こんにちは、まどかです。NHK「あさイチ」で、秋田県湯沢市の名物「稲庭うどん」が紹介されました。透明感のある見た目と、ツルツルとした喉ごし――。その上品な味わいの裏には、400年以上受け継がれてきた“手延べ製法”という職人の技があります。この記事では、稲庭うどんの製法の秘密や歴史的な背景、そして湯沢で体験できる文化スポットまで、秋田が誇る“麺の芸術”を丁寧に紹介していきます。
手延べなのに乾麺?稲庭うどんの“製法の秘密”
秋田県湯沢市で作られる「稲庭うどん」は、日本三大うどんのひとつとして知られています。その最大の特徴は、“手延べ”による製法です。うどんといえば「手打ち」や「機械打ち」を思い浮かべる人も多いですが、稲庭うどんはまったく違う作り方をしています。
まず、小麦粉に塩水を加えてこね上げた生地を、木の棒に巻き付けて細くのばしていきます。この工程を「綯う(なう)」と呼び、職人が生地を手で延ばしながら、ねじるようにして均一な太さに整えていきます。このときに生まれる“表面のつや”と“きめの細かさ”が、稲庭うどんならではの滑らかな喉ごしを生み出すのです。
そして、ここからが稲庭うどんの本領発揮。棒にかけたうどんを天日干しにして、ゆっくりと寝かせることで、旨味とコシが生まれます。熟成によってグルテンが安定し、茹でても切れにくくなるのだそうです。
これを3日ほど繰り返して完成するため、1本1本に職人の経験と感覚が込められています。こうして作られる稲庭うどんは、乾麺でありながら“生めんのようなコシ”を持つ唯一の存在。家庭で茹でても、まるで専門店のようなツルツル感が味わえるのは、この丁寧な手延べ製法のおかげです。
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400年受け継がれる“湯沢の麺文化”
秋田県湯沢市で生まれた稲庭うどんの歴史は、江戸時代初期にまでさかのぼります。発祥とされるのは、湯沢・稲庭地区の佐藤吉左衛門という人物。彼が考案した手延べ製法が、今もなお受け継がれています。
当時は、うどんといえば手打ちの生麵が一般的でした。そんな中で、細く長くのばした麺を乾燥・熟成させるという独自の製法は、極めて珍しいものでした。その滑らかな食感と上品な味わいが評判を呼び、やがて秋田藩主・佐竹家への献上品として扱われるようになります。
しかし、製造に手間がかかるため大量生産には向かず、限られた職人だけが作り続けていました。明治時代になると、ようやく一般にも広まりましたが、それでも“幻のうどん”と呼ばれるほど貴重な存在でした。
この「手延べ」という伝統技法は、ただの麺づくりではありません。
職人の感覚と経験が頼りで、季節や湿度によって生地の状態が変わるため、同じ作業を毎日繰り返しても全く同じ麺はできないといわれています。そうした“自然との対話”こそが、稲庭うどんの文化を400年もの間、湯沢の地に根づかせてきた理由なのかもしれません。
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他のうどんと何が違うの?讃岐・水沢との違い
日本には、稲庭うどんのほかにも「讃岐うどん(香川)」や「水沢うどん(群馬)」といった名だたる名産地があります。どれも地域の気候や水質、製法の違いから独自の個性を育んできましたが、稲庭うどんが特に際立つのは、その“手延べ乾麺”という独自性にあります。
讃岐うどんは塩水で練った生地を包丁で切る「手打ち」、水沢うどんは清らかな水を使って練り上げる「水打ち」と呼ばれる製法です。
それに対して稲庭うどんは、打たずに“のばす”。手のひらと棒だけで細く均一に延ばしていくため、麺の表面が非常になめらかで、茹でたあとも角のないやさしい口当たりが特徴です。
また、一般的な生うどんは数日の保存しかできませんが、稲庭うどんは長期保存が可能です。これは、職人が生地を丁寧に乾燥させ、時間をかけて熟成させているためです。
しかも乾麺でありながら、生うどんのような“もっちりとしたコシ”を保つ――まさに「乾麺と生麺のいいとこ取り」といえるでしょう。この絶妙なバランスこそ、400年の伝統が磨き上げてきた職人の技。その繊細な食感と上品な味わいは、秋田の雪国らしい静かな力強さを感じさせてくれます。
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家庭でも味わえる稲庭うどんの食べ方は?
稲庭うどんの魅力は、その上品な見た目とツルツルとした喉ごしを、家庭でも簡単に再現できることにあります。乾麺なので日持ちがし、贈答品や保存食としても人気がありますが、正しい茹で方や食べ方を知ると、より一層おいしさが引き立ちます。
🍲 基本の茹で方
稲庭うどんは、たっぷりのお湯を沸かし、麺が泳ぐくらいのスペースを確保するのがポイントです。茹で時間はおおよそ3〜4分。茹で上がったら、すぐに冷水でしっかりと締めてぬめりを落とします。この「冷水で締める」工程が、あのツルツル感を生む秘訣です。
🧊 冷やしつけ汁で
秋田では、冷やした稲庭うどんを“つけ汁”で味わうのが定番です。だしに鶏肉やきのこを加えた「比内地鶏つけ汁」や、香ばしい「胡麻だれ」など、家庭でも簡単に再現できます。冷たい麺の喉ごしと、だしの香りの対比がたまりません。
🔥 温かいうどんで
寒い季節には、温かいかけ汁で食べるのもおすすめです。茹でた麺を軽く湯通ししてから、温かいだしをかけると、麺がほぐれてふんわりとした食感になります。具材には鶏肉、ねぎ、しいたけなど、やさしい味わいのものがよく合います。
🍽️ 盛り付けの工夫
細く繊細な稲庭うどんは、器や盛り付けでも印象が変わります。暑い夏には白い皿やガラスの器を使うと透明感が引き立ち、見た目にも涼やかです。盛りつけたあとに氷を添えると、料亭のような上品さが感じられます。
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湯沢で楽しむ稲庭うどん文化体験とは?
秋田県湯沢市の稲庭地区には、稲庭うどんの伝統を“見て・触れて・味わえる”スポットがいくつもあります。代表的なのが、創業160年以上を誇る老舗「佐藤養助 総本店」。ここでは職人による手延べ実演を間近で見学できるほか、自分の手でうどんを延ばす製作体験も行われています。熟練の技を体験した後は、併設の食事処でできたての稲庭うどんを味わうことができます。
また、もうひとつの人気スポットが「稲庭うどん寛文五年堂(かんぶんごねんどう)」。こちらでは伝統的な製法の展示のほか、乾燥前の柔らかい“生の稲庭うどん”を見られる見学コースもあります。オンラインショップやお土産コーナーも充実しており、おうちでも秋田の味を再現したい人にぴったりです。
さらに、稲庭の里をめぐる“食文化旅”もおすすめです。道の駅「おがち」では、地元食材を使った限定メニューや、湯沢ならではの美しい器に盛られた冷やし稲庭うどんが楽しめます。
町を歩けば、雪国ならではの澄んだ空気と静かな街並みが、職人たちが育んできた400年の歴史を静かに物語っているようです。
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まとめ:職人が紡ぐ“麺の芸術”「稲庭うどん」
秋田県湯沢市で生まれた稲庭うどんは、単なる郷土料理ではなく、職人が400年にわたり受け継いできた文化そのものです。一本一本を手で延ばし、時間をかけて熟成させる。
その静かな作業の積み重ねが、あの透き通るような美しさと、なめらかな喉ごしを生み出しています。
NHK「あさイチ」で紹介されたことで、多くの人が改めて“日本の食の奥深さ”を感じたのではないでしょうか。現代の便利さとは対照的に、手間を惜しまず丁寧に作られる稲庭うどんには、時代を越えて人の心を惹きつける力があります。
もし秋田を訪れる機会があれば、ぜひ現地で本場の味を体験してみてください。一口すすると、400年の時を超えて伝わる“職人の想い”が、静かに、そして確かに感じられるはずです。