朝ドラ『ばけばけ』。タイトルを耳にして、「えっ、おばけのドラマ?」と首をかしげた方も多いのではないでしょうか。中には小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の『怪談』を思い浮かべてしまった人もいるかもしれません。
実はこの言葉には、明治という激動の時代を生き抜いた人々の「変化(化ける)」を描く深い意味が込められています。本作のヒロイン・トキ(演:髙石あかり)は、社会の価値観が急速に変わる中で自らの人生を模索し、出会った人々とともに成長しながら、かけがえのないものへと“化けていく”のです。
この物語の核心は“化ける”こと。明治という激動の時代を舞台に、ヒロインのトキがさまざまな出会いと経験を通して成長し、やがて“かけがえのないもの”へと世界を化けさせていく姿が描かれていきます。
朝ドラ『ばけばけ』のタイトルに込められた意味とは?
『ばけばけ』というユニークな響きのタイトルは、単なる“おばけ”や“怪談”を指しているわけではありません。NHKの公式ブログによれば、「化ける物語」であることが強調されています。
明治期の日本は、近代化の波により暮らしや価値観が大きく変わった時代です。人々は新しい時代に適応して“化ける”ことで生き延びたり、一方で変化に取り残され“怪談”として語られる存在になったりしました。
さらに、ブログには次のような印象的な一文があります。
トキは妖怪よりも厄介な異国人に手を焼きつつも、やがて心を通わせ、うらめしかったこの世界が、かけがえのない素晴らしいものに“化けていく”のです。
こうした背景を踏まえると、『ばけばけ』は「人も時代も“化ける”物語」であると同時に、「怪談」という文化を通じて“失われたものが別の形に化けて残る”という二重の意味を含んでいるといえるでしょう。
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現在のお話の進捗状況は?
現在、11月20日現在(第8週・39話放送終了時点)では、明治維新で没落してしまった士族の松野家(祖父・勘右衛門<演:小日向 文世>、父・司之介<演:岡部 たかし>、母・フミ<演:池脇 千鶴>)の一人娘として育てられた(実の父母は上級武士の雨清水傳<演:堤 真一>とタエ<演:北川 景子>の間に生まれた)が、生まれた時に秘密裏に養女として松野家に預けられたことがトキ本人にも知られてしまっている。
松野家は没落士族だったが”武士として”「仕事はしない!」と言い切る父と祖父によって極貧の生活を強いられていた。しかしあるとき父が調子のいい男の口車に乗せられて始めた「うさぎのブリーダー」の仕事がうまくいき始めた途端に”ウサギ相場の暴落”で莫大な借金を負ってしまい、「松江の血」ともいわれるシジミ汁さえ口にできなくなってしまった。と、ここまでがお話の冒頭部分です。
トキは機織り工場に就職するも会社が破綻して無職に!そして…
トキは伯父(実の父だとあとでわかる)の雨清水傳<演:堤 真一>の経営する機織り工場で働き始めるが、実は本当の父親だと告白されたとたんに伯父の雨清水傳は病の発作で亡くなってしまう。工場をクビになったトキは働き口を探すが見つからず、婿を取って働かすことにして、「婿に来てもいい」という銀次郎と祝言をあげた。
銀次郎は松野家の借金返済のために死に物狂いで働かされるが、やがてそれも限界が来て東京に逃げてしまう。トキは銀次郎を追って東京にやってくるが、銀次郎に「松江を捨てて東京で二人で暮らそう」と言われてしまう。
松野家を捨てられないトキは一人で松江に戻ってシジミ売りの行商でなんとか生き延びているものの、借金取りの厳しい取り立てにマイってしまう。そんな時に実の母であるタエ<演:北川 景子>が物乞い(いわゆる”乞食”)に身を落としている姿を見てしまう。
そんな折に松江に英語教師として派遣されたレフカダ・ヘブン(演:トミー・バストウ)という異人が高給で”女中”を探している話を聞くが、あまりの給料の高さ(旅館の女中の月給が90銭の時代に月給40円)にラシャメン(異人の妾)だと勘違いするが、物乞いになっている実の母を捨ておくことが出来ずに、トキは女中になることにした。しかし実はレフカダ・ヘブンが探していたのは普通の女中だということがわかる。
...というところまでが現在の物語の進捗です。
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主人公トキはどのように“化ける”(変化する)のか?
主人公のトキ(高石あかりさん)は、明治の松江で生まれた没落士族の娘です。家の名は立派でも生活は苦しく、矛盾を抱えながら日々を送る少女でした。
明治という時代は、西洋文化が一気に押し寄せ、人々の暮らしや価値観が急速に変化していきました。士族の家に生まれたトキもまた、その変化の波に翻弄され、従来の価値観に縛られながらも「新しい自分」に化けざるを得ない立場に置かれます。
そんなトキが出会うのが、異国からやってきた作家志望のレフカダ・ヘブン(小泉八雲をモデルとした人物)。彼は日本文化に強い関心を持つ“よそ者”でした。最初は言葉も通じず、価値観も立場も異なる二人ですが、やがて「怪談」という共通の関心を通じて心を通わせていくことになるのでしょう。
ここでいう“化ける”とは、
- 没落士族の娘から、時代を生き抜く女性へ
- 異国人との結婚を通じて、閉じた社会から開かれた価値観へ
- うらめしさを抱えた日々から、人生の喜びを見出す人へ
を指しています。つまり『ばけばけ』は、トキという一人の娘が、激動の時代のなかで「どう化けるか」を描く物語です。その姿を通して、視聴者もまた「時代に流される自分」と「自分らしく生きたい自分」との間で揺れる気持ちに共感できるのではないでしょうか?
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まとめ
朝ドラ『ばけばけ』のタイトルには、「おばけ」のユーモラスな響き以上に、「化ける=変わる」という大きなテーマが込められています。明治という激動の時代に翻弄されながらも、新しい価値観に出会い、主人公トキ自身が成長していく姿。その“化ける”過程こそが、物語の真髄といえるでしょう。
このドラマでは「失われるもの」と「生まれ変わるもの」のせめぎ合いが描かれていきます。この先、トキがどんなふうに“化けて”いくのか。朝ドラ『ばけばけ』は、単なる成長物語にとどまらず、時代を超えて普遍的な問いを投げかけてくれる作品になりそうです。