うまいッ!|“鍋壊し”の異名を持つ魚──北海道・森町のカジカが冬に旨い理由とは?

カジカ鍋を食べるまどか BLOG
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北海道の冬、海の底から現れる“謎多き魚”がいます。その名はカジカ。ゴツゴツとした見た目とは裏腹に、地元では「鍋一択」と言われるほど愛される冬の味覚です。とくに冬にたっぷりと脂を蓄えた肝を溶かした濃厚なだしは格別。

NHK「うまいッ!」では、食材ハンターの板橋駿谷さんが、北海道・森町でカジカのおいしさの秘密を深掘りします。生きたまま水揚げする“底建て網漁”のこだわりや、地元に伝わる料理とともに、北の海が育てた極上の旨味に迫ります。

【放送日:2026年2月15日(日)11:30 -11:54・NHK-総合】

“鍋壊し”の異名を持つ魚──なぜそこまで旨いのか?

北海道で大型のカジカは、時に「鍋壊し」と呼ばれます。由来には諸説あります。身が締まりすぎて鍋を傷つけるほど骨が太いから、あるいは、あまりの旨さに箸が止まらず“鍋の底を突いてしまう”から…。どちらにせよ、ただの魚につく名前ではありません。

カジカは主に冷たい海の底に生息する魚。北海道では70センチほどにも成長します。ゴツゴツした頭部、大きな口、岩のような体色。見た目は正直、愛嬌というより迫力。けれど、寒海で育った白身は驚くほど上品で、熱を通すとふわりとほぐれます。

そして真価を発揮するのが「肝」。冬にたっぷりと脂を蓄えた肝を鍋に溶かすと、味噌やだしと一体になり、濃厚で深いコクが広がる。これは単なる魚の鍋ではありません。海の旨味を丸ごと溶かし込んだスープ。

寒い海ほど、魚は脂を蓄え、身を締める。水温が低いと代謝が抑えられ、エネルギーを体内に留めるからです。その理屈が、そのまま味になる。だからこそ、冬のカジカは特別。

見た目に驚き、出汁に驚き、最後にもう一度、肝の旨味に驚く。“鍋壊し”の名は、豪快さの象徴であり、北の冬への敬意でもあるのです。

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カジカってどんな魚?寒海にすむ“岩のような”魚

カジカは、北海道をはじめとする冷たい海に生息する底魚(そこうお)です。海底の岩場や砂地にじっと身を潜め、小魚や甲殻類を食べて暮らしています。北海道で水揚げされるカジカは、成長すると70センチほどにもなることがあります。

大きな頭、広い口、ゴツゴツとした体つき。見た目はまるで“海の怪獣”。けれど、その体は寒さに適応した合理的な構造でもあります。冷たい海では、魚はエネルギーを効率よく蓄える必要があります。

そのため、冬場には脂がのり、肝も大きく発達します。また、カジカは浮き袋を持たず、海底で生活する魚。身が締まりやすく、火を通しても崩れにくいのが特徴です。

分類としてはカジカ科の仲間で、地域によって呼び名や種類が異なります。北海道では大型のトゲカジカ類が主に食用として親しまれています。伊豆半島で見られるアナハゼなども同じカジカ科ですが、大きさも味わいも別物です。

同じ“カジカの仲間”でも、北の海で育つ個体は別格の存在感を持ちます。ゴツい見た目。でも、繊細な白身。そのギャップこそが、カジカの魅力なのです。

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海底に構える「底建て網漁」──鮮度を守るための知恵

北海道・森町の噴火湾で行われているのが、「底建て網漁(そこだてあみりょう)」です。名前の通り、海底に網を“建てる”ように設置する漁法。魚が通ると見込まれる場所に箱状の網を固定し、そこに入ってくるのを待ちます。海底に設置する定置網のようなものです。

底建て網漁(出典:YUIME Japan)
底建て網漁(出典:YUIME Japan)

海底を引きずる底引き網とは違い、網を長時間動かさないため、魚への負担が比較的少ないのが特徴です。岩場や砂地で暮らすカジカは、海底を移動しながら餌を探します。その習性を読み、通り道に網を構える。力任せではなく、海を読む漁。そして大切なのは、その後です。

カジカは鍋でこそ真価を発揮する魚。特に冬に脂を蓄えた肝は、鮮度が落ちると風味も変わってしまいます。だから漁師は、水揚げ後できるだけ早く漁を切り上げ、市場へと急ぎます。

生きたまま揚げられたカジカを、素早く運ぶ。豪快な見た目とは裏腹に、扱いはとても繊細。噴火湾の冷たい海で育った旨味を、できるだけそのまま食卓へ届けるための工夫です。

海の底で静かに網を構え、短時間で引き揚げ、すぐに次の場所へ。その一連の流れがあってこそ、濃厚なカジカ鍋の出汁は生まれます。“鍋壊し”の豪快さの裏側には、漁師の緻密な仕事があるのです。

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湯気の向こうに広がる旨味──森町のカジカ汁

大きな鍋に、ぶつ切りにしたカジカを入れる。骨も、皮も、余すところなく。火にかけると、白身はゆっくりとほどけ、皮のまわりからゼラチン質が溶け出していきます。そこに味噌。そして冬にたっぷりと脂を蓄えた肝を溶き入れる。

鍋の中で肝がほぐれた瞬間、だしの色が一段と深まる。湯気の向こうから立ち上る香りは、魚の旨味というより、海そのもの。

ひと口すすると、最初に広がるのは味噌のやわらかさ。そのあとから、肝の濃厚なコクが追いかけてくる。白身はふわりとやさしく、骨まわりからは強いだし。派手ではない。けれど、深い。寒い日に体の芯から温まる、まさに北の冬の味です。

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いつか、本場で味わってみたい一杯

正直に言えば、私はまだ本場のカジカ鍋を味わったことがありません。伊豆で見かけるアナハゼとは、同じカジカ科でもまるで別の存在。

噴火湾で育ち、“鍋壊し”と呼ばれるほどの旨味を秘めたカジカ。いつか森町を訪れ、漁師のこだわりが詰まった一杯を、湯気越しに味わってみたい。

海の冷たさと、人の温かさ。その両方が溶け合ったような味なのだろうと、想像している。知らない味だからこそ、心が動く。北の海が育てた旨味は、まだ出会っていない未来の一口へと続いています。

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まとめ

北海道・森町のカジカは、見た目の迫力とは裏腹に、冬の海が育てた繊細な旨味を秘めた魚です。“鍋壊し”と呼ばれるほどの存在感は、豪快さの象徴であると同時に、寒海の恵みと漁師の丁寧な仕事の結晶でもあります。

海底に構える底建て網漁。生きたまま水揚げし、急いで市場へ運ぶこだわり。そして肝を溶かした濃厚なだし。その一杯には、北の海と人の営みが溶け込んでいます。

まだ味わったことがなくても、湯気の向こうに広がる景色は想像できる。寒い日に鍋を囲み、最初のひと口をすする瞬間。きっとそこには、“北の大地の味覚”と呼ばれる理由があるはずです。

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