徳島「美馬の和傘」──阿波和紙と竹が織りなす、光と雨の伝統工芸【あさイチ中継】

雨の路地に佇む着物姿の女性が、阿波和紙と竹で作られた美馬の和傘を差して立つ。 やわらかな朝の光が傘越しに透け、徳島県美馬市の伝統工芸「美馬和傘」の静かな美しさを表現した一枚。 伝統
徳島・美馬の和傘職人が生み出す“光を透かす傘”。 阿波和紙と竹、柿渋のぬくもりが織りなす日本の手仕事の象徴。 NHK「あさイチ」中継より。
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徳島県美馬市。吉野川の清流と阿波和紙の里として知られるこの町では、江戸時代から続く“和傘づくり”の伝統が今も息づいています。
阿波和紙と竹、そして柿渋——。自然の恵みを素材に、職人たちは一本の傘に心を込めて仕上げます。骨を削り、紙を張り、柿渋を塗り重ねていく手仕事は、三十日以上かけてようやく一つの形になるのです。
実用の道具としてだけでなく、和傘は今、アートやインテリア、フォトウェディングなど“美を伝える工芸品”として世界に広がっています。
その根底にあるのは、変わらぬ「職人の町・美馬」の精神。静かな手のぬくもりが、時代を越えて光を透かしています。

🏮 阿波の手仕事が生んだ美しさ──「美馬和傘」の原点

美馬の和傘は、阿波和紙と竹、そして柿渋。この三つの素材が絶妙な調和を生み出しています。吉野川流域で受け継がれてきた阿波和紙は、丈夫で光を柔らかく透かすのが特徴。和傘に張ると、光がにじむように拡がり、まるで淡い絹布を通して差し込む朝の光のようです。

骨組みに使われる竹は、地元の山から切り出されたもの。しなやかで粘りがあり、細く削っても折れにくい。職人は一本一本の竹を火であぶり、曲げ、整え、和紙との張り合わせが最も美しく見える角度を探ります。

そして仕上げに塗られる柿渋。これが防水と耐久を高めるだけでなく、時を重ねるごとに深みを増し、飴色の艶を帯びていきます。

この阿波の素材と職人の手が重なってこそ、美馬の和傘は“使うほどに育つ工芸品”になるのです。

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🪶 一本に宿る職人の技──繊細な工程と分業の妙

一本の和傘が完成するまでには、約三十以上の工程があります。竹を割り、火で炙り、骨を組み、和紙を張り、柿渋を塗る。その一つひとつが別々の職人による分業で成り立っています。

竹を扱う職人は、骨一本の厚みやしなり具合を見極める目を持っています。ほんの少し削りすぎても、傘は開かなくなり、わずかに厚すぎても、重たくて扱いにくくなってしまうのです。火加減や削り角度を指先で覚えているのは、何十年も竹と向き合ってきた職人だけの感覚です。

和紙を張る工程では、職人が筆を持ち、糊をすっと走らせながら紙を広げていきます。空気が入らないように、力を抜かず、でも破らないように。この繊細な“紙の呼吸”を読む技が、仕上がった傘の表情を決めると言われます。

そして、和傘の構造の要となるのが「ろくろ」。ろくろとは、和傘の頭と、柄の途中の開閉時に上下する場所にある部品を指します。これは、傘の開閉を支える小さな木製の軸で、骨の根元を束ね、傘全体のバランスを保つ役割を担います。開くたびに「カサッ」と音を立てるあの瞬間、ろくろの滑らかさがすべてを決めるのです。ミリ単位の誤差が動きを左右するため、熟練の職人が一つひとつ削り出して作ります。

ろくろ(出典:長良川STORY)
ろくろ(出典:長良川STORY)

こうして幾人もの職人の手を経て、一本の和傘がようやく命を吹き込まれます。その完成品には、手の跡も、息づかいも、そして時間も宿っているのです。

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🎎 現代に息づく伝統──観光とアートでよみがえる和傘

和傘のある風景には、不思議な温もりがあります。
雨を避けるための道具でありながら、光を受けると柔らかく透け、まるで灯りのように周囲を照らす。その美しさが、今あらためて注目されています。

徳島・美馬市では、和傘を飾るカフェや宿が増え、フォトウェディングやイベントの装飾としても人気を集めています。竹の骨が織りなす放射状の影は、写真映えするだけでなく、“手仕事の温度”を感じさせる背景として多くの人を魅了しています。

さらに最近では、海外でも“Japanese Umbrella Art”として話題に…。日本の伝統工芸展やインテリアショップで展示されるほか、欧州の舞台芸術では舞傘(まいがさ)が照明とともに使われ、「光を透かす芸術」として再評価されています。

和傘が持つ魅力は、単なる懐古ではなく、素材と手仕事が生み出す“光の美学”にあります。それは、プラスチック傘では決して再現できない、“時間の重なり”が映し出す美しさであり、美馬の和傘職人たちは、その伝統を守りながらも、現代の感性と結びつけることで、“使われる工芸”から“愛でられる工芸”へと進化させています。

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🌅 まとめ|雨にも光にも似合う、“美馬の和傘”が語る日本の心

和傘は、雨を避けるための道具でありながら、光を迎えるための道具でもあります。阿波和紙が透かすやわらかな光、竹の骨が描く繊細な影、柿渋が時を重ねて生む深い色。その一つひとつが、自然と人の手の調和を物語っています。
美馬の和傘には、ただの“伝統工芸”という言葉では括れない力があります。それは、地域の自然を生かし、職人が心を込めて作る——そんな暮らしのリズムそのもの。
たとえ実用の傘としての役目を終えても、光を透かす和傘の姿は、日本の「ものを慈しむ心」を今に伝えています。

あさイチの中継では、そんな美馬の風景とともに、傘の中に息づく“静かな職人の物語”が見られるはずです。

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