色とりどりの野菜が、手作りの小鉢に美しく盛り付けられている。丸みのある器、少しゆがんだ器、土のぬくもりが伝わってくる器。同じ料理でも、盛り付ける器が違えば、なんだか味まで変わるような気がしませんか。
私たちは、料理を口に運ぶ前に、まず目で味わっています。器の色や形、手に持ったときの感触。そんな小さな違いが、食事の楽しさを豊かにしてくれることがあります。
今回のテレビ朝日『人生の楽園』の舞台は、みかんの産地として知られる和歌山県有田市。主人公は、手作りの器でお客さんをもてなすカフェを営む吉田安子さんと、夫の静男さんです。ふたりが陶芸に出会ったのは、滋賀県の信楽を旅したことがきっかけでした。
土に触れ、自分の手で形を作る楽しさに夢中になったふたりは、自宅に工房を構え、10年以上にわたって器を作り続けてきました。やがて、作品は少しずつ増えていきます。
そんなある日、静男さんが安子さんに提案しました。「作品を生かすために、カフェを始めたら?」。その一言から、ふたりの新しい人生が動き始めたのです。
2022年2月にオープンした『Lunch&Cafe よしだ』。安子さんが作るのは、季節の野菜をふんだんに使った、心のこもったランチです。そして、その料理を受け止めるのは、ふたりが一つひとつ手作りした器たち。
考えてみれば、ちょっと不思議です。普通は、料理に合わせて器を選ぶもの。でも、陶芸が大好きなふたりなら、「この器には、どんな料理が似合うだろう?」と考えることもあるのかもしれません。
中学1年生で出会い、19歳で再会し、夫婦となった安子さんと静男さん。長い年月をともに歩んできたふたりが、今度はそれぞれの個性を生かした器で、お客さんの食卓を彩っています。
料理のおいしさは、食材や味付けだけで決まるのでしょうか。器を作る人の思い。料理を盛り付ける人の工夫。そして、それを囲む人たちの笑顔。和歌山・有田の小さなカフェから、料理の味を豊かにする、もう一つの秘密を探してみたいと思います。
【放送日:2026年10月17日(土)18:00 -18:30・テレビ朝日】
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料理は、器が変わるとおいしくなるの?
おいしそうな料理が運ばれてきたとき、私たちは何を最初に見ているのでしょうか。料理の色でしょうか。それとも、盛り付けの美しさでしょうか。でも、よく考えてみると、料理が盛られている器も、食卓の印象を大きく左右しています。
例えば、同じ煮物でも、白い磁器の小鉢に盛るのと、土の風合いが残る素朴な陶器に盛るのとでは、ずいぶん雰囲気が変わります。器が変わったからといって、料理の材料や味付けが変わるわけではありません。それなのに、なんだか味まで違って感じられる。いったい、どうしてなのでしょうか?
私たちは、料理を口に運ぶ前から味わっている
食べ物のおいしさは、舌だけで決まるものではありません。香りや温度、食感はもちろん、料理の見た目も、私たちが感じるおいしさに関わっています。
鮮やかな緑の野菜が白い器に盛られていれば、その色はいっそう引き立つでしょう。反対に、黒っぽい器に淡い色の料理を盛れば、料理の輪郭がくっきりと浮かび上がることがあります。器の色や形は、料理そのものを変えなくても、私たちが料理から受け取る印象を変えてくれるのです。
そして、食べる前に抱いた期待は、実際に味わうときの感じ方にも影響することがあります。つまり、器は料理を入れるだけでなく、料理のおいしさを伝える役割も持っているのです。
日本料理には、なぜ小鉢がたくさん登場するの?
日本料理の食卓を思い浮かべてみましょう。ご飯茶碗に汁椀、焼き魚の皿、煮物の鉢、漬物の小皿。定食でも、料理によって違う器が使われることがあります。これは、単に料理を分けるためだけではありません。汁気の多い料理には深い鉢を、焼き物には平たい皿を使うなど、器の形には実用的な理由があります。
それに加えて、日本料理では季節感や料理との取り合わせも大切にされてきました。春には明るく軽やかな器、秋には土のぬくもりを感じる器。もちろん、こうした組み合わせに絶対の決まりがあるわけではありません。けれども、料理と器を一緒に楽しむ文化が、私たちの食卓には息づいているのです。
特に手作りの陶器には、工業製品のように寸分違わず同じ形にはならない面白さがあります。少しゆがんだ縁。指先に伝わる土の感触。釉薬が生み出す、思いがけない色の濃淡。そんな一つひとつの違いも、食事を楽しむきっかけになるのでしょう。
形の違う器が並ぶ、小さなカフェ
和歌山県有田市にある『Lunch&Cafe よしだ』。ここでは、吉田安子さんが作る季節の料理が、夫の静男さんとともに手がけた器に盛り付けられています。ランチの名前は「とことん野菜DEおもてなしランチ」。番組で紹介されるのは、生春巻きや色とりどりのピクルス、人気の里芋まんじゅうなど、野菜を中心とした八品のおかずです。
そして、料理を盛る器は、一点一点趣が異なります。丸みを帯びた小鉢もあれば、少し深さのある器もある。明るい色の器も、落ち着いた色合いの器もある。料理だけを眺めても楽しそうですが、器まで含めて見ると、食卓全体が一つの作品のように感じられます。
実は、この器には、もう一つ面白い秘密があります。静男さんが作るのは、端正な形の作品。一方、安子さんの作品は、個性豊かな形が特徴なのだそうです。同じ陶芸を趣味にしていても、ふたりの作風は違います。けれども、食卓に並べてみれば、その違いがかえって楽しい表情を生み出しているのかもしれません。
「この器には、どんな料理が似合うだろう?」
普通、料理を作るときには、出来上がった料理に合う器を選ぶことが多いでしょう。ところが、自分たちで器を作っている安子さんと静男さんなら、逆の発想もできそうです。
「この器には、どんな料理が似合うだろう?」
少し深い鉢なら、あんをかけた料理が似合うかもしれません。小さくて愛らしい器なら、色鮮やかな野菜を少しずつ盛ってみたくなるでしょう。でも、器を作る人と料理を作る人が同じ家にいるからこそ、生まれる楽しみ方があるように思えます。
そして、このカフェでは、安子さん自身が器を作り、料理も作っています。器を形づくるときの楽しさと、料理を盛り付けるときの楽しさ。その二つが、一つの食卓で出会っているのです。
器が変えるのは、味だけではない
では、最初の問いに戻りましょう。料理は、器が変わるとおいしくなるのでしょうか? 答えは、単純な「はい」でも「いいえ」でもなさそうです。器によって料理の温度の保たれ方や口当たりが変わり、食べ心地に違いが生まれることはあります。
また、器の色や形、盛り付けによって、料理をよりおいしそうに感じることもあるでしょう。でも、どんなに素敵な器に盛られていても、料理そのものがおいしくなければ、満足できるとは限りません。大切なのは、料理と器が互いの魅力を引き立て合うことなのかもしれません。
そして、安子さんと静男さんのカフェには、もう一つの楽しみがあります。目の前の器が、どこかの工場で大量に作られたものではなく、ふたりが自分たちの手で形づくった作品だということです。
器を眺めながら、作った人の話を聞く。料理を味わいながら、器の手触りも楽しむ。そんな時間は、ただ食事を済ませるだけでは得られないものかもしれません。
では、そもそも安子さんと静男さんは、どうしてこれほど陶芸に夢中になったのでしょうか。その始まりは、ふたりで訪れた滋賀県・信楽への旅にありました。
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土に触れることが、なぜ夫婦の楽しみになったの?
土を手に取り、水を加え、指先で少しずつ形を整えていく。最初はただの土の塊だったものが、いつの間にか茶碗になり、小鉢になり、皿になっていく。陶芸には、そんな不思議な楽しさがあります。
けれども、思い描いた形に仕上がるとは限りません。少し力を入れすぎれば形がゆがみ、乾燥や焼成の過程で、予想とは違う表情になることもあります。思いどおりにならないからこそ、面白い。和歌山県有田市に暮らす吉田安子さんと静男さんも、そんな土の魅力に引き込まれた夫婦でした。
すべては、信楽への旅行から始まった
ふたりが陶芸に出会ったのは、今から12年ほど前のこと。滋賀県の信楽を旅行したとき、陶芸を体験したのがきっかけでした。信楽といえば、大きなタヌキの置物を思い浮かべる人も多いでしょう。けれども、信楽焼はタヌキだけではありません。
日本六古窯の一つに数えられ、古くから壺や甕、茶道具、日常使いの器など、さまざまな焼き物が作られてきました。素朴な土の風合いや、焼き上がりに生まれる自然な表情も、その魅力の一つです。
そんな信楽で初めて土に触れた安子さんは、こんな気持ちになったそうです。
「土を触った瞬間に温泉につかったようなほっこりした気分に…」
なんとも素敵な表現ですね。温泉につかったときのように、体の力がふっと抜けていく。安子さんにとって陶芸は、何か立派な作品を作るためのものというより、土に触れること自体が心地よい時間だったのかもしれません。
一方、静男さんが感じたのは、自分の作りたい形を作れる楽しさでした。同じ陶芸体験をしても、心を動かされたところは少し違っていたのです。
信楽の土には、大昔の湖の記憶がある?
ところで、信楽が焼き物の産地になった背景には、その土地の地質も関係しています。現在の琵琶湖がある近江盆地だけでなく、滋賀県南部から三重県北部にかけての地域には、遠い昔、湖や川が広がっていた時代がありました。
その水辺に堆積した粘土などが、長い地質の歴史を経て、焼き物に利用できる土の形成につながったと考えられています。信楽焼に使われる陶土にも、こうした古い地層に由来するものがあります。
私たちが何気なく手にする器の材料が、実は何百万年という時間をかけて生まれてきたものだと思うと、少し不思議な気持ちになります。
ただし、陶芸に使う土なら、何でもよいわけではありません。形を作りやすい粘りがあること。乾燥や焼成に耐えられること。焼き上がったときに、器として使える性質を持っていること。そうした条件を備えた土が、焼き物の文化を支えてきました。
安子さんと静男さんが信楽で出会ったのは、単なる土の塊ではなく、長い自然の歴史と人々の技術が重なった素材だったのです。
同じ土でも、ふたりの作品は違う
信楽での体験をきっかけに、すっかり陶芸に夢中になった安子さんと静男さん。やがて自宅に工房を作り、夫婦で作品を作るようになりました。それから10年以上。ふたりは、たくさんの器を生み出してきました。面白いのは、その作風が同じではないことです。
静男さんの作品は、端正で整った形。一方、安子さんの作品は、個性的な形が特徴なのだそうです。同じ場所で、同じ趣味を楽しんでいても、出来上がる器には、それぞれの感性が表れます。
静男さんは、自分の思い描いた形に近づけていくことが楽しいのかもしれません。安子さんは、土と向き合う中で生まれる、思いがけない形や表情を楽しんでいるのかもしれません。もちろん、これはふたりの作風から想像したこと。けれども、陶芸には、作り手の個性が自然に表れる面白さがあるのでしょう。
そして、夫婦だからといって、同じ作品を作る必要はありません。それぞれが好きなものを作り、それを見せ合う。同じ趣味を持ちながら、違う感性を楽しめることも、長く続けられる理由の一つなのかもしれません。
思いどおりにならないから、また作りたくなる
陶芸の作品は、形を整えれば完成というわけではありません。乾燥させ、必要に応じて素焼きをし、釉薬を掛け、本焼きをする。その過程で、土は収縮し、色や質感も変化します。焼き上がるまで、思い描いたとおりの器になるかどうか、わからない部分もあるのです。
もちろん、経験を積めば、形や焼き上がりをある程度コントロールできるようになります。それでも、手作りの器には、機械で同じ形を繰り返し作るのとは違う楽しみがあります。
一つ完成すると、また別の形を作ってみたくなる。今度はもう少し深い鉢にしようか。次は料理が映えるような平たい皿にしてみようか。そんなふうに、作りたいものが次々と浮かんでくるのかもしれません。
安子さんと静男さんの作品も、年月を重ねるうちに、どんどん増えていきました。そして、その器たちは、やがて夫婦の暮らしに新しい転機をもたらすことになります。
趣味の器が、誰かの食卓へ
趣味として陶芸を楽しむだけなら、作った器を自宅で使ったり、家族や友人に贈ったりすることもできるでしょう。でも、器が増え続けていくと、別の楽しみ方も考えたくなるのかもしれません。
せっかく作った器なのだから、もっとたくさんの人に使ってもらえたら。その器に料理を盛って、誰かに喜んでもらえたら…。そんな可能性を形にするきっかけを作ったのが、静男さんでした。
「作品を生かすために、カフェを始めたら?」
この一言が、安子さんの心を動かしたのです。土に触れることが楽しくて始めた陶芸。夫婦で作り続けてきた器。それが今度は、お客さんを迎えるための道具になろうとしていました。
趣味として作ってきたものが、誰かの喜びにつながっていく。そのとき、ふたりの陶芸は、夫婦だけの楽しみから、もっと広い世界へと歩き始めたのかもしれません。
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増え続ける器が、なぜカフェになったの?
自分の手で作った器が、少しずつ増えていく。最初は一つの茶碗だったかもしれません。次は小鉢、その次はお皿。作るたびに新しい発見があり、また次の作品を作りたくなる。
陶芸が好きな人にとって、作品が増えていくことは、楽しみの積み重ねでもあるのでしょう。けれども、どれほど気に入った器でも、棚にしまったままでは、誰かの料理を盛ることはありません。
和歌山県有田市の吉田安子さんと静男さん。ふたりが10年以上かけて作ってきた器は、ある日、思いがけない形で活躍の場を与えられることになりました。
中学1年生で出会った、ふたりの長い物語
安子さんと静男さんが初めて出会ったのは、中学1年生のときでした。同じクラスになったふたりは、お互いに好印象を持っていたものの、特別に意識するような存在ではなかったそうです。
中学を卒業すると、それぞれ別の高校へ進学。安子さんはその後、京都の短期大学へ進み、静男さんは地元で建築関係の仕事に就きました。別々の道を歩み始めたふたりが再会したのは、19歳の夏。きっかけは、同窓会でした。
久しぶりに安子さんと顔を合わせた静男さんは、彼女に好意を抱き、思い切って電話で交際を申し込んだといいます。そこから始まったのは、和歌山と京都を結ぶ遠距離恋愛。もしかしたら最初の電話は黒電話だったかもしれません。今のように、スマートフォンでいつでも顔を見ながら話せる時代ではありません。
離れた場所に暮らしながら、ふたりは少しずつ関係を深めていったのでしょう。そして23歳で結婚。やがて3人の息子に恵まれ、家族としての暮らしが始まりました。中学時代には、将来一緒にカフェを開くことになるなんて、きっと想像もしていなかったでしょうね。
仕事と子育ての先に見つけた、新しい楽しみ
結婚後、安子さんは3人の息子を育てながら、スーパーなどを運営する会社で仕入れ業務を担当してきました。一方の静男さんも、建築関係の仕事を続けていました。
仕事をして、家族を支え、子どもたちを育てる。そんな毎日の積み重ねの中で、ふたりは長い年月をともに過ごしてきたのです。そして、夫婦で信楽を訪れたことが、新しい楽しみを見つけるきっかけになりました。それが陶芸でした。
土に触れる心地よさに夢中になった安子さん。自分の作りたい形を生み出せることに魅力を感じた静男さん。ふたりは自宅に工房を作り、時間を見つけては器を作り続けました。
作品の形には、それぞれの個性が表れます。端正な静男さんの器と、個性的な安子さんの器。同じ趣味を楽しみながらも、作りたいものは必ずしも同じではありません。それが、ふたりにとって心地よい距離感だったのかもしれません。
「カフェを始めたら?」夫の一言が人生を動かした
陶芸を続けるうちに、作品はどんどん増えていきました。そこで、静男さんが安子さんに、ある提案をします。
「作品を生かすためにカフェを始めたら?」
この一言が、安子さんの心を動かしました。器は、飾って眺めるだけでも楽しめます。けれども、茶碗はご飯を盛るために、小鉢は料理を盛るために作られたものでもあります。実際に使われることで、器はまた違う魅力を見せてくれるでしょう。
自分たちの作った器に料理を盛り、お客さんに使ってもらう。そう考えると、カフェは、ふたりの作品にとって新しい舞台になるのです。
でも、器がたくさんあるからといって、それだけで飲食店を開けるわけではありません。お客さんにおいしい料理を出し、気持ちよく過ごしてもらうには、趣味とは違う知識や準備が必要になります。
そこで安子さんは、60歳からカフェの学校に通い、経営や接客など、店を始めるための基礎を学びました。そして61歳で、長年勤めてきた会社を退職します。好きなことを仕事にするために、まず新しいことを学ぶ。その姿には、安子さんの堅実さと、挑戦への思いが感じられます。
夫婦の得意なことを持ち寄って、カフェが生まれた
カフェの開店に向けて、静男さんも力を発揮しました。内装業を営む静男さんは、自宅の一部を改装し、カフェの空間を整えたのです。
安子さんは料理とおもてなしを担当し、静男さんは店づくりを支える。そして、食卓にはふたりが作った器が並ぶ。それぞれが長い年月をかけて身につけてきたことが、一つの場所で結びつきました。
こうして2022年2月、和歌山県有田市に『Lunch&Cafe よしだ』がオープンしました。カフェの主役は、安子さんが作る季節の料理。けれども、その料理を盛る器も、ふたりが長年大切にしてきた作品です。同じ料理を盛っても、器によって表情が変わる。
お客さんが器を手に取るたびに、作った人の工夫や思いが、食卓にそっと加わります。自宅の工房で生まれた作品たちは、ようやくたくさんの人に使ってもらえる場所を見つけたのです。
趣味が仕事になると、楽しさは変わるの?
趣味として作る器と、カフェでお客さんに使ってもらう器。その二つには、少し違う責任があります。自分で使う器なら、多少のゆがみも愛着になるでしょう。でも、お客さんに使ってもらうとなれば、料理を盛りやすいか、持ちやすいか、洗いやすいかといった実用性も大切になります。
食品に触れる器としての安全性や、繰り返し使える丈夫さも欠かせません。手作りだからこそ、何でも許されるわけではないのです。
そして、カフェである以上、料理そのもののおいしさも問われます。器が素敵でも、料理がおいしくなければ、お客さんは満足できないかもしれません。だから安子さんは、自分たちの作品を見てもらうだけでなく、料理でも喜んでもらおうとしているのでしょう。
考えてみれば、これは陶芸にとっても幸せなことかもしれません。棚に並んでいるだけだった器が、料理を盛られ、お客さんの手に取られ、食事の時間を支える。作品が、暮らしの中で役割を持つようになったのです。
そして、ふたりにとっても、カフェは単なる第二の仕事ではないのでしょう。長い年月をともに歩み、それぞれの仕事を続け、子どもたちを育ててきた夫婦。そのふたりが、今度は一緒に作ってきた器を使って、人をもてなしているのです。
器を作る楽しみが、誰かに喜んでもらう楽しみに変わっていく。そんな新しい人生の舞台で、安子さんはどんな料理を振る舞っているのでしょうか。次は、手作りの器に彩られた「とことん野菜」のランチをのぞいてみましょう。
Lunch&Cafe よしだ
- 和歌山県有田市糸我町中番218−1
- TEL:090-4304-5491
- 営業時間:10:00~17:00
- 定休日:火・水曜
- URL:https://www.instagram.com/landcyoshida1960/
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「とことん野菜」のランチは、なぜこんなに楽しいの?
テーブルに運ばれてきたランチを見て、思わず目を丸くする。小さな器がいくつも並び、その中には色とりどりの料理。どれから食べようか。そんなうれしい迷いも、食事の楽しみの一つではないでしょうか。
和歌山県有田市の『Lunch&Cafe よしだ』で提供されているのは、「とことん野菜DEおもてなしランチ」。季節の野菜を中心に、さまざまなおかずを楽しめるランチです。そして、その料理を盛られるのは、吉田安子さんと夫の静男さんが手作りした器たち。料理も器も、一つひとつ違う表情をしています。

野菜のおかずが八品もある理由は?
番組で紹介されるランチには、生春巻きや色とりどりのピクルスなど、野菜を使ったおかずが八品も登場します。野菜中心の料理というと、サラダや煮物を思い浮かべる人も多いかもしれません。けれども、野菜の楽しみ方はそれだけではありません。
生のまま味わえば、みずみずしさや歯ごたえを楽しめます。火を通せば、柔らかくなったり、甘みが引き立ったりする野菜もあります。酢に漬ければ、さっぱりとした酸味が加わります。同じ野菜でも、切り方や調理法、味付けによって、まったく違う一品になるのです。
八品のおかずが並ぶということは、それだけ違う味や食感に出会えるということ。一皿ずつ少しずつ味わう楽しさは、野菜料理の魅力を改めて感じさせてくれるのかもしれません。ただし、品数が多ければ、それだけでおいしいというわけではありません。
大切なのは、それぞれの料理がきちんとおいしく、最後まで楽しく食べられること。安子さんが目指しているのも、そんな食卓なのではないでしょうか。
人気の「里芋まんじゅう」には、どんな工夫があるの?
数あるおかずの中でも、人気なのが「里芋まんじゅう」です。茹でてつぶした里芋でエビを包み、油で揚げるという、安子さん自慢の一品。
里芋には、加熱すると柔らかくなり、独特の粘りやなめらかさが生まれる特徴があります。その里芋でエビを包むと、外側の柔らかな食感と、内側のエビの歯ごたえを組み合わせることができます。さらに油で揚げることで、表面には香ばしさも加わるでしょう。

一つの料理の中に、いくつもの食感が重なっているのです。しかも、里芋まんじゅうは、器との取り合わせを考えるのも楽しそうな料理です。少し深い鉢に盛れば、丸い形が愛らしく見えるかもしれません。落ち着いた色の器なら、揚げた表面の色合いが引き立ちそうです。
料理を作るときから、盛り付ける器まで思い浮かべられる。そんな楽しさも、自分で器を作る安子さんならではのものかもしれません。
同じ器がないから、食卓が楽しくなる?
一般的な飲食店では、同じ料理には同じ器を使うことが多いでしょう。盛り付けをそろえやすく、料理を安定して提供できる上に収納にも便利です。ところが、『Lunch&Cafe よしだ』の器は、一点一点趣が異なります。
丸みのある器、少し角張った器、明るい色の、土の素朴な表情が残る器…。それぞれの形や色に合わせて料理が盛られることで、食卓に変化が生まれます。
例えば、鮮やかな野菜のピクルスを落ち着いた色の器に盛れば、野菜の色がより印象的に見えるかもしれません。反対に、素朴な色合いの料理なら、器の釉薬や形がアクセントになることもあるでしょう。器が料理を引き立て、料理が器の魅力を引き出す。その組み合わせを楽しめるのが、手作りの器を使うカフェの面白さなのだと思います。
ただし、器が違えば、必ず料理がおいしく感じられるというわけではありません。食べる人の好みもありますし、器の大きさや形によっては、料理を食べにくくしてしまうこともあります。だからこそ、器選びにも工夫が必要なのでしょう。見た目の美しさと、食べやすさ。その両方がそろってこそ、食事の楽しさにつながるのです。
「この器には何を盛ろう?」から始まる料理もある?
普通、飲食店では、まず料理を決めて、それに合う器を選ぶことが多いでしょう。けれども、安子さんと静男さんのように、器そのものを作っている夫婦なら、逆の発想もできそうです。
「この器には、どんな料理が似合うだろう?」
少し大きめの鉢が焼き上がったら、彩りのよい野菜を盛りたくなるかもしれません。小さな器ができたら、ひと口で楽しめる料理を考えてみたくなるかもしれません。もちろん、実際に安子さんが器から献立を考えているかどうかはわかりません。
けれども、自分の作った器に自分の料理を盛るということは、陶芸と料理の両方を楽しめるということです。器を作るときには、料理を思い浮かべる。料理を作るときには、器を思い浮かべる。そんなふうに二つの楽しみがつながっているとしたら、毎日の献立を考える時間も、少し違って見えてくるのではないでしょうか。
「おもてなし」は、料理のおいしさから始まる
ここまで器の魅力を見てきましたが、忘れてはいけないことがあります。ここは陶芸作品の展示場ではなく、お客さんがお金を払って食事を楽しむカフェだということです。どんなに美しい器でも、料理がおいしくなければ、お客さんは満足できないでしょう。
反対に、料理がおいしければ、そこに素敵な器が加わることで、食事の楽しみがさらに広がるかもしれません。安子さんは、長年勤めた会社を退職する前に、60歳からカフェの学校に通い、店を始めるための基礎を学びました。自分の好きな器を使うだけではなく、お客さんに喜んでもらえる店にするための準備を重ねたのです。
そして、野菜を中心とした八品のおかずを用意し、一つひとつ手作りの器に盛り付けています。そこには、器を見てほしいという思いだけでなく、料理をおいしく食べてほしいという気持ちも込められているのでしょう。
おいしい料理があるから、器が生きる。素敵な器があるから、料理を味わう時間がもっと楽しくなる。
その二つが出会うところに、『Lunch&Cafe よしだ』ならではのおもてなしがあるのかもしれません。
そして、食事が終わったあとに残るのは、料理や器の印象だけではないはずです。安子さんの笑顔や、静男さんの支え、店で過ごした温かな時間。次は、そんな人と人とのつながりに目を向けてみましょう。
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おもてなしの心は、器にも盛り付けられるの?
楽しい食事の時間は、料理を食べ終えた瞬間に終わるのでしょうか。最後のひと口を味わい、お茶を飲みながら、ふと目の前の器を眺める。少し丸みのある小鉢。土の風合いが残るお皿。手に取ると、指先に伝わってくる、手作りならではの感触。おいしい料理を食べた満足感とともに、そんな器の表情が心に残ることもあるでしょう。
和歌山県有田市の『Lunch&Cafe よしだ』。吉田安子さんと夫の静男さんが営むこのカフェには、料理を食べるだけではない、もう一つの楽しみがあります。
おもてなしは、お客さんが来る前から始まっている
飲食店でお客さんが目にするのは、料理が運ばれてくる瞬間や、店の人が笑顔で迎えてくれる姿です。けれども、その一皿が出来上がるまでには、たくさんの準備があります。
食材を選び、洗い、切り、下ごしらえをする。時間のかかる料理は、あらかじめ必要なところまで仕込んでおく。お客さんが注文してから、できるだけよい状態で、無理なく料理を提供できるように整えておくのです。
『Lunch&Cafe よしだ』のランチには、野菜を中心とした八品のおかずが並びます。生春巻きやピクルス、里芋まんじゅうなど、それぞれに異なる調理工程があります。これだけの料理を用意するには、献立を考えることはもちろん、仕込みの段取りも大切になるでしょう。
安子さんは、60歳からカフェの学校で基礎を学び、長年勤めた会社を退職して店を開きました。自分の料理をお客さんに食べてもらうために、趣味とは違う準備を重ねてきたのです。
おもてなしとは、ただ笑顔で「いらっしゃいませ」と声をかけることだけではありません。お客さんが席に着く前から、その時間を気持ちよく過ごしてもらうための仕事が始まっているのです。
ふたりの器には、何年分の時間が詰まっているの?
そして、このカフェには、もう一つ特別な準備があります。それが、料理を盛る器です。安子さんと静男さんは、信楽への旅行をきっかけに陶芸に夢中になり、自宅に工房を作って、10年以上にわたって作品を作り続けてきました。
器を一つ作るにも、土を形づくり、乾燥させ、焼き上げるまでに時間がかかります。思いどおりの形にならないこともあれば、焼き上がって初めて気づく表情もあるでしょう。そうして作られた器が、今はカフェの食卓に並んでいます。
考えてみれば、お客さんが料理を食べるのは、ほんのひとときです。けれども、その料理を受け止めている器には、ふたりが陶芸を楽しんできた長い時間が重なっています。しかも、作品の個性はそれぞれ違います。静男さんが作る端正な器。安子さんが作る、個性的な器。形も色も違う作品たちが、同じ食卓で料理を引き立てているのです。
一つのランチを完成させるために、今日の仕込みだけでなく、何年も前から続いてきた手仕事が生かされている。それも、このカフェならではのおもてなしなのかもしれません。
お客さんの笑顔が、作品の新しい喜びになる
陶芸を趣味として楽しんでいた頃、ふたりにとって器を作ること自体が喜びだったのでしょう。土に触れる心地よさ。自分の思い描いた形が出来上がる楽しさ。焼き上がった作品を手にするうれしさ。
けれども、カフェを始めたことで、そこに新しい喜びが加わりました。自分たちが作った器を、お客さんが実際に使ってくれることです。
器は、棚に飾られているだけでも美しいものです。でも、料理が盛られ、誰かの手に取られたとき、初めて見えてくる魅力もあります。小鉢に盛られた野菜料理が、思いがけず器の色に映えることもあるでしょう。
お客さんが器の形に興味を持ち、作った人の話を聞いてみたくなることもあるかもしれません。もちろん、実際にお客さんとどんな会話が交わされているのかはわかりません。それでも、ふたりの器が料理を通してお客さんの目に触れ、手に取られるようになったことは確かです。
作品が誰かの暮らしの時間に加わる。それは、作ることが好きなふたりにとって、うれしい変化だったのではないでしょうか。
夫婦の違いが、一つの食卓を作っている
安子さんと静男さんは、中学1年生で同じクラスになりました。19歳の夏に再会し、遠距離恋愛を経て結婚。3人の息子を育て、長い年月をともに歩んできました。そして今、ふたりは同じカフェを支えています。安子さんは料理を作り、お客さんをもてなす。静男さんは、自分の仕事で培った技術を生かして店の空間を整え、妻を支える。
もちろん、陶芸はふたり共通の楽しみです。でも、作る器の個性は違います。夫婦だからといって、同じものを作る必要はありません。同じ考え方をする必要も、同じ役割を担う必要もないのでしょう。それぞれが得意なことを持ち寄ることで、一つの店が成り立っているのです。
そして、ふたりの挑戦を応援する家族や仲間たちの存在もあります。カフェは、安子さんと静男さんだけの作品ではなく、周囲の人たちとのつながりの中で育っている場所なのかもしれません。形の違う器が、一つの食卓に並ぶ。それは、違う個性を持つふたりが、一緒に人生を歩んできた姿にも、どこか重なって見えます。
おもてなしの心は、器にも盛り付けられるの?
では、最初の問いに戻りましょう。料理の味は、器で変わるのでしょうか。器の色や形、手触りによって、料理の印象や食べ心地が変わることはあります。けれども、どれほど素敵な器でも、料理そのものがおいしくなければ、お客さんは満足できないでしょう。
安子さんが手間をかけて作る野菜料理。その料理を引き立てる、ふたりの手作りの器。そして、食事を楽しんでもらおうとする気持ち。そのすべてが重なって、『Lunch&Cafe よしだ』の食卓が生まれているのです。
おもてなしの心は、目に見えるものではありません。けれども、丁寧に仕込まれた料理や、使う人のことを考えて作られた器、居心地のよい空間には、その思いが少しずつ表れているのでしょう。
おいしい料理を食べて、満足する。素敵な器に出会って、心が弾む。そして、店を出るときに「また来たいな」と思える。そんな時間を作れることが、ふたりにとって何よりの喜びなのかもしれません。
器に盛られているのは料理。でも、その食卓を満たしているのは、人を喜ばせたいという気持ち。和歌山・有田の小さなカフェには、長い年月をともに歩んできた夫婦が作る、温かな食卓がありました。食事を終えて席を立つとき、ふと振り返れば、テーブルにはもう空になった器が並んでいます。
さっきまで料理を彩っていた器たち。次は、どんな料理を盛って、誰を笑顔にするのでしょうか。そんなことを想像すると、なんだかもう一度、このカフェを訪ねてみたくなります。
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