“太陽”を地球につくる。
そんなこと、本当にできるのだろうか?実は今、南フランスで人類史上最大の実験が進んでいる。その名は、ITER(イーター)。目指しているのは「核融合」。太陽が輝き続ける仕組みと同じ反応を、地上で再現しようという挑戦だ。
もし実現すれば、燃料はほぼ無尽蔵。二酸化炭素もほとんど出ない。しかも、今の原発とは違い、暴走しにくい仕組み。まさに“夢のエネルギー”と呼ばれてきた。けれど――
構想から60年以上。いまだ実用化には至っていない。なぜ、そんなに難しいのか?技術はどこまで進んでいるのか?そして、日本人がその中枢を担っているという事実。
NHKスペシャルは、人類の未来を左右するかもしれない核融合プロジェクトの最前線に迫る。これは、遠い未来の話ではない。資源に乏しい日本にとっても、決して他人事ではないエネルギーの物語だ。
【放送日:2026年3月1日(日)21:00 -21:50・NHK-総合】
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核融合ってなに?──太陽と同じ仕組みとは
毎朝、当たり前のように昇る太陽。でも、あの強烈な光と熱はどこから来ているのだろう。太陽の中心では、「核融合」という反応が起きている。
簡単に言えば、軽い原子どうしがくっついて、別の原子になるときにエネルギーが生まれる。太陽の場合、主役は水素。水素の原子核(陽子)が、ものすごい高温と圧力の中でぶつかり合い、
最終的にヘリウムへと変わる。このとき、ほんのわずかに質量が減る。
そしてその“減った分”が、
アインシュタインの特殊相対性理論で有名な式
E = mc²
に従って、膨大なエネルギーに変わる。ここがポイント。
質量は、エネルギーのかたまりでもある。
太陽は、毎秒約400万トン分の質量をエネルギーに変えながら輝いている。でも安心してほしい。それでもあと約50億年は燃え続ける。宇宙規模では、まだ若い星だ。
地上で核融合を目指すというのは、この“太陽の仕組み”を人工的に再現しようという挑戦。ただし問題は、環境。
太陽の中心は約1500万度。
地上では重力の圧力がないため、1億度以上まで温度を上げないと反応が起きにくい。
1億度。想像もつかない温度だ。この超高温のガス状態を「プラズマ」と呼ぶ。物質でも液体でもなく、電子と原子核がバラバラになった状態。
このプラズマを、溶かさず、逃がさず、安定させる。そこが、核融合の最大の壁になっている。でもまずはここまで。
核融合は、
危険な爆弾の話ではなく、
太陽の話。
宇宙の基本原理を、地上で再現する挑戦だ。
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なぜ40年以上も実用化できていないのか?
核融合の仕組みは、理論的にはわかっているし実験でも確かめられている。
問題は、それを地上で安定して反応を起こし続けること。最大のハードルは温度だ。地上では太陽のような重力の圧力がないため、核融合反応を起こすには約1億度以上の超高温が必要になる。1億度。この温度では、どんな金属も一瞬で溶ける。つまり、容器に触れさせることができない。
そこで考え出されたのが、磁場で閉じ込める方法。いわば電磁石の原理だ。プラズマは電気を帯びている。だから強力な磁場で“浮かせる”ことができる。ドーナツ状の装置の中に、プラズマを宙に浮かせる。これが「トカマク型」と呼ばれる方式だ。
しかし、プラズマはとても気まぐれ。少しでも不安定になると、揺らぎ、崩れ、壁に触れてしまう。さらに難しいのが「エネルギー収支」。核融合反応を起こすには、まず大量のエネルギーを投入しなければならない。投入したエネルギーよりも、取り出せるエネルギーのほうが大きくならなければ、発電には使えない。この比率を「Q値」と呼ぶ。
長年の研究で、“ほぼプラス”までは来ている。しかし、商業発電に必要な安定性と持続時間には、まだ届いていない。そしてもう一つの壁。材料。1億度のプラズマそのものには触れないとしても、中性子の衝撃は装置を劣化させる。長期間耐えられる材料を開発する必要がある。つまり核融合は、
・超高温
・超精密制御
・超強力磁場
・超高耐久材料
という“超”だらけの技術の集合体。不可能ではない。でも、簡単では決してない。40年かかっている理由は、単純に「難しいから」。ただそれだけ。それでも、研究は止まっていない。なぜなら、もし成功すれば、エネルギーの歴史が変わるからだ。
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ITERとは何か?──史上最大の国際プロジェクト
核融合の夢を、本気で形にしようとしている場所がある。
南フランス、アルプス山脈のほど近く。厳重なセキュリティに守られた巨大施設。それがITER(イーター、International Thermonuclear Experimental Reactor)だ。太陽で起きている核融合反応を地上で再現し、平和目的のエネルギー源として実証を目指す国際プロジェクトである。
ITERは、ひとつの国の計画ではない。日本、EU、アメリカ、ロシア、中国、韓国、インド。世界の主要国が参加する、史上最大規模の国際プロジェクトで、目標は明確。投入したエネルギーの10倍を生み出す核融合反応を実証すること。いわば、“実験としての成功”を証明する段階。発電所ではない。しかし、未来の発電所への決定的な一歩。
装置は巨大なドーナツ型。直径およそ30メートル。重さは数万トン。超伝導コイルで強力な磁場を作り、1億度のプラズマを宙に浮かせる。まるでSFのような話だが、いま現実に組み立てが進んでいる。

そして興味深いのは、このプロジェクトの中枢に日本人研究者がいること。資源の乏しい日本にとって、核融合は単なる研究テーマではない。国家の未来設計に関わる技術だ。ITERが成功すれば、次は「DEMO」と呼ばれる実証発電炉へ進む。
そこまで行けば、いよいよ“発電”が現実になる。まだ道のりは長い。でも、人類は本気だ。太陽を地上に持ってくるという挑戦は、すでに建設現場という具体的な形を持っている。
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核融合は本当に安全なのか?原発との違いとは?
「核」と聞くと、怖い。原爆。原子力発電所の事故。放射能。そうした記憶が、どうしても重なる。だからまず、ここをはっきりさせたい。
今の原子力発電は「核分裂」。重い原子(ウランなど)の原子核を割る(分裂させる)ことでエネルギーを取り出す。しかも分裂は連鎖する。一度始まると、制御しなければ暴走する可能性がある。これが「臨界」という状態。原爆も、この仕組みを利用している。
一方、核融合は逆。軽い原子どうしをくっつける反応だ。そしてここが決定的に違う。核融合は、条件が崩れればすぐ止まる。超高温・超高圧という厳しい条件が揃わなければ、核融合反応は持続しない。
現在、最先端の技術を駆使しても、反応を持続させることに苦労していることでもお判りいただけると思う。少しでもプラズマが乱れれば、自然に消える。爆発的な連鎖反応にはならない。
もうひとつの違いは、廃棄物。核分裂では、高レベル放射性廃棄物が長期間残る。核融合でも放射線は出るが、長寿命の核廃棄物はほとんど発生しないとされている。ただし、ここで正直に言う。「まったくリスクがない」わけではない。
・中性子による材料劣化
・トリチウム(燃料)の管理
・巨大設備の安全管理
課題はある。だから研究が続いている。だから多くの人が不安になるのは自然なことだ。
でも、不安の原因が「核分裂のイメージ」に引きずられている部分もある。核融合は、爆弾の延長ではなく、太陽の延長。それでも慎重に進める必要はある。技術は人類にとって希望だが、過信してはいけない。
だからこそ、国際プロジェクトとして透明性を持って進められている。怖いかどうかを決めるのは、イメージではなく、仕組み。そこを丁寧に見ていくことが大切だ。
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実現すれば何が変わる?日本と世界の未来
まず前提として——
短期〜中期で、いきなり化石燃料もウランも要らなくなる、なんてことはない。これは正直に言っておきたいところ。
① いまの世界は「穴を掘って燃やす文明」
今の人類のエネルギーは、ほとんどがこうだよね。
- 地下から石油・ガス・石炭を掘る
- 埋まっていた炭素を一気に燃やす
- CO₂が大気に戻る
「地球が何億年もかけて貯めた燃料を、数百年で燃やし尽くす」文明。ウランも構造は似ている。埋まっている資源を掘り出し、核分裂させる。ウランは有限だし、しかも日本ではほとんど採れない。結局、中東・ロシア・アメリカなどの“資源地政学”からは逃れにくい。だから日本は、
- 資源を持つ国に頭が上がらない
- 為替・国際情勢にエネルギー価格が振り回される
という構造から抜け出しづらい。
② 「核のゴミ」問題は、きれいごとでは済まない
いまの原発(核分裂)が抱えている一番重い問題が、いわゆる「高レベル放射性廃棄物」。いわゆる”核のゴミ”問題だ。
- 人間の時間感覚からすると、笑えないレベルの“長い期間”
- 地下深くに埋めれば安全と言われても、「数千年マジで大丈夫?」は、
見てきた人もいないし、誰も実証できない - ロケットで太陽に捨てれば…と一瞬思うけれど、
打ち上げ失敗した瞬間、地球規模の大事故になりかねない
「埋めたからOK!」と言われても、素直に信じられないのは当たり前だ。
③ そこで核融合が意味するもの
核融合が「ちゃんと」実用化されたとき、何が変わるか。ざっくり言うと——“穴を掘って燃やす文明”から、“太陽の仕組みを借りる文明”に近づくということ。
- 燃料の主役は水素の同位体(重水素など)
→ 重水素は海水に含まれていて、ほぼ“枯渇しない”レベル - CO₂を出さずに莫大なエネルギーを取り出せる
- 核分裂のような暴走連鎖反応がない(条件が崩れたら反応が止まる)
- 高レベルの長寿命放射性廃棄物がほとんど出ないと想定されている
地政学的には:
- 「石油・ガス・ウランをどれだけ持っているか」が国力の決定要因ではなくなる
- 海水さえあれば燃料は確保できるので、日本のような“資源がない国”も、エネルギー自立に近づける
気候変動の面では:
- CO₂を出さない「ベースロード電源(24時間安定して供給できる電源)」として機能する
- 太陽光や風力の“気まぐれさ”を、核融合が下から支える形になれば、再エネ+核融合という安定した組み合わせが見えてくる
④ それでも“魔法の解決策”ではない
ここで、ちゃんとブレーキも踏んでおこう。
核融合が実現しても——
- 大規模なプラント建設には巨額のコストと時間がかかる
- エネルギーが安くなったからといって「使い放題でいい」という話にはならない
- 社会の仕組み、産業構造、働き方、都市のあり方まで全部連動して変えていかないと、“もったいない未来”になる
結局、エネルギー問題は、「新しい技術が来れば全部解決!」みたいな単純な話じゃない。核融合はあくまで「選択肢を広げる技術」。
- 資源という“鎖”をゆるめる
- 核のゴミ問題を軽くする
- 脱炭素を現実的なものに近づける
でも、どう使うかを決めるのは、結局、人間。
⑤ 日本にとっての意味
資源がなく、地震も多く、それでも高度な産業を抱えている日本にとって、核融合はこういう位置づけになるはず。
- 「エネルギーで他国に振り回されない」ための、数十年スパンの保険
- 原発と化石燃料依存から、少しずつ抜け出すための長期戦略
- 物理・材料・工学・制御・情報技術、日本が得意とする分野の総合格闘技としての挑戦
つまり、時間軸の長い“国の宿題”というわけだ。ボクたちが子どもの頃に憧れた「夢の原子力」は、いまだに“途中経過”のまま。だけど、「まだ実現してないから、無意味」ではない。
- 化石燃料の限界
- 核のゴミの不安
- エネルギー地政学のしんどさ
こういう現実があるからこそ、核融合という別のルートを育てておく意味があるのだ。
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まとめ|“夢”はまだ実験中…
核融合は、まだ完成していない。1億度のプラズマを安定させ、発電として成立させるまでには、越えるべき壁がいくつもある。そして、もし実現したとしても、それがすべてを解決する魔法になるわけではない。
エネルギーの使い方。地政学。軍事との距離。人間の欲望。技術は、それ自体が善でも悪でもない。どう使うかは、私たち次第だ。
それでも――化石燃料に縛られ、資源に振り回され、「核のゴミ」という重たい宿題を抱えたまま、未来へ進むよりは、別の可能性を探り続けるほうがいい。核融合は、いまも実験中。でも実験とは、失敗を前提に、未来を試す行為だ。
子どもの頃、“夢の原子力”と呼ばれていた技術に憧れた世代がいた。いま、その夢はまだ途中にある。完成させるのは、いま理科室で顕微鏡をのぞいている子どもたちかもしれない。
太陽を地上につくる。それは傲慢な挑戦ではなく、地球と折り合いをつけるための模索かもしれない。夢はまだ実験中。だからこそ、いま、書き留めておく意味がある。