雪国が生んだ“びよーんと伸びる”郷土食の知恵
山形県・大蔵村。冬、雪に閉ざされた山里で暮らしを支えてきたのは、自然と向き合いながら編み出された
知恵と工夫の保存食文化だった。その代表格が、びよーんと伸びる不思議な大根——「じゃばら大根」。
大根に交互に細かい切り込みを入れ、全部を切り離さずに蛇腹状に加工することで、引っ張るとまるでひもように伸びる。その形のまま吊るして乾燥させることで、雪国の長い冬を越える保存食となった。
噛んだ瞬間に伝わるシャキシャキとした力強い歯ごたえ、噛むほどに広がる旨みと甘み。「一度食べたら戻れない」と言われる理由は、その独特の食感にある。
2025年12月9日(火)放送のNHK「あさイチ・いまオシ中継」では、この郷土食の魅力と受け継がれた知恵に迫る。雪国の暮らしが生んだ味と物語を、一緒にたどっていこう。
🛖 じゃばら大根とは? — 冬を越える知恵から生まれた郷土食
山形県最上地方・大蔵村を中心に受け継がれてきた冬の保存食 「じゃばら大根」。雪で閉ざされる長い冬のあいだ、食材をできるだけ長く保存して食べられるように工夫を重ねて生まれた、生活の知恵そのものとも言える郷土食だ。
じゃばら大根の最大の特徴は、大根に 直角と斜めの細かい切り込みを交互に入れ、完全に切り離さずに蛇腹状に加工する独特の技術。この切り込みによって、大根はびよーんと伸ばせるような形状になり、そのまま吊るして乾燥することができる。
吊るして乾燥させることで水分が程よく抜け、味がぎゅっと凝縮し、噛むほどに深い旨みと甘みが広がる。さらに、干すことで日持ちが増し、大根が貴重だった冬の食卓を支えた。
「冬を越えるための知恵」が、
いつしか「一度食べたら戻れない美味しさ」へ変わった。
切り干し大根よりもずっと強い歯ごたえ、シャキシャキで力強い食感。その独特の魅力から、肘折温泉の旅館の食事や地元の家庭料理として親しまれ、今では通販や専門店で全国に広がりつつある。
じゃばら大根は、ただの保存食ではない。
雪国の暮らしの知恵と、
命をつなぐ工夫の結晶。
それは、冷たい冬を温かく生き抜いた人々の誇りの味でもある。
<広告の下に続きます>
🔪 どうやって作るの? — 蛇腹状の切り込みの技と工程
じゃばら大根の特徴である“びよーんと伸びる蛇腹の形” は、独特の切り方と手作業の積み重ねによって作られる。まず、大根を適度な長さに切り分け、上下から交互に包丁を入れていく。
片側からは 直角にまっすぐの切り込み、反対側からは 斜めに細かく切り込み を入れ、どちらも大根の中心まで刃を入れながらも完全には切り離さないことが重要だ。だからまな板の上には細い木の棒を置いて、全部が切り離されないような工夫をする。
この二方向の切り込みがちょうど立体的な山と谷を作り、繋がったまま伸びる蛇腹状の形ができあがる。切り込みの幅や角度が少しでもずれると途中で切れてしまったり、乾燥後の食感が変わってしまうため、熟練が求められる繊細な技術だ。
加工した大根は、紐などに吊るして 冬の冷たい風と乾燥 の中に晒し、じっくりと水分を抜いていく。乾燥するほど甘みと旨みが凝縮し、噛んだときの シャキシャキとした強い歯ごたえ が生まれる。大根は夏の大根では苦みが強いので、秋の甘い大根で作るのがいいらしい。
手間を惜しまず、自然と向き合いながら仕上げていく——まさに、雪国の知恵が詰まった工程だ。
切る技、干す時間、冬の空気。
そのすべてが“やみつきの食感”を作る。
<広告の下に続きます>
🍱 なぜ「戻れなくなる」ほど旨い? — 独特の歯ごたえと味の秘密
じゃばら大根が「一度食べたらもう戻れない」と言われる理由は、その圧倒的な 歯ごたえと旨みの深さ にある。
まず、じゃばら大根に使う大根は、夏の辛味が強い時期ではなく、秋から冬にかけて甘みが増す大根を選ぶ。寒さによって大根の中のでんぷんが糖に変わり、天然の甘みがぐっと濃くなるのだ。
さらに、皮を剝かずに加工し、蛇腹状に切り込みを入れてから冬の冷たい風にじっくり晒すことで、水分がゆっくり抜けて旨みと甘みが濃縮される。
乾燥によって食感は引き締まり、噛むほどにシャキシャキ、コリコリとした心地よい歯ごたえ が広がる。この独特の噛み応えが、切り干し大根とはまったく違う魅力になっている。
「噛むほどに味が染みる」
——保存食なのに、贅沢な時間をくれる食材。
味付けはシンプルでも充分に美味しく、出汁や醤油、酢、唐辛子、味噌などどんな調味にもよく馴染む。その多様性もまた、じゃばら大根が愛され続ける理由だ。
<広告の下に続きます>
♨ 肘折温泉とじゃばら大根 — 湯治文化とともに愛される理由
山形県大蔵村にある肘折温泉(ひじおりおんせん) は、1000年以上の歴史を持つ湯治場として知られている。山深い場所に位置し、冬には数メートルを超える豪雪に包まれるこの地で、人々の暮らしと健康を支えてきた場所だ。湯治に訪れる人々が心身をゆっくりと癒やしていくその食卓に、昔から欠かせなかったのが じゃばら大根 だった。
雪に閉ざされた冬、体を温め、栄養を補う食べ物として、保存のきくじゃばら大根は旅館の食事や家庭料理で大切に受け継がれてきた。湯治で長く滞在する人々にとっても、飽きずに食べられる力強い歯ごたえと深い味わい が体の芯から元気を与えてくれる存在だった。
温泉の湯気が立ちのぼる湯治場で、湯上がりに茶碗を手にほかほかの料理とじゃばら大根を噛みしめる——そんな情景は、今も変わらずこの土地の冬の風物詩だ。
じゃばら大根は、
体を癒し、冬を越える力を与えてきた“湯治の味”。
だからこそ、肘折温泉の旅館や食堂では今も変わらず大切に提供され、遠方から訪れた旅人の心に深く刻まれていく。
<広告の下に続きます>
🛒 現代の広がり:通販・専門店・アレンジ料理
かつては雪国の家庭と湯治場で静かに受け継がれてきた じゃばら大根。しかし今、その独自の食感と旨みに魅了される人が増え、全国へと広がり始めている。
地元の生産者や温泉旅館、飲食店などが連携し、ネット通販やオンライン直売所での販売をスタート。今では家庭の食卓でも手軽に楽しむことができるようになり、リピーターも続出している。
注目されているのは、じゃばら大根ならではの“どんな料理にも馴染む万能性”。
・出汁と醤油で炊くだけで絶品の一品に
・酢の物や和え物にしてシャキシャキ感を楽しむ
・味噌と唐辛子でピリ辛にして酒の肴に
・パスタやサラダに合わせて和洋折衷アレンジも可能
そのままでも、調味しても、噛むほどに味の層が深くなっていく食材だからこそ、料理人たちからも注目されており、“伝統食材のアップデート”として活用が進んでいる。
昔の知恵が、いまの食卓で輝き始めた。
郷土食から全国区へ。新しい時代の流れが動き出している。
保存食として誕生した大根が、時代を超え、再び多くの人の暮らしへ溶け込んでいく—。そこには、受け継ぎ守ってきた人々の想いと、未来へつなぐ力が確かに息づいている。
元々湯治場であった肘折温泉には今なお湯治文化が残されている。霊峰月山の麓という立地や日本でも有数の豪雪地ということもあり、かつては冬期間の孤立に備え独立した生活サイクルを生み出した。カネヤマ商店はそんな肘折温泉で大正時代に創業し、地酒とみやげ、食品や日用品を扱う商店として肘折湯治の暮らしを支えてきた。
カネヤマ商店

- 山形県最上郡大蔵村南山506-3
- TEL:0233-76-2123
- 営業時間:6:30~18:30
- 定休日:なし
- URL:https://kaneyama-shop.com/
<広告の下に続きます>
🍽️ 家でも作れる? — 作り方&簡単アレンジ
じゃばら大根は、職人の技が光る伝統食材でありながら、家庭でも挑戦できる 手づくり保存食でもある。本来は冬の寒風の中でじっくり乾燥させるため、地域の気候が大きく影響するが、
現代では室内干しや食品乾燥機を使った方法も広がり始めている。
🥢 じゃばら大根の作り方(家庭向け・簡易版)
- 大根をよく洗い、皮をむかずに好みの長さに切る
- 片側から まっすぐの切り込み、反対側から 斜めの切り込みを
交互に細かく入れ、中心に達するまで切り込みを入れる
※完全に切り離さず、一本でつながった状態を保つ - 端に紐をつけ、風通しの良い場所で吊るす
- 数日〜1週間ほど乾燥させ、水分を飛ばす
- 完全に乾ききったら保存袋へ。冷蔵庫で長期保存可能
乾燥後は、水で戻すだけで料理に使える。
🍳 簡単アレンジ例
| 料理 | ポイント |
|---|---|
| 出汁+醤油+みりんで煮物 | 噛むほどに旨みが広がる定番 |
| 酢の物(酢+砂糖+塩) | シャキシャキ感が引き立つ |
| ピリ辛味噌和え | 酒の肴に最高の一皿 |
| ごま油炒め+唐辛子 | 香ばしさと歯ごたえの対比 |
| サラダ・パスタに混ぜる | 現代風アレンジも人気 |
シンプルな味付けほど、じゃばら大根の力強さが際立つ。
冷蔵庫に常備しておくと、毎日の食卓をぐっと豊かにしてくれる存在になる。
<広告の下に続きます>
✍️ まとめ|冬を越える味は、暮らしの記憶
山形県・大蔵村の雪深い冬。食材が手に入りにくくなる厳しい季節を人々は知恵と工夫で乗り越えてきた。びよーんと伸びる不思議な形の「じゃばら大根」 は、そんな暮らしの中から生まれた保存食。
切り込みの技、寒風に晒す時間、自然の力を借りながら丁寧に仕上げるその過程には、命をつなぐ生活の知恵と、未来への手渡しの想い が宿っている。
噛むほどに広がる旨み、しっかりとした歯ごたえ、そして長い冬を越えてきた食材だけが持つ深い味わい——。
湯治場として長く愛されてきた肘折温泉の食卓とともに心と体を温め続けてきたこの味は、現代に入って再び全国へ広がり、新しい食卓で輝き始めている。
伝統は、ただ守られるだけではなく、
次へと渡されていくときに力になる。
作り手の手のぬくもりと、雪国の暮らしの強さと優しさが詰まったじゃばら大根。
2025年12月9日(火)放送、NHK「あさイチ いまオシ中継」では、この郷土食に込められた物語と、未来へ向かう歩みが紹介される。冬を越える味は、暮らしの記憶そのもの。一度味わえば、きっと忘れられなくなる。