鈴鹿峠に伝わる“巨大な化け蟹”の伝説を知っているだろうか。旅人を襲い、人々を恐怖に震わせたその化け蟹は、高僧の祈りによって改心し、その甲羅を割って生まれたもの——それが、滋賀・甲賀市に今も受け継がれる 「かにが坂飴」 だと言われている。
すべてが手作業。薪で火をおこし、釜で煮詰め、金ゴテで伸ばし、竹皮で包む。その甘さの奥にあるのは、旅人の安全を願う祈りと、地域に息づく静かな時間の積み重ねだ。
2025年12月3日(水)放送のNHK「あさイチ・いまオシ中継」では、“伝説の手作り飴”として、この「かにが坂飴」 が紹介される予定。物語に導かれるように、旅の甘さを味わいに行ってみたくなる——そんな飴の秘密を、ひとつずつ紐解きます。
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「かにが坂飴」とは? — 麦芽水あめと土山宿の甘い歴史
東海道五十三次のひとつ、土山宿。江戸から京都へ向かう旅人にとって、ここは鈴鹿峠を前に体を休め、心を整える“最後の宿場町”として栄えた場所だった。激しい気候変化と険しい山道に備え、旅人が求めたのは、疲れた身体に染み込むやさしい甘さ。
そんな旅人の口に力を与え、再び峠へと向かわせたのが、今も甲賀市に伝わる 「かにが坂飴」 だ。原料は、麦芽から作る水あめと砂糖のみ。余計な香料や着色料を使わず、素材の甘さだけを丁寧に煮詰めて作る素朴な飴は、旅人の体力を回復させる“力の食べ物”として愛されてきた。
丸く平らに伸ばされたべっこう色の飴は、口に含むとゆっくりと溶け、やわらかい甘さが長く続くのが特徴だ。
土山宿とともに歩んできたこの飴は、単なる甘味ではなく、旅人の安全と無事を願う象徴として、今も地域の人々に大切に受け継がれている。

かにが坂飴
- 滋賀県甲賀市土山町南土山甲1301
- TEL:0748-66-1426
- 営業時間:9:00~17:00
- 定休日:火曜
- URL:https://office04745.wixsite.com/kanigasaka-ame
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伝説の大蟹と高僧。飴に込められた“厄除け”の意味
鈴鹿峠――東海道を行き交う旅人にとって、昔から難所と呼ばれ続けてきた場所。濃い霧と深い山影、荒れた天候が、旅人の命を奪うことも珍しくなかった。そんな峠に、“巨大な化け蟹”が現れたという伝説が残っている。
甲羅は三メートルを超え、旅人を襲っては荷物や命まで奪っていった。恐怖に震えた人々の声を受け、京の高僧 恵心僧都・源信 が峠へ向かった。
祈りと法力によって化け蟹は改心し、自らの罪を悔い、その大きな甲羅を割った瞬間――赤く輝く液体が飛び散り、それが飴になったと言われている。
飴には“厄除け”の願いが込められ、道をゆく旅人の安全と、心を支える甘さを届けるものとなった。
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昔ながらの製法 — 薪の火と手仕事が生む優しい甘さ
かにが坂飴の最大の魅力は、今もなお“すべて手作業”で作られていること。
まず、薪を割り、火をおこし、大きな釜で麦芽水あめをゆっくり長時間煮詰める。湯気に包まれた作業場は、まるで時間が止まったようだと言う。
煮詰めた飴は木の板とござの上に広げられ、固まりかけを金ゴテで薄く伸ばし、丸く切り出していく。
そして、香りのよい竹の皮でひとつひとつ丁寧に包まれる。大量生産の飴では味わえない、人の手の温度と、薄く響く金ゴテの音までが“味”になる。
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地域に息づく伝承と、今も残る“蟹塚”の場所
土山宿周辺には、化け蟹の霊を弔ったとされる“蟹塚”が今も残っている。地元の人々はそこに手を合わせ、
災いや病から守ってくれる存在として大切にしてきた。毎年、塚の前に飴を供えて祈る人もいるという。ただの昔話ではなく、この地域に息づく“祈り”の文化が、今も確かに続いている証だ。
飴の甘さの奥にあるのは、旅の安全への願いと、人々の静かな祈り。それこそが、かにが坂飴が“伝説の手作り飴”と呼ばれる理由なのだろう。

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旅する読者へ — 土山宿を巡って、かにが坂飴を味わうヒント
かにが坂飴は、ただ買って終わりの“お土産”ではない。歩いて、触れて、背景を知ることで、初めてその甘さの意味が深く染み込んでくる。
鈴鹿峠の山並みを眺めながら土山宿の町並みを歩けば、かつて旅人が感じたであろう湿った風や、街道沿いに並んだ茶店の影が、静かによみがえる。
旅の途中で手に入れた飴を、ゆっくり口に含んで溶かしてみる。時間をかけてほどけていくやさしい甘みは、
急ぎ足では気づけない“旅の余白”そのものだ。
もし時間があれば、蟹塚へ寄ってみてほしい。飴に込められた“祈り”と、この土地の人が大切に重ねてきた“記憶”が静かに胸の奥で交わるはずだ。
旅は、ただ移動することじゃない。その土地の時間に、少しだけ自分を預ける行為なのだと思う。
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まとめ|昔話 × 甘味 × 旅の記憶。現代に残る “生きた伝説” をあなたに
かにが坂飴は、ただ昔から続く伝統菓子というだけでは終わらない。巨大な化け蟹の伝説、地域に息づく祈り、職人の手仕事の熱、そして旅人が求めたひとときの甘さ——そのすべてが、飴ひとつに溶け込んでいる。
ひと口舐めるたび、飴が少しずつ薄くなるように、旅の時間もまた静かに形を変え、心の中にあと味として残っていく。
次の旅を計画するとき、少しだけ足を伸ばして甲賀・土山を訪れてみてほしい。伝説の飴と、あなた自身の物語が、そこでそっと重なるかもしれない。
