水道料金のない町は、どうやって水と暮らしているの?|大雪山の地下水と東川米の物語【新日本風土記】

東川町の地下水 BLOG
スポンサーリンク

毎月、当たり前のように支払っている水道料金。蛇口をひねれば水が出る。その便利さに、私たちはあまり疑問を抱かずに暮らしています。ところが北海道のほぼ中央、大雪山の麓に、一般的な上水道がなく、水道料金を払わずに暮らしている町があります。

北海道上川郡東川町。もちろん、家に蛇口がないわけではありません。人々は豊かな地下水を井戸から汲み上げ、毎日の暮らしに利用しています。井戸やポンプの設置、維持管理には費用がかかりますが、私たちが普段使っている水道とは、少し仕組みが違うのです。

そして、この町は「東川米」の産地としても知られています。大雪山がもたらす水の恵みは、人々の暮らしを潤すだけでなく、麓に広がる田んぼの風景とも深く結びついてきました。

でも、ここで一つ、気になることがあります。水道料金のない町では、その大切な水を、誰が、どうやって守っているのでしょうか? 水は自然からの恵み。けれど、決して無限に使えるものではありません。

今回は、NHK『新日本風土記』「大雪山麓 米どころ」をきっかけに、東川町の地下水と米づくり、そして水とともに生きる人々の暮らしをたどってみたいと思います。

【放送日:2026年10月12日(月)22:00 -23:00・NHK-BSP4K】
【放送日:2026年10月13日(火)20:00 -21:00・NHK-BS】
【放送日:2026年10月18日(日)6:00 -6:59・NHK-BSP4K】
【放送日:2026年10月19日(月)17:00 -18:00・NHK-BS】

<広告の下に続きます>

上水道がない町では、蛇口から水が出ないの?

「この町には、上水道がありません」
そう聞いたら、どんな暮らしを想像するでしょうか。井戸からバケツで水を汲んだり、湧き水を汲みに出かけたり。そんな昔ながらの風景を思い浮かべる人もいるかもしれません。でも、北海道の東川町では、家の中の蛇口をひねれば、ちゃんと水が出てきます。その水の正体は、地下水です。

一般的な水道では、川やダムなどから取水した水を浄水場で処理し、水道管を通して各家庭に届けています。一方、東川町では、多くの家庭が井戸から地下水をポンプで汲み上げ、家の中の配管を通して利用しています。つまり、蛇口の向こう側にあるのが、町の水道管なのか、自分たちの井戸なのか。その違いなのです。

では、水道料金もかからないのでしょうか? 東川町では、一般的な上水道の水道料金を支払わずに暮らすことができます。ただし、水を使うためのお金が、まったくかからないわけではありません。井戸を掘る費用、地下水を汲み上げるポンプの電気代、設備の修理や交換費用。そうした負担は、それぞれの家庭などが担うことになります。

そして、もう一つ気になるのが、水の安全性です。「地下水なら、自然にろ過されているから安心」そんなイメージがあるかもしれません。確かに、雨や雪が地中に染み込む過程で、土や地層が水をろ過する働きはあります。しかし、地下水だから必ず安全というわけではありません。

井戸の深さや周囲の環境によって、水質は異なります。細菌や硝酸態窒素などの汚染物質が含まれる可能性もあり、飲み水として利用するには水質の確認が大切です。

それに家庭の井戸水は、一般的な水道水のように必ず塩素消毒されているとは限りません。必要に応じて浄化や消毒などの対策を行うことになります。東川町でも、地下水の水質を調べる取り組みや、井戸の整備などを支援する制度が設けられています。

水道料金のない暮らし。それは、単に水を無料でもらえる暮らしではなく、自分たちが使う水の設備や安全性にも目を向ける暮らしなのかもしれません。では、そもそも東川町には、なぜこれほど豊かな地下水があるのでしょうか。その答えを探すには、町の背後にそびえる大雪山へと目を向ける必要がありそうです。

<広告の下に続きます>

大雪山に降った雪は、どうやって町の地下水になるの?

北海道のほぼ中央に広がる大雪山。その最高峰が、標高2,291メートルの旭岳です。冬になると山々は深い雪に覆われ、春から夏にかけて、その雪が少しずつ解けていきます。では、山の上で解けた雪は、どうやって麓の東川町の蛇口まで届くのでしょうか?

その秘密は、私たちの目には見えない、地下の世界にあります。雪解け水や雨水の一部は、地表を流れて川になります。一方、土の中へ染み込んだ水は、地層の隙間や岩石の割れ目を通り、地下へと移動していきます。この地下水の流れを支えているのが、大雪山周辺の地質です。

旭岳は火山であり、その周辺には過去の火山活動によって生まれた火山灰や溶岩などが分布しています。こうした地層のうち、水を通しやすい部分には地下水が蓄えられ、水を通しにくい層との境界などを伝って、ゆっくりと流れていきます。大雪山は、雪を蓄えるだけでなく、地下に水を蓄える自然の仕組みも持っているのです。

そして、地下を旅する水には、もう一つの特徴があります。それは、地層の中を通る間に、岩石などに含まれる成分が少しずつ溶け込むこと。カルシウムやマグネシウムなどのミネラルを含んだ地下水が、東川町の暮らしを支えています。

その象徴ともいえるのが、「大雪旭岳源水」です。大雪山の麓から湧き出すこの水は、年間を通じて水温がおよそ6〜7度。町が紹介する湧出量は、1分間に約4,600リットルにもなります。

冷たい水が、絶え間なく大地から湧き出している。その光景を思い浮かべると、大雪山の地下には、私たちが普段見ることのできない、もう一つの水の世界が広がっているように感じられます。

ただし、ここで忘れてはいけないことがあります。地下水は、無限に湧き続ける魔法の水ではありません。雪や雨が地下水を補う量、地下を流れる速さ、人々が汲み上げる量。そのバランスが保たれてこそ、豊かな水のある暮らしが続いていきます。

また、地中を通ったからといって、すべての地下水が同じ水質になるわけでもありません。東川町でも、場所によっては良質な地下水を確保しにくいことがあります。そんな大雪山の自然が生み出した水を、人々は暮らしの中で利用してきました。

そして、その恵みは家庭の蛇口だけにとどまりません。山の雪や雨は川も潤し、その流れは麓の農地を支える水にもなっていきます。次は、大雪山の麓に広がる田んぼへ。この土地の名前を冠した「東川米」が、どんな自然と人々の営みの中で育てられているのか、見ていきましょう。

<広告の下に続きます>

「東川米」は、どんな水と土地に育てられているの?

「ゆめぴりか」「ななつぼし」「コシヒカリ」。お米の名前と聞いて、真っ先に思い浮かぶのは、こうした名前ではないでしょうか。では、「東川米」というお米を知っていますか? 初めて聞く人は、北海道で生まれた新しい品種なのかな、と思うかもしれません。

でも、実は違います。「東川米」は品種の名前ではなく、北海道東川町で生産されるお米の地域ブランドなのです。例えば、「ゆめぴりか」や「ななつぼし」は、お米そのものの品種名。一方、「東川米」は、どこの土地で育てられ、どのような品質管理のもとで届けられるのかを表す名前です。

つまり、東川町で育てられた「ゆめぴりか」も、「ななつぼし」も、地域ブランドとしての「東川米」になり得るということ。同じ品種でも、育てられる土地や栽培方法によって、お米の品質や特徴には違いが生まれます。

そして、東川町の米づくりを語るうえで欠かせないのが、大雪山の水です。山々に降った雪や雨がすべて地下水になるだけではありません。川となって麓へ流れ、田んぼを潤す農業用水にもなります。家庭の蛇口から出る地下水と、田んぼに引き入れる水が、すべて同じ井戸から汲み上げられているわけではありません。

それでも、どちらも大雪山麓の豊かな水循環に支えられているという点では、深くつながっています。さらに、お米の出来を左右するのは、水だけではありません。

東川町が位置する上川盆地周辺の気候、稲が育つ季節の日照や気温、土壌の状態。そして、苗づくりから収穫まで、農家が積み重ねてきた技術。こうした条件が組み合わさって、一粒のお米が育っていくのです。

かつて北海道は、寒さのために稲作が難しい土地と考えられていました。それでも人々は、水田を開き、栽培方法を工夫し、寒さに強く良質な品種を育ててきました。現在の北海道米の評価は、自然条件だけでなく、長い年月にわたる品種改良と農家の努力によって築かれてきたものなのです。

東川町でも、生産者とJAひがしかわが協力し、独自の品質管理に取り組んできました。その一つが「東川米 信頼の証10か条」。さらに、農業生産の工程を管理する「東川米GAP基準」を導入し、安全性や品質の向上に努めています。こうした積み重ねが評価され、2012年には「東川米」が北海道米で初めて地域団体商標として登録されました。

地域団体商標とは、地域名と商品名を組み合わせたブランドを保護するための制度です。つまり「東川米」は、単に産地の名前を付けたお米ではなく、地域の生産者たちが協力して育て、守ってきたブランドなのです。

その努力は、具体的な成果にもつながっています。2019年には、東川米の「ゆめぴりか」が全道ゆめぴりかコンテストで最高金賞を受賞しました。また、東川米は海外にも届けられています。大雪山の麓で育ったお米が、海を越えて人々の食卓へ運ばれているのです。

「東川米」という名前の向こう側には、山から届く水があり、田んぼがあり、稲を育てる農家の姿があります。お米のブランドとは、品種の名前だけでは語れない、その土地の自然と人々の営みを伝えるものなのかもしれません。

そして、その米づくりを支える水は、これからも当たり前のように使い続けられるのでしょうか。次は、豊かな地下水を守るために、東川町がどんな仕組みを設けているのかを考えてみたいと思います。

<広告の下に続きます>

誰もが地下水を好きなだけ汲み上げてもいいの?

大雪山の水に恵まれ、豊かな田園風景が広がる東川町。家庭では地下水を汲み上げて暮らし、その土地では「東川米」という地域ブランドが育まれてきました。でも、ここで一つ、気になることがあります。もし、誰もが地下水を好きなだけ汲み上げたら、どうなるのでしょうか。

地下水は、雨や雪が地中に染み込み、長い時間をかけて蓄えられたものです。自然の力で補われるとはいえ、決して無限ではありません。地下水を汲み上げる量が、地下へ補給される量を長期間にわたって上回れば、地下水位が下がり、周囲の井戸にも影響が及ぶ可能性があります。

また、地下水の心配は、量だけではありません。工場や事業場から有害物質が漏れ出せば、地中へ染み込み、地下水を汚染するおそれもあります。水道料金を払わずに暮らせる町だからこそ、水を使う自由と、水を守る責任を、どのように両立させているのでしょうか?

実は東川町には、地下水を守るためのルールがあります。その一つが、「美しい東川の風景を守り育てる条例」です。この条例は、田園風景や自然環境を守るだけでなく、地下水の保全と適正な採取についても定めています。

2014年には、地下水の汚染防止や適正採取に関する規定が追加されました。例えば、一定規模以上の揚水設備を備えた井戸を新たに設置する場合には、町長の許可が必要です。設置する人は、周辺の地下水利用への影響を事前に調べ、採取量を記録し、町から求められれば報告しなければなりません。

また、有害物質を含む水を排出する事業者には届出を求め、地下深くに及ぶ工事についても、地下水への影響を調べる仕組みが設けられています。つまり、東川町では、地下水を誰もが無条件に好きなだけ利用できるわけではないのです。

ただし、町内のすべての家庭用井戸が同じ許可制度の対象になるわけではありません。条例では、ポンプの大きさなどによって対象を区別しています。さらに、地下水を守る取り組みは、井戸や工場だけに限りません。条例には、森林の保全や節水、油などによる汚染防止についても定められています。

森林が雨や雪を受け止め、地中へ水を送り込む働きを保つことも、地下水を守ることにつながるからです。そして東川町は、地下水の水位を継続的に観測し、水質検査の結果も公表しています。

豊かな地下水があるからといって、その状態が未来永劫続くと決めつけない。水の変化を見守り、必要な備えを重ねていく。そこには、自然の恵みを利用するだけではなく、守り続けようとする町の姿勢が見えてきます。

もちろん、条例があるからといって、地下水の減少や汚染を完全に防げるわけではありません。だからこそ、町も、住民も、事業者も、それぞれの立場で水と向き合い続けることが大切なのでしょう。

水道料金のない暮らしは、水を守る責任までなくなる暮らしではない。むしろ、毎日の蛇口の向こうにある自然を、身近に感じながら暮らすことなのかもしれません。

では、そんな大雪山の水とともに暮らす東川町には、なぜ新しい人々が移り住んでくるのでしょうか。最後は、水にひかれてこの町を選んだ人々や、田園風景を見つめる若者たちの姿に目を向けてみたいと思います。

<広告の下に続きます>

人々は、なぜ大雪山の水とともに暮らしたいの?

朝、蛇口をひねる。大雪山の麓に暮らす人々にとって、そこから地下水が出てくることは、特別な出来事ではありません。窓の外には田んぼが広がり、季節が移れば、山の色も、稲穂の色も変わっていきます。そんな東川町には、自然や水の豊かさにひかれて、町の外から移り住んでくる人々もいます。

でも、自然の中で暮らすことは、必ずしも便利なことばかりではありません。北海道の長い冬。雪への備え。都市部とは異なる交通や買い物の環境。そして、上水道がない町では、井戸やポンプなど、自分たちの水を確保する設備にも気を配る必要があります。

美しい風景に憧れることと、その風景の中で毎日を暮らすことは、同じではないのです。それでも、この町で暮らしたいと思う人がいる。その理由は、きっと水道料金の安さや景色の美しさだけではないのでしょう。東川町には、もう一つ、町の風景と人々を結びつける取り組みがあります。

「写真甲子園」です。
正式には「全国高等学校写真選手権大会」。全国から選ばれた高校生たちが北海道・東川町を中心とする地域に集まり、写真の腕を競う大会です。

始まったのは1994年。高校生たちは、限られた時間の中で町を歩き、人々に出会い、カメラを向けます。田んぼで働く人。町を行き交う人。何気ない日常の一場面。地元の人にとっては見慣れた光景でも、初めて訪れた高校生の目には、思いがけない美しさが映るのかもしれません。

そして、写真を撮るためには、ただ景色を眺めるだけでは足りません。その場所に足を運び、そこにいる人と向き合い、何を伝えたいのかを考える。写真甲子園は、町の風景を撮る大会であると同時に、人と土地が出会う機会でもあるのです。

大雪山の雪解け水が川を潤し、地下水が人々の暮らしを支える。その水に育まれた田んぼがあり、米づくりを続ける農家がいる。そして、その風景にひかれて新しく暮らし始める人や、カメラを手に訪れる若者たちがいる。こうして考えると、東川町の豊かさは、ただ水が豊富にあることだけでは説明できないように思えます。

水を使い、田んぼを耕し、風景を守り、そこで暮らす人々がいるからこそ、町の魅力は育まれていくのでしょう。もちろん、自然の恵みは永遠に保証されたものではありません。地下水を守ることも、米づくりを続けることも、町の暮らしを次の世代へつなぐことも、簡単なことばかりではないはずです。

それでも、人々はこの土地で日々の営みを重ねています。大雪山に降った雪が、いつか麓の地下水になるように…。今日の小さな営みもまた、長い時間をかけて、この町の未来を形づくっていくのかもしれません。

明日の朝も、蛇口をひねれば水が出る。そんな当たり前の一日が、これからも続いていくこと。大雪山の麓に暮らす人々にとって、それこそが、何より大切な豊かさなのかもしれません。


湘南ひらつかITサポートセンターをもっと見る

購読すると最新の投稿がメールで送信されます。

湘南ひらつかITサポートセンターをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む

タイトルとURLをコピーしました