人生の楽園|若狭の里山と知床の海で始まった、2軒の宿と家族の物語

朝もやの中の古民家の縁側に置かれた湯気の立っている湯呑 BLOG
人生の楽園は、特別な場所にあるわけではない。誰かの暮らしの中に、静かに息づいている。
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里山に朝の光が差し込むと、山の緑はやわらかく目を覚まし、古い家の梁や柱は、静かに一日の始まりを迎える。
福井県小浜市。海と山に抱かれたこの土地には、季節の移ろいとともに生きてきた、穏やかな時間が今も流れている。風に揺れる木々の音や、台所から立ちのぼる湯気。そんな何気ない風景の中に、ここで暮らす人たちの人生が、そっと溶け込んでいる。そして、この里山の静けさから、物語はもう一つの場所へとつながっていく。はるか北の海――知床半島の先に広がる、厳しくも豊かな海の町へ。

若狭の里山と、知床の海。遠く離れた二つの場所で始まった、宿と家族の物語は、それぞれの暮らしの中にある「人生の楽園」のかたちを、静かに映し出していく。

放送日

テレビ朝日系列
2025年12月20日(土)

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1章|若狭の里山で始まった、古民家宿「こはる」

若狭の里山には、人の声よりも、自然の気配が先に届く朝がある。明治の時代に建てられた古民家は、長い年月をくぐり抜けてきた梁や柱が、今も凛とした姿で家を支えている。その佇まいに、「守られてきた時間」の重みを感じずにはいられない。

この家で、1日1組限定の宿**「古民家の宿 こはる」**を始めたのが、小田伸子さんと、夫の幸紀さんだ。伸子さんは、若狭・小浜の出身。都会に憧れて家を離れ、結婚や子育て、そして離婚を経験しながら、飲食店などで働き、二人の娘を育て上げてきた。一方の幸紀さんもまた、早くに妻を亡くし、シングルファーザーとして三人の子どもを育ててきた人だ。

それぞれの人生には、喜びだけでなく、言葉にしきれない痛みや喪失もあった。それでも二人は出会い、過去を丸ごと受け止め合い、7年前に夫婦となる。

やがて伸子さんは、高齢の両親のために小浜へ通ううち、改めて里山の暮らしの豊かさに気づいていく。改装中に現れた立派な梁や柱を見て、「この家を、たくさんの人に見てもらいたい」そんな思いが、自然と芽生えた。

こうして生まれた「こはる」は、豪華さを競う宿ではない。若狭牛や若狭かれい、自家製米など、土地の恵みを丁寧に味わう食事と、両親と過ごす何気ない時間が、この宿のいちばんの魅力だ。

伸子さんが名付けた「幸せじぃのいる宿」という言葉のとおり、92歳の父・正幸さんと、93歳の母・道子さんの存在が、訪れる人の心を、そっとほどいていく。

ここにあるのは、特別な体験ではなく、誰かの暮らしを、少しだけ分けてもらう時間。若狭の里山で始まったこの宿は、人生を重ねてきた先に見つけた、ひとつの「楽園」のかたちなのかもしれない。

古民家の宿 こはる

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2章|知床・羅臼の海と昆布漁の宿へ

若狭の里山から、物語は一気に北へ向かう。
世界自然遺産・知床半島。その東側に位置する北海道・羅臼町は、山が海へと迫り、人の暮らしが自然と真正面から向き合う町だ。

ここで暮らすのが、昆布漁師の加瀬基敏さんと、浜仕事を支える妻の里紗さん。「羅臼昆布」という名前は、極上品として全国に知られている。けれど、その背景にある日々の営みは、決して華やかなものではない。天候や海の変化に左右されながら、自然と折り合いをつけて生きる、厳しく、そして誠実な仕事だ。

里紗さんは札幌出身。東京の大学を卒業後、自分のやりたいことを探す中で、羅臼町の観光協会事務局長に応募し、25歳という若さでその役目を担うことになる。
漁業の町を知るうちに、基敏さんと出会い、結婚。昆布漁師の家族として、3人の娘を育てながら、浜の仕事を一から学んできた。やがて基敏さんは、父・勝美さんから漁業権を受け継ぐ。しかし近年、温暖化の影響とも言われる海の変化が、昆布の未来に影を落とし始めていた。

「このままではいけない」

そう感じた里紗さんは、昆布漁の仕事や、その魅力をもっと多くの人に伝えたいと考えるようになる。そして生まれたのが、根室海峡を望む体験型の宿**『KOBUSTAY(コブステイ)』**だ。

1階は作業場とレクチャールーム、2階が客室という造り。1日1組限定、自炊スタイルの宿で、予約制の昆布レクチャーも行われている。ここで過ごす時間は、「泊まる」よりも、羅臼に暮らす感覚を体験することに近い。

海の厳しさも、昆布漁の奥深さも、すべてを包み隠さず伝える。それは、不安から生まれた選択であり、同時に、故郷への深い愛情の表れでもあった。

若狭の里山と、知床の海。環境も暮らしもまったく違う場所で、人々はそれぞれの方法で、自分たちの「楽園」を形にしている。

seaside cottage KOBUSTAY(こぶすてい)

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3章|2軒の宿に共通する“楽園のかたち”

若狭の里山と、知床の海。風景も気候も、歩んできた人生も、まったく違う。それでも、2軒の宿には、はっきりとした共通点がある。それは、「特別な体験を売っていない」ということだ。

古民家の宿「こはる」では、立派な料理や設備よりも、家族と過ごす日常の時間が、静かに差し出されている。KOBUSTAYでもまた、昆布漁の“すごさ”を誇るのではなく、海とともに生きる現実を、そのまま体験してもらう。

どちらの宿も、自分たちの暮らしを、少しだけ開いているだけ。けれど、その「少し」が、訪れる人の心を深く揺らす。便利さや効率を追い求める毎日の中で、人はいつの間にか、誰かの人生に触れる機会を失っているのかもしれない。だからこそ、ここで過ごす時間は、どこか懐かしく、あたたかい。

楽園とは、遠くにある理想郷ではない。苦労も迷いも抱えたまま、それでも「ここで生きる」と選び続ける場所。そして、その姿を誰かと分かち合おうとした瞬間に、初めて立ち上がるものなのだろう。
若狭と羅臼、2つの宿が教えてくれるのは、人生の後半や途中にこそ見つかる、静かな豊かさだ。

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まとめ|人生の楽園は、誰かの暮らしの中にある

若狭の里山と、知床の海。遠く離れた二つの場所で始まった宿には、同じ温度の想いが流れていた。それは、華やかさや成功を誇ることではなく、これまでの人生を受け入れ、その先の暮らしを、そっと人に手渡すこと。

古民家の梁に刻まれた時間も、昆布漁の海に向き合う日々も、すべては「ここで生きてきた」証だ。そしてその証を、誰かと分かち合おうとした瞬間に、宿は「楽園」へと変わっていく。

人生の楽園は、特別な場所にあるわけではない。誰かの暮らしの中に、静かに息づいている。この番組が教えてくれるのは、そんないい人生の歩き方なのかもしれない。

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