雪の国の手が織りなす彩り——青森に息づく美の手仕事【美の壺】

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雪の多い北国・青森。その厳しい自然の中で、人々は“手”を通して暮らしの美を育んできました。こぎん刺しの針目、津軽塗の層、そしてガラスに閉じこめられた光——。NHK「美の壺」では、北国の手仕事に息づく“温もりのデザイン”を紐解きます。

布に宿る幾何学模様——こぎん刺しが語る雪国の知恵

青森・津軽の地に伝わる「こぎん刺し」は、布にひと針ずつ模様を刺していく伝統の手仕事です。もともとは、木綿が貴重だった時代に麻布を補強するための技法として生まれ、寒さと暮らしの知恵が織り込まれた“実用の美”でした。

規則正しい幾何学模様には、雪の結晶や木の葉、大地の文様など、自然のモチーフが隠されています。ひと目ひと目に“温もり”と“律動”が宿り、見る人の心に静かなリズムを刻みます。

こぎん刺し(出典:弘前こぎん研究所)
こぎん刺し(出典:弘前こぎん研究所)

近年では、若い世代の作家たちが新しいデザインを生み出し、バッグやアクセサリー、ファッションブランドとのコラボにも広がっています。
糸の色も伝統の藍色だけでなく、パステルやグレー、生成りなど、現代の感性を映した色が使われるようになりました。

雪国の厳しい暮らしから生まれた“防寒の工夫”が、時を経て“暮らしの美”に変わる——こぎん刺しの針目には、青森の女性たちが紡いだ「生きる力」と「美しくあること」への祈りが込められています。

弘前こぎん研究所

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木に重なる時間——津軽塗が生む艶と深み

津軽塗(つがるぬり)は、青森が誇る伝統的な漆器です。何十層にも塗りを重ね、研ぎ出して模様を浮かび上がらせる技法です。一般的な漆塗りが“塗りの艶”を味わうのに対し、津軽塗は“研ぎの艶”を生み出す——そこに大きな特徴があります。

漆を塗っては乾かし、また塗って磨く。その工程を百回以上繰り返すこともあります。気が遠くなるような作業の中で、木と漆と職人の呼吸がひとつになっていく。

津軽塗(出典:青森県漆器協同組合連合会)
津軽塗(出典:青森県漆器協同組合連合会

表面に現れる模様は「唐塗(からぬり)」と呼ばれ、朱・黒・緑・黄などの漆を重ねた層から偶然に生まれる“時の模様”。その文様は二つと同じものがなく、まるで雪の結晶のように唯一無二の輝きを放ちます。

近年では、伝統の技を生かしたアクセサリーやスマートフォンケースなど、モダンな形で再解釈する若い職人も増えています。艶の中に見えるのは、時を重ねた手の跡。津軽塗は、木と漆と人の“時間の記録”なのです。

青森県漆器協同組合連合会

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光を閉じこめる——津軽のガラス工芸

青森の海辺の町で生まれた津軽のガラス工芸。その起源は、かつて漁で使われていたガラスの浮き玉にあります。海の光と波に磨かれたその球は、時を経て新たな命を吹き込まれ、今では色彩豊かな“芸術のガラス”として輝いています。

職人たちは、赤・青・緑・琥珀などの色ガラスを溶かし、一瞬の温度と呼吸のタイミングで模様を生み出します。桜の花、雪のきらめき、夏のねぶた——青森の四季が、光の粒となって器の中に閉じこめられていく。

高温で溶けたガラスを息でふくらませ、冷めていくそのわずかな時間に形を定める——ほんの数秒の世界に“職人の永遠”が宿ります。

津軽びいどろ(出典:NHK)
津軽びいどろ(出典:NHK)

工房に射し込む朝の光が、ガラスを通して机に虹を落とすとき、それはまるで雪国の窓から差す春の光のよう。津軽のガラスは、寒さを知る土地が生んだ温かい光なのです。

津軽びいどろ

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まとめ|雪国の手と心が紡ぐ、美のあたたかさ

こぎん刺しの糸目、津軽塗の層、ガラスの光。
青森の手仕事には、雪国の人々が受け継いできた静かな強さやさしい温もりが宿っています。厳しい冬を越えるための工夫が、やがて暮らしを彩る美へと変わる——その変化の中には、自然とともに生きてきた北国の人々の知恵と祈りが見え隠れします。

どれも同じ形にはならない。それは欠点ではなく、この瞬間にしか生まれない美。その不完全さこそが、青森の手仕事を唯一無二のものにしています。
手でつくること、時間を重ねること、光を受けとめること。そのどれもが、雪国の美を今に伝える“祈りの動作”なのです。

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