日本最大の湖、琵琶湖。その水面はおだやかに広がっていますが、この湖にはおよそ400万年という長い歴史が刻まれています。日本列島が形を変えていく地球の時間の中で生まれ、今も静かに水をたたえる「古代湖」です。
その長い時間のそばで、人々は暮らしを営み、文化を育んできました。湖畔には比叡山のふもとに広がる寺院や信仰の地があり、湖の恵みは漁業や発酵食など独自の食文化を生み出しました。湖とともに積み重ねられてきた歴史は、京都にもほど近いこの地に、独特の風景と文化を形づくっています。
「美の壺」では、いにしえの息吹を今に伝える琵琶湖に注目。古代湖が育んできた自然、信仰、そして食文化の魅力をたどりながら、湖に宿る静かな美しさをひもといていきます。
【放送日:2026年3月11日(水)19:30 -20:00・NHK-BSP4K】
【放送日:2026年3月17日(火)19:30 -20:00・NHK-BS】
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琵琶湖ってどんな湖?400万年続く古代湖の秘密とは?
琵琶湖は日本最大の湖として知られていますが、その特徴は大きさだけではありません。この湖には、およそ400万年という非常に長い歴史があります。こうした長い時間を生き続けてきた湖は「古代湖」と呼ばれ、世界でも数えるほどしか存在しません。
現在の琵琶湖は、はじめからこの場所にあったわけではありません。地質学の研究によると、かつての「古琵琶湖」は現在より南東、三重県の伊賀や信楽周辺にあったと考えられています。地殻変動によって湖盆が少しずつ北西へ移動し、長い年月をかけて現在の位置へと移ってきました。
その名残は、信楽の土にも見ることができます。信楽周辺に広がる粘土質の土は、かつて湖の底に堆積した泥がもとになっているといわれ、これが”タヌキの置物”で有名な信楽焼の陶土として利用されてきました。
ちなみにこのタヌキの置物は、明治時代初期に京都から信楽に移り住んだ陶芸家が、制作したのが始まりといわれています。かつて昭和天皇の信楽行幸の際、日の丸の旗を持たせたタヌキを並べて歓迎した情景が新聞などで報道され、全国的に知名度が広まりました。

さらに琵琶湖が長い時間を保ち続けている理由の一つが、湖の周辺にある断層運動です。湖の底はゆっくりと沈み続けており、川から流れ込む土砂で埋まるよりも沈降の速度が上回ることで、湖の形が保たれていると考えられています。
こうして400万年という長い時間をかけて形づくられてきた琵琶湖。その静かな水面の下には、日本列島の成り立ちとも深く関わる地球の歴史が刻まれているのです。
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祈りの湖―竹生島と比叡山が見守る信仰の風景
琵琶湖は古くから人々の祈りの場でもありました。湖に浮かぶ島や湖畔の山には、長い歴史を持つ寺社が建てられ、信仰の風景が形づくられてきました。
湖の北部に浮かぶ竹生島(ちくぶしま)は、古くから神仏が宿る島として知られています。島には「宝厳寺」や「都久夫須麻神社」があり、湖上の聖地として多くの人々の信仰を集めてきました。
一方、琵琶湖の西岸には比叡山がそびえています。この山には奈良時代に最澄が開いた、天台宗の総本山である延暦寺があり、日本仏教の中心地の一つとして長い歴史を刻んできました。
湖に浮かぶ島と、湖を見守る山。琵琶湖の風景には、自然の美しさだけでなく、人々の祈りの歴史が静かに重なっています。湖の水面に広がる静けさの中には、古くから続く信仰の時間もまた息づいているのです。
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湖の恵みが生んだ発酵文化―ふなずしの美
琵琶湖の豊かな水は、独自の食文化も育んできました。その代表が、湖の魚を使った発酵食品「ふなずし」です。ふなずしは、琵琶湖に生息するニゴロブナを塩で漬けたあと、米とともに長い時間をかけて発酵させて作ります。強い酸味と独特の香りを持つこの料理は、滋賀県を代表する伝統食として知られています。
この製法は、魚を長期間保存するための知恵から生まれました。発酵によって保存性が高まり、同時に独特の風味が生まれます。こうした「なれずし」は、現在の寿司の原型ともいわれています。
琵琶湖の魚と米、そして長い時間。ふなずしは、湖の自然と人の暮らしが重なって生まれた食文化の象徴ともいえる存在です。強い個性を持つその味は、長い歴史を受け継いできた琵琶湖の文化そのものなのかもしれません。
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古代湖が育てた命―琵琶湖の固有生物
400万年という長い歴史を持つ琵琶湖は、多くの固有生物が生きる場所でもあります。長い時間、湖という環境が保たれてきたことで、ここで独自に進化した生きものが数多く生まれました。
その代表的な存在の一つがビワマスです。ビワマスはサケの仲間ですが、海へは下らず、琵琶湖の中だけで一生を過ごします。湖で成長し、やがて川に戻って産卵するという独特の生活を送っています。
また琵琶湖には、湖に適応したアユも生息しています。一般的なアユは海へ下る魚ですが、琵琶湖のアユは湖で成長する陸封型の個体群として知られています。
ふなずしにもなるニゴロブナは、分類学的には、コイ目コイ科コイ亜科に属するフナの琵琶湖亜種です。長い間、琵琶湖という閉鎖的な環境にいたために、他のフナ種と比べて頭部は大きく、ずんぐりしておらず、身(体幅)は厚いという特徴を持つようになったと考えられています。
このような固有の生きものが多いのは、琵琶湖が長い時間をかけて独自の環境を保ってきた古代湖だからです。湖の水面は静かに見えますが、その中には長い時間の中で育まれてきた命の歴史が息づいています。
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美の壺「琵琶湖」の見どころ
「美の壺」では、日本最大の湖である琵琶湖に息づく美しさに注目します。およそ400万年の歴史を持つ古代湖の風景は、長い時間の中で自然と人の文化を育んできました。
湖に浮かぶ竹生島は、古くから信仰を集めてきた聖地です。湖の静かな水面に浮かぶ島の姿は、琵琶湖の象徴的な風景の一つとなっています。
また琵琶湖は、発酵食「ふなずし」など独自の食文化を育ててきました。湖の恵みと人々の知恵が重なり合うことで、地域ならではの味が生まれています。
さらに琵琶湖は、ビワマスや湖産アユなど独自の生態系を育む場所でもあります。長い年月の中で形づくられてきた湖の環境が、特別な命の世界を生み出してきました。
「美の壺」では、こうした自然・信仰・食文化を通して、琵琶湖に宿る「いにしえの息吹」を美しい映像で描き出します。
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まとめ|古代湖が伝える琵琶湖の美
日本最大の湖である琵琶湖は、約400万年という長い歴史を持つ古代湖です。日本列島の地形が変化する中で生まれ、今もその水をたたえ続けています。
その長い時間のそばで、人々は祈りの場を築き、湖の恵みを生かした食文化を育ててきました。竹生島に残る信仰の風景や、ふなずしに代表される発酵文化、そしてビワマスなど独自の生きものたち。琵琶湖には自然と人の歴史が重なり合った独特の文化が息づいています。
400万年という地球の時間から見れば、人の歴史はほんの一瞬かもしれません。それでも人々は湖とともに暮らし、自然の恵みを受けながら文化を紡いできました。
「美の壺」が映し出す琵琶湖の風景は、古代から続く自然と人の営みが重なって生まれた静かな美しさを、私たちにあらためて気づかせてくれます。