江戸の町には、忙しない日々の合間にふと立ち寄る“小さな甘味処”がありました。
香ばしい醤油の匂い。蒸したて餅の湯気。素朴ながらも、どこか凛とした美しさを宿す味わい。
ここでは、『美の壺』「粋でいなせ 江戸のおやつ」で紹介された名店や職人の技をたどりながら、江戸の人々が愛した“おやつの美学”を紐解きます。
放送時間
| NHK BS(BS101チャンネル) |
| 2025年12月19日(金) 12:00~ |
| BSプレミアム4K |
| 2025年12月13日(土) 06:45~ |
一の壺、素朴にして艶やか ― 江戸のおやつの原点
江戸の菓子には、手のひらに収まる小さな世界観がありました。甘味を控え、素材を最大限に引き出す。飾り立てず、潔いほどのシンプルさ。
● 浅草「亀屋忠兵衛」──焼き団子に宿る焦げの美
番組では、職人・山田忠之助さんが焼く“江戸焼き団子”が紹介されました。
- もち米を粗挽きにし、歯ざわりを残した団子
- 醤油を一度煮切り、香りだけを立たせる“刷毛塗り”の技
- 焦げ目の濃淡で味を調える熟練の感覚
とろりと舌の上で広がる香ばしさは、江戸の町人が愛した“粋な味”そのものです。
● 日本橋「菓匠 竹葉亭」──蒸し羊羹の静かな艶
木村多江さんが訪れたのは、日本橋の老舗 竹葉亭。
蒸し羊羹が黒々と深い艶をまとい、切り口からほのかな光を放つ姿はまさに“静謐の美”。
- 小豆の皮を残すことで生まれる素朴な甘み
- 余計な寒天を使わず、蒸気だけで仕上げる江戸前の製法
- 切り分ける際に響く、しっとりとした“吸い付く音”
江戸の甘味に流れる時間のゆったりさが、羊羹にそのまま宿っています。
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二の壺、職人の所作がつくりだす—江戸前の美意識
江戸のおやつを支えるのは、簡素な材料を格別の味に変える職人の“所作”。その動きは無駄がなく、早すぎず、静かな緊張感に包まれています。
● 草刈正雄さんが惚れ込んだ “手返しの妙”
浅草の飴細工師 本所健介さんの工房では、飴を手返ししながら形づくる一連の所作が紹介されました。
- 火から下ろした瞬間の温度を“手のひら”で読む
- 空気を含ませて輝きを演出する“引き延ばし”の技
- 生き物の姿を一瞬で造形するスピードと集中
どれも、江戸の町場で培われた“見せる技”の名残りです。
● 日本橋「ゑび寿屋」──揚げ饅頭の音を聴く
揚げ油に沈む饅頭から、かすかに立つ泡。
職人・岡村栄太郎さんは、その音の変化で火の通り具合を判断します。
- “パチッ”から“トトト…”へ変わる音色
- 油が饅頭の水分をまとい、香りを深める瞬間
- 揚げたてを手渡すときの、決して熱くない絶妙な温度
耳で、鼻で、そして指先で。江戸前の菓子は五感で完成します。
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三の壺、現代に息づく江戸のおやつ ─ 暮らしを彩る小さな贅沢
江戸の甘味は、ただの“おやつ”ではなく、生活のリズムを整える存在でした。今も東京の下町に息づくそれらの味は、現代の暮らしにも静かに寄り添います。
● 散歩の途中に立ち寄る、江戸の余白
番組でも触れられたように、江戸の甘味処は“歩いて行ける距離”にありました。現代の店もその精神を受け継いでいます。
- 焼き団子の「亀屋忠兵衛」──午後のひと息に
- 蒸し羊羹の「竹葉亭」──手土産としての上品さ
- 揚げ饅頭の「ゑび寿屋」──温度の記憶を持ち帰る楽しみ
小さな甘みは心の余白をつくり、季節の移ろいを感じさせてくれます。
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エピローグ
江戸のおやつは、華美ではありません。けれど、そのひと口に宿る“静かな美しさ”は、今も変わらず私たちの感覚をやさしく揺らします。
焦げ目の香り。蒸し上がりの艶。職人の手元に宿る緊張と柔らかさ。それらはすべて、日常の中に潜むささやかな豊かさの象徴です。
ふと甘いものが欲しくなった午後、江戸のおやつを手にしてみる。その瞬間、時間はゆっくりと流れ、心は静かに整っていくでしょう。
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