最初とされます。
トンチミ(大根の水キムチ)冷麺がベースですが、料理人としてのプロの技術を持たなかった楊は、自分が子供の頃に食べた咸興の冷麺を独力で再現しようとして作ったといわれるのが盛岡冷麺の発祥です。
楊の出身地である咸興の冷麺では汁なし麺が有名ですが、咸興冷麺にも肉の出汁を注いだ汁麺タイプもありました。楊は自分が好きだった汁麺タイプの咸興冷麺を自分の店で提供したのだそうです。
しかし咸興冷麺の麺はコシが強い上に、日本人にとって辛いキムチはまだ馴染みが薄く、当初は“ゴムを食べているようだ”と酷評されたそうですが、試行錯誤の末に今の形が生まれました。
そこで日本人の食欲が湧かない麺の色を、生地を蕎麦粉から小麦粉に変えながらも、コシの強い麺や、キムチのトッピング、牛骨ダシ中心の濃厚なスープという「故郷の味の3要素」は守り続けながらも工夫を加えて「盛岡冷麺」の基本形が完成したのだそうです。そして盛岡で「平壌(ピョンヤン)冷麺」という店を開きました。
わんこそばの歴史は?
わんこそばの歴史には諸説ありますが、400年ほど前、花巻城に立ち寄った南部藩主の南部利直公が郷土名産のそばを上品なお椀(わんこ)で何度もおかわりしたことが始まりとする説が有力です。
また、宴席で多数の客に温かいそばを振る舞う「そば振る舞い」という岩手の風習が元になったともいわれています。宴席では温かいそばを一度に大量に提供できないので、一口分ずつお椀に盛り、食べ終わるたびに次々と補充したのが「そば振る舞い」です。
盛岡じゃじゃ麺の歴史とは?
戦後、中国東北部の旧満州からの引き揚げ者が、現地の料理を基に盛岡の材料で再現したのがじゃじゃ麺の始まりと言われています。
戦前に満州に移住していた「白龍(パイロン)」の初代主人である高階貫勝が、満州時代に味わった炸醤麺を元に、終戦後の盛岡で屋台を始め、そこで盛岡人の舌にあうようにアレンジして「じゃじゃ麺」が完成したといわれています。
多くの場合は、客が注文を出してから生麺を茹で始めるので、ゆで麺をお湯で温めるだけの立ち食い蕎麦などと比べて調理に時間がかかります。
当初は盛岡市内でしか食べられない料理でしたが、現在は全国区になり、県外各地のお店でも食べられたり、通販サイトで購入することもできるようです。
つまり盛岡三大麺は、味だけでなく歴史や文化を映す鏡なんですね。
なぜ盛岡ラーメンではなく、冷麺・わんこそば・じゃじゃ麺なのか?
盛岡にも人気のラーメン屋があった時期はあったようですが、今ではあまり目立ちません。その理由をはっきり断定することはできませんが、いくつか考えられます。
ひとつは、ラーメンが全国区の大人気料理であるため、「盛岡らしさ」を前面に出すには弱かったのでは、という説。
もうひとつは、盛岡冷麺が“冷やし中華”などと混同されやすいことから、あえて独自の三大麺として確立させようとした可能性もあるでしょう。
💡豆知識:冷やし中華は日本発祥!?
中国では体を冷やす冷たい食べ物はあまり好まれませんが、日本の夏は湿度が高く食欲が落ちやすいことから、冷たい料理が求められました。また水が綺麗な水が豊富に使える日本だからこそ“冷やし中華”は夏の定番メニューとして日本独自の文化に根付いていきました。
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その文化を盛岡で味わうならこのお店!
さて、日本独自の冷たい麺文化の豆知識を楽しんだところで、せっかく盛岡に来たなら、三大麺の魅力を実際に味わってみたいですよね。次は、地元の人に愛される人気店をご紹介します。どのお店もそれぞれの麺の個性を存分に引き出していて、盛岡の“麺の都”の実力を感じられるはずです!
盛岡冷麺
元祖 平壌冷麺 食道園
昭和29年創業の冷麺発祥のお店です。厳選された牛肉をふんだんに使用し、丁寧に作り上げる冷麺スープ。その場で粉を調合して職人が練り上げる手練りの麺。
辛さだけでは無く仄かな酸味を醸し出す冷麺キムチ。辛味・酸味・塩味・甘味が絶妙に一体となり完成された旨味となります。老舗の冷麺を是非ご賞味ください。
- 岩手県盛岡市大通1丁目8-2
- TEL:019-651-4590
- 営業時間:11:30~14:30、17:00~21:20
- 定休日:なし
- URL:https://shokudoen.com/
ぴょんぴょん舎 盛岡駅前店
盛岡冷麺は、盛岡の麺職人・青木輝人氏が昭和29年に「食道園」を開店した際に、朝鮮半島に伝わる咸興冷麺と平壌冷麺を融合させ、創作したのが始まりです。
青木氏が「食道園」で冷麺を提供していた頃、盛岡市内には在日韓国人・朝鮮人が少なくありませんでした。彼らは青木氏の成功を夢見て、昭和40年代以降に冷麺を提供する店を次々とオープン。昭和61年には盛岡市で開催された「ニッポンめんサミット」にこの冷麺が出品され、「盛岡冷麺」と名付けられました。
「ニッポンめんサミット」に出品した冷麺は、ぴょんぴょん舎の前身であるぴょんぴょん亭が作っていました。麺の食感や喉ごし、スープの味にこだわり続け、当日ギリギリで完成したぴょんぴょん亭の冷麺は、サミットで高い評価を獲得して「盛岡冷麺」と名付けられ、一躍有名になりました。そして翌年の昭和62年11月にぴょんぴょん舎がオープンしたのです。
- 岩手県盛岡市盛岡駅前通9-3 ジャーランビル
- TEL:019-606-1067
- 営業時間:11:00~23:00
- 定休日:なし
- URL:https://www.pyonpyonsya.co.jp/
焼肉·冷麺 髭
モチモチの麺のコシ、ツルっとしたのど越しともに創業時より変わらぬ盛岡冷麺を提供しています。また、キムチ、チャーシュー、スープ等も店内製造の自家製のオリジナルです。丁寧に仕込んだ焼肉ひげオリジナルの盛岡冷麺をご堪能下さい。
- 岩手県盛岡市繋尾入野47-15
- TEL:019-689-2805
- 営業時間:11:00~15:00、17:00~21:30
- 定休日:木曜
- URL:http://www.yakiniku-hige.jp/
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盛岡じゃじゃ麺
白龍(パイロン)本店
屋台から始め、創業約60年。初代が戦前旧満州で食べてきた炸醤麺をもとに、盛岡に引き揚げてから盛岡の人に味を合わせるようにアレンジしたものが「じゃじゃ麺」のはじまりです。味噌をベースにひき肉、胡麻、椎茸 その他十数種類の材料を混ぜ込んで炒め寝かせた秘伝の味噌ともちもちとした食感の平打ち麺が特徴です。
- 岩手県盛岡市内丸5-15
- TEL:019-624-2247
- 営業時間:9:00~20:45(日曜は11:30~16:00)
- 定休日:なし
- URL:https://www.pairon.iwate.jp/
盛岡じゃじゃめん
平成元年創業の盛岡じゃじゃ麺専門店です。盛岡じゃじゃ麺は、平麺としょっぱさの中にも胡麻の風味とまろやかなおいしさの、こだわりの自家製味噌を絡めて食べる岩手の郷土料理です。食べ終えてから溶き卵とゆで汁と味噌を加えたチータンタン(鶏卵湯)という締めのスープも50円にてお出ししております。自慢の自家製味噌を是非ご堪能ください。
- 岩手県盛岡市神明町4-20
- TEL:019-623-9173
- 営業時間:11:30~16:00
- 定休日:水・日曜
- URL:http://morioka-jyajya.jp/
盛岡じゃじゃ麺 ちーたん
「盛岡じゃじゃ麺ちーたん」は、2007年に盛岡市上太田にオープンしました。モチモチ麺の上に、新鮮なネギ、キュウリ、じゃじゃ味噌がのった盛岡庶民の味、盛岡じゃじゃ麺。
お好みで、ラー油、ニンニク、お酢を入れ豪快に混ぜ合わせ、お召し上がりください。食後にチータンタンスープもどうぞ。
- 岩手県盛岡市上太田痩野71-1
- TEL:019-656-2338
- 営業時間:11:00~14:30
- 定休日:火曜
- URL:https://jyajyamenchi-tan.com/
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わんこそば
そば処 東家 駅前店
「はい、じゃんじゃん。はい、どんどん。」という掛け声とともに、お給仕さんによって手元のお椀にひと口分ほどの蕎麦が投げ込まれます。美味しい薬味や付け合わせとともにお楽しみください。15杯で約1杯のかけ蕎麦分になります。お給仕は、お客様が食べた分だけの空のお椀を、テーブルの上に重ねていきます。食べた杯数は重なったお椀の数で数えることができます。お椀を重ねていく音や あっという間に積み上がっていくお椀で、わんこそばらしい雰囲気を楽しんでいただけます。
- 岩手県盛岡市盛岡駅前通8-11 盛岡駅前通ビル 2階
- TEL:0120-733-130
- 営業時間:11:00~15:00、17:00~19:00
- 定休日:火曜
- URL:https://wankosoba.jp/
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まとめ
盛岡三大麺――冷麺・わんこそば・じゃじゃ麺。
それぞれが独自のルーツを持ちながら、今も地元の人と観光客に愛され続けています。冷麺のツルっとした喉ごし、わんこそばのにぎやかな体験、じゃじゃ麺の豪快な混ぜごたえとチータンタンの余韻──そのどれもが、盛岡という土地の文化と人の温かさを映し出す一杯です。
盛岡を訪れるなら、この「三大麺」を味わわずに帰るのはもったいない!
ぜひお腹も心も満たしてくれる“麺の都”の旅を楽しんでみてくださいね。