野球といえば、投げる・打つ・走るという動作に目が向きがちですが、その陰には「道具を支える木」の物語があります。
北海道・北広島市では今、その「道具づくりの裏側」に新たな動きが始まっています。プロ野球・日本ハムファイターズの本拠地「エスコンフィールド北海道」のすぐ近くに、“純北海道産バット”の生産拠点が誕生しました。
道産材を使ったバットづくりに加え、折れたバットを回収して再利用したり、福祉施設と連携して生産を担ったりと、“グッドサイクル(良い循環)”を体現する取り組みとして注目されています。
「あさイチ」の中継でも取り上げられるこのプロジェクト。その背景を知っておくと、より深く楽しめるはずです。
北海道産バットの生産拠点が北広島に誕生
北広島市に立ち上がったのは、北海道産の木材だけでバットを生産する工房です。
“エスコンのお膝元”という立地も象徴的で、野球の街として盛り上がるエリアに、木材加工とスポーツ文化が一体となった新しい産業が育とうとしています。
●なぜ今「道産材のバット」なのか?
これまでプロ野球選手が使うバットの多くは、北米産のメイプル材やアオダモ(東北〜北海道で一部使用)などが主流でした。
しかし近年、輸入材の高騰や供給不安定化が課題となり、代わりに道産のダケカンバやイタヤカエデといった“地元の木”が見直され始めました。「地元の木で作り、地元の選手や子どもたちに使ってもらう」、そんなサイクルを形にするために、この拠点が立ち上がったのです。
●生産を担うのは「福祉施設」との協力体制
工房の製造には、**隣接する福祉会(北広島セルプ)**も参加しています。単なる木工品づくりではなく、障がいのある方の雇用や地域との共同事業として成り立っている点も大きな特徴です。“ものづくり”と“福祉”を掛け合わせることで、”「作る人にも支える人にも価値が巡るバットづくり」”が実現しています。
技術と循環が支える「グッドサイクル型バットづくり」
北海道・北広島で始まったバットプロジェクトが注目されている理由の一つが、「乾燥技術」と「再利用の仕組み」にあります。単に木を削ってバットにしているわけではなく、打撃性能・耐久性・環境配慮のすべてを両立させる仕組みづくりが行われています。
●特許取得の乾燥機で「含水率3〜5%」を実現
木製バットの性能は、”素材中にどれだけ水分が含まれているか(含水率)”によって大きく変わります。含水率が高いバットは打球時にエネルギーが逃げてしまい、折れやすくなると言われています。
そこで工房では、独自開発の「減圧式乾燥機」(特許取得)を導入。通常の天然乾燥では数週間〜数カ月かかるところを、短期間で含水率3〜5%まで低下させることが可能になりました。この高い乾燥技術によって、「軽くて強い」道産バットが作られているのです。
●折れたバットは“終わり”ではなく“次の役割”へ
プロ選手が使ったバットでも、折れてしまったら廃棄される…というのがこれまでの常識でした。しかし北広島のプロジェクトでは、折れたバットを回収し、再加工して子どもたちに提供する取り組みが始まっています。
一度役目を終えたバットが、
再び**「次世代の野球少年の道具」や「練習用のティーバット」**として生まれ変わる。
この取り組みは、単なる資源再利用ではなく、”プロのプレーと子どもの未来をつなぐ架け橋”としても象徴的な役割を担っています。
次章では、さらに広がりを見せる
🌳 「木を植えるところから始めるバットづくり(植樹プロジェクト)」
🤝 「地域・教育・ファンが参加できる循環モデル」
について触れていきます。
60年後のバットを育てる——アオダモ植樹プロジェクトと資源循環
野球用バットに適した木材として知られるアオダモは、かつて北海道を中心に広く自生していました。しかし過去には伐採が計画的に行われず、その結果、将来的な資源枯渇の懸念が指摘されるようになりました。
こうした背景から、2000年に「アオダモ資源育成の会」が発足。日本ハムファイターズをはじめ、アマチュア野球団体や「日本野球の杜」などが参加し、継続的な植樹活動が行われています。
●栗山元監督(現・ファイターズアドバイザー)も自ら下草刈りに参加
植樹は“植えて終わり”ではなく、動物による食害防止や雑草管理といった維持作業が欠かせません。
ファイターズの**栗山元監督(現・ファイターズアドバイザー)**も現地での作業に参加しており、
エゾシカによる被害を防ぐための防護ネットを巻くほか、下草刈りも継続的に行っているそうです。
●アオダモがバットになるまで「60〜70年」
アオダモは成長が遅く、植えてから実際にバット材として利用できるまで約60〜70年かかると言われています。つまり、現在植えられている木は、植えた人自身が使うためのものではなく、次の世代の野球少年・少女のためのバットになるということなのです。
●“今の循環”と“未来の循環”が両立する仕組みへ
北広島の工房が取り組む折れたバットの再利用(現在の資源循環)と、このアオダモ植樹(未来の資源循環)は、時間軸こそ異なりますが、どちらも「野球文化を持続させる」という同じ目的のもとで結びついています。
注目のバットモデルと価格・販売情報(BFJ公認 魚雷モデル)
北海道産バットの中でも特に注目されているのが、「BFJ公認 魚雷モデル(型番:BFJ84YG-860TP)」です。
その名のとおり、無駄のない直線的な形状が特徴で、先端がやや太く設計されていることで振り抜き時の加速と打球の飛距離を両立させたモデルとされています。
●魚雷モデルの特徴
道新スポーツの紹介記事によると、魚雷モデルは以下のような特性を持っています。
- グリップから先端まで太さがほぼ均一
- 「削った」というより「棒をそのままバットにした」ような直線形状
- ヘッドの重みを利用した“遠心力型スイング”に最適
一見すると奇抜にも見えますが、その設計は「力任せではなく、しなりと遠心力で飛ばすバット」という思想に基づいています。

●価格と購入ルート
同モデルは楽天市場などでも販売されており、税込価格はおよそ 8,000円前後で流通しています。
在庫状況は時期により変動するため、放送後に問い合わせが急増する可能性もあります。
●「金属バットが主流」の高校球児にも注目されつつある理由
高校野球では公式戦で金属バットの使用が基本ですが、近年の強豪校の一部では、「プロ志望選手向けの練習用」として木製バットを併用する流れが出てきています。
そのため、魚雷モデルのように“打感のクセが少ないモデル”は、木製バット入門として選ばれるケースもあるとのこと。価格面でもプロ選手用モデルとしては比較的手が届きやすく、**指導者・保護者層からの関心も高まっています。
まとめ
北海道・北広島で始まったバットづくりの動きは、単なる「地元産バットの誕生」という話にとどまりませんでした。
- 道産材を使った“地産バット”の生産拠点ができたこと
- 特許乾燥技術による高性能な木製バットが実現していること
- 福祉施設と連携し、地域と共につくる“参加型のものづくり”であること
- 折れたバットを回収して再利用する“現在の循環”があること
- さらに60〜70年後のバットを見据え、アオダモを植える“未来の循環”まで描かれていること
これらが重なり合うことで、このプロジェクトは**「道具をつくる」だけでなく、「文化を守り、次世代へつなぐ仕組み」**として成り立っています。
中継で紹介される施設や人物の背景には、こうした“静かな熱意”が込められています。放送を見る際には、バットという一本の木の裏側にある **「時間の流れ」と「人の手」**にも思いを巡らせてみると、より深く楽しめるのではないでしょうか?