紅葉が真っ盛りを迎える秋の京都。その美しさを支えてきた“森”の恵みとして、今、静かに注目を集めているのが 原木しいたけ です。
市場に並ぶ多くのしいたけが菌床栽培へと移り変わるなか、京都市右京区・京北地域では、手間も時間も惜しまず“木の命”と向き合いながら原木しいたけを育て続ける生産者がいます。
伐り出した広葉樹に菌を打ち込み、森の呼吸そのままの湿度と温度の中で
ゆっくり、じっくり育つ原木しいたけ。ひと口かじれば、木の香りがふわりと広がり、肉厚な傘から旨みがじゅわっと溶けだす——まさに“森で生まれた味”と呼ぶにふさわしい存在です。
今週の「食彩の王国」では、原木しいたけに魅せられた生産者の挑戦、その素材が京料理やフレンチへと変わる瞬間、そして里山を守ろうとする人々の思いが描かれます。秋の京都を包む色彩と香り、その根底にある“森の物語”を、まどかとまさみちがやさしく案内していきます。
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🍄 紅葉に染まる京都──“きのこの都”を歩く楽しみ
秋が深まる京都では、紅葉が街の輪郭をやさしく染め上げ、山から吹き下ろす風に“森の香り”がふわりと混ざります。そんな季節、京都の食卓を支える主役のひとつが きのこ。古都の料理人たちは、この季節になると
きのこの香り・旨味・食感を最大限に引き出すための工夫を凝らし、日々新しい一皿を生み出しています。
中京区の野菜ソムリエの店では、ふっくら蒸し上げたきのこに山椒の効いた田楽みそを添え、京都らしい奥ゆかしい香りを楽しませてくれます。XOジャンで香ばしく仕上げる炒め物、数種のきのこを重ねて旨味を引き出す鍋料理……どれも“滋味深い秋”をそのまま味わえる一品ばかり。
そして何より、京都は古くから 里山とともにある暮らし を続けてきた土地。きのこを味わうという行為そのものが、森からの恵みを静かに受け取る時間でもあります。
紅葉に彩られた京都で、きのこを通して“森と人が息づく物語”を味わう旅が始まります。
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🍄 原木しいたけの魅力──森が育てる香りと旨味
原木しいたけの最大の特徴は、自然の木を使ってじっくり時間をかけて育てられることで生まれる深い香りと、噛むほどに広がる複雑な旨味にあります。
一般的な菌床栽培が“均質で安定した品質”を求めて作られるのに対し、原木栽培は自然任せの部分も多く、一本の木が持つ個性や、日当たり・湿度・風の通り方といった環境がそのまま椎茸の味に反映されます。
京北の里山で育つ椎茸は、広葉樹の香りをゆっくり吸い込みながら成長し、伐採した原木の内部に “きのこの命” を刻むようにして育っていきます。そのため、仕上がった原木しいたけは傘を切った瞬間に森の香りがふわりと立つほど、香りの奥行きが違います。
肉厚でジューシーな食感も大きな魅力。さけば繊維がびっしり詰まっていて、噛むとコリッとした歯ざわりとともに、森が育てた旨味がじわじわとあふれ出してきます。
原木栽培は手間も重労働も多く、生産量は菌床に比べてどうしても少なくなります。でもそのぶん、一本一本に“森で生きてきた時間”が宿っているのが原木しいたけの特別な魅力なのです。
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🍁 里山を守る──原木しいたけ農家の挑戦と想い
京都市右京区・京北地域。“森の京都”とも呼ばれるこの地で、原木しいたけづくりに挑み続けているのが宮西真也さんです。市場に並ぶ椎茸の多くが菌床栽培へと移り変わる中、宮西さんはあえて手間も時間もかかる原木栽培にこだわる道を選びました。
ひとつの原木に種駒を打ち込み、森の湿気や気温の移ろいに寄り添いながらゆっくり育つ原木しいたけは、
収穫までにどうしても長い時間が必要になります。
夏の暑さ、冬の寒さ、雨や風……そのすべてを受け止めながら育つ椎茸は、まさに“森そのものの記憶”をまとっているような存在です。宮西さんが語る「里山を守りたい」という言葉には、椎茸を育てるだけではなく、森そのものを未来へ残すための覚悟がにじんでいます。
かつて森林公園の管理に携わっていた経験から、森が放置されると土壌が痩せ、木々の循環が失われていく姿も見てきた宮西さん。だからこそ、原木椎茸づくりを通して、森の手入れ、間伐、光を入れる作業……“人が森に関わることの意味”を改めて形にしようとしているのです。
手間ひまを惜しまない作業の先にあるのは、森の香りをふわりとまとった、あの肉厚で力強い原木しいたけ。そのひとつひとつに、里山を守ろうとする人の想いがしっかり刻まれているのです。
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🍄 京都の秋を彩る“きのこ料理”──職人が紡ぐ味の世界
京都の料理人たちが手がける“秋のきのこ料理”は、単に素材を味わうだけではなく、季節の移ろいや土地の香りまでも静かに映し出してくれます。中京区の野菜ソムリエの店では、ふっくら蒸し上げたしいたけやしめじに、山椒をきかせた田楽みそを添えて。
ほわっと立ち上る香りに山椒の爽やかさが重なり、“京都らしいやさしい刺激”が口の中にひろがります。さらに香ばしく炒めたXOジャンの一品は、きのこが持つ旨味がぐっと引き立て、静かな料理の中に小さな驚きを忍ばせる仕上がりです。
数種類のきのこを合わせた鍋料理では、白いスープがふんわりと素材を包み込み、昆布や鰹では出せない“森の香り”が湯気とともに立ちのぼるのです。その一杯には、京都の秋の空気がそのまま溶け込んだような深い味わいがあります。
東山区の老舗料亭では、香り豊かな松茸と近江牛をあわせ炊き込んだごはん、また、肉厚の原木しいたけに魚介の旨味を重ねた繊細な一品など、京料理ならではの“足しすぎない美学”がきのこに宿ります。
京都の秋は、紅葉の色と同じくらい豊かに、“森の恵みの香り”が心を満たしてくれる季節です。その香りを料理という器にすくい取り、静かに差し出してくれるのが、京都の職人たちの技なのです。
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🍁 森の恵みを未来へ──シェフと生産者が描く新たな一皿
原木しいたけの里山を訪れたのは、京都市上京区の人気フレンチ「レーヌ デ プレ」の中原文隆シェフ。火入れと素材選びに徹底して向き合う職人として知られ、12年連続でグルメガイドに掲載される実力派です。
その中原シェフが驚いたのは、採れたての原木しいたけに宿る “森の香り” と “旨味の強さ”。ホイル焼きにした瞬間、封じ込められていた香りがふわっと立ちのぼり、干ししいたけの戻し汁を口にしたときにはその濃厚さに思わず笑みがこぼれるほどでした。
そしてシェフの目を引いたのが、役目を終えた“ほだ木”の存在。ただの廃材に見える木にも、長い年月をかけて森ときのこを育ててきた物語が宿っています。その「森の営み」を一皿に込めたい——シェフの中で新しい挑戦が静かに芽生えていきます。
生産者である宮西さんが守ろうとする“里山”と、料理人が描く“未来の料理”。そのふたつが出会ったとき生まれるのは、素材を生かすだけでは終わらない、森の恵みをまるごと表現する一皿。
料理は味だけではなく、育つ場所や人の想いが重なって初めて“物語”になる。そのことを静かに教えてくれる、京都の原木しいたけです。
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🍁 京都・京北の森が伝える“里山の未来”
京都市右京区・京北の森は、かつて薪炭林として人々の暮らしと深く結びついていた場所。しかしライフスタイルの変化とともに手入れが行き届かなくなり、森の循環が乱れ、豊かな生態系が少しずつ姿を変えつつあります。
そんな森をもう一度“息づく場所”に戻したい——原木しいたけ生産者・宮西さんが大切にしているのは、まさにその想いです。原木しいたけを育てるには、
・森で育った広葉樹を選び、
・伐採した木を乾かし、
・菌を打ち込み、
・雨や日差しの下でゆっくり育て……
と、数年単位の時間が必要になります。そのすべての工程に“森を健やかに保つための循環”が含まれています。
木を伐ることは破壊ではなく、森が若返るための再生の一歩。新しい枝葉が陽の光を浴び、小さな命がまた生まれ、その恵みをいただくことが、里山の未来を紡ぐ力になります。
宮西さんが育てる原木しいたけは、ただ美味しいだけでなく、“森が手渡してくれた未来の種”のようなもの。京北の森で採れた一枚のしいたけの裏側には、人の暮らし、自然、そして未来を守る静かな想いがしっかり息づいています。
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🍄 紅葉ときのこが教えてくれる“季節の美”──まとめ
京都の秋を彩るきのこには、ただの食材を超えた“物語”があります。紅葉の山で生まれた香り、森の手入れによって守られた土の恵み、原木からじっくり育った深い旨味。どれも自然と人が寄り添って生まれた、季節そのものの味わいです。
さらに、里山を守ろうと挑戦する生産者、その香りと食材の力を最大限に引き出す料理人、森づくりに関わる人たち……多くの思いが重なって、“京都のきのこ”という一皿が完成します。
紅葉の中を歩き、立ちのぼる香りを感じ、口にすれば森の息吹がふわりと広がる——そんな体験こそが、京都が長く守ってきた“季節の美”なのでしょう。
この記事が、静かな森と人の営みを思い起こす小さなきっかけになれば嬉しいです。まどかとまさみちは、これからも食の物語をそっと寄り添うように紡いでいきます。