あさイチ中継|和紙は、弱いままで強くなった市川三郷町「破れない和紙」の挑戦

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和紙が「弱い」と言われるようになったのは、素材そのものが変わったからではない。使う道具と、使われる場面が変わったからだ。
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和紙と聞くと、多くの人が思い浮かべるのは、薄くて、繊細で、そっと扱わなければならない素材だろう。実際、和紙は「破れやすい」ものだった。だからこそ大切にされ、だからこそ美しいとされてきた。

けれど山梨県・市川三郷町では、その常識を否定するのではなく、受け止めたうえで、少しだけ先へ進む和紙づくりが続けられている。弱いままで、強くなる。和紙らしさを失わずに、暮らしの中で使われ続けるための工夫。

あさイチ中継が映し出すのは、派手な技術革新ではない。長い時間をかけて積み重ねられてきた素材と人との、誠実な関係だ。

【放送日:2026年1月27日(火)8:15 -9:55・NHK総合】

市川三郷町という、和紙の町 — 紙づくりが暮らしの中にあった場所

山梨県の南部、富士川の流れに寄り添うように広がる市川三郷町。この町は、千年の歴史がある和紙の産地として知られてきた。とくに市川大門地区は、江戸時代にはすでに紙づくりが盛んだったと伝えられている。水がきれいで、紙漉きに適した植物が手に入り、人の手仕事が自然に根づく環境があった。

和紙は、特別な工芸品としてだけ作られていたわけではない。帳簿や手紙、障子や日用品。暮らしのあらゆる場面に、紙が使われていた。

この時期になると、和紙の町では、学校の卒業証書に使う和紙を生徒自身が漉く、という話も聞く。一枚の紙に、自分の時間と手の感覚が残る。そんな体験が、特別なものとして受け継がれてきた地域もある。

市川三郷町の和紙づくりも、決して「遠い伝統」ではなかった。町の中に工房があり、紙を漉く音が、日常の風景の一部だった。けれど時代が変わり、紙の使われ方も変わった。

便利で、丈夫で、大量に作れる素材が増える中で、和紙は次第に「繊細で、扱いにくいもの」と見られるようになっていく。それでも、この町では紙づくりが途切れなかった。

弱さを否定せず、使われなくなった理由から目を逸らさず、どうすれば続けられるのかを考え続けてきた。その積み重ねの先にあるのが、いま、あさイチ中継で紹介される「破れない和紙」だ。

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和紙はなぜ「弱い」と言われてきたのか? — 素材の問題ではなく、使い方の変化

和紙が「弱い」と言われるようになったのは、素材そのものが変わったからではない。使う道具と、使われる場面が変わったからだ。

明治時代以降、日本には西洋からペンが入ってきた。鉛筆、万年筆、そして戦後になると、ボールペンやシャープペンシルが日常の筆記具になっていく。それらは、強く押しつけて書くことを前提にしている。インクの出方も、紙の表面にしっかり定着するように作られている。

一方で、和紙はもともと、筆で書くための紙だった。墨は、紙の中にゆっくり染み込み、繊維に絡みながら定着する。力を入れず、運筆の速さや呼吸で線をつくる。和紙は、そうした書き方と一体になって育ってきた素材だ。

だから、ペンで強く書けば、紙が負けてしまうこともある。インクがにじんだり、表面が傷んだりもする。それは「弱さ」ではなく、想定されていない使い方をされた結果だった。

今では、筆を使う機会は限られている。お習字や書き初めなど、特別な場面を除けば、日常で筆を手にすることはほとんどない。その中で和紙は、「扱いにくい紙」「実用には向かない素材」というイメージを背負うようになった。

けれど本来、和紙はとても理にかなった素材だ。軽く、通気性があり、繊維が長く絡み合っているため、裂けにくい特性も持っている。弱くなったのは、和紙ではない。和紙と暮らしをつないでいた関係が、途切れてしまったのだ。

だからこそ、「破れない和紙」という発想は、和紙を別のものに変える試みではない。現代の道具や生活に合わせて、もう一度つなぎ直そうとする試みなのだ。

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老舗和紙メーカー「大直」の挑戦 — 変えるために、まず和紙を疑わなかった

市川三郷町で、長く和紙づくりを続けてきた老舗メーカー「大直」。ここでも、和紙が使われなくなっていく現実は、他人事ではなかった。筆で書く文化が減り、ペンやボールペンが当たり前になる。障子のある家も減り、和紙は「特別なもの」になっていく。

その流れの中で、「和紙は弱い」「実用には向かない」という評価が、いつの間にか定着していった。けれど大直は、和紙そのものを否定しなかった。

「和紙がダメなのではなく、今の暮らしと合っていないのではないか」
そんな問いを、内側から立て直した。だから選んだのは、伝統を切り捨てることでも、まったく別の素材に乗り換えることでもない。

和紙の良さを残したまま、現代の使い方に応えられないか。

和紙の風合い。軽さ。手に触れたときのやさしさ。それらを失わずに、ペンで書いても破れにくく、水にも強い紙はできないか。

簡単な答えはなかったはずだ。長年培ってきた製法を見直し、素材の組み合わせを試し、「和紙らしさとは何か」を何度も問い直す必要があった。

大直の挑戦は、「伝統を守るために変わる」という言葉を、現実の作業として積み重ねてきた歩みだ。そうして生まれたのが、後に「あさイチ中継」で紹介される新しい和紙素材——NAORON(ナオロン) だった。

大直

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新素材「NAORON」とは何か? — 和紙の質感を残したまま、現代の筆記に応えるために

現代の洋紙の多くは、ペンやボールペンで書くことを前提に作られている。インクがにじまないよう、表面にはさまざまな処理が施され、紙は均一で、滑らかだ。

その代わり、長い時間が経つと、黄ばんだり、脆くなったりすることもある。学生の頃に使っていたノートを久しぶりに取り出すとボロボロになっていた、という経験をした人もいるはずだ。

紙が「書くための道具」として最適化される一方で、時間に耐える素材ではなくなっていく。一方、和紙はまったく違う思想で作られてきた。繊維が長く、内部に空気を含み、墨を受け止めるように滲ませる。紙の中で、インクや墨が呼吸するように定着する。

だからこそ、筆では美しく書けても、ペンではにじみやすく、強く書けば破れやすい。それが、現代では「使いにくさ」として現れてしまった。NAORON(ナオロン)は、その問題を「和紙を洋紙に近づける」ことで解決しようとはしなかった。選ばれたのは、和紙の繊維構造と風合いを残したまま、強さと耐水性を補うという方法だ。

植物由来の和紙繊維に、化学繊維を適切に混ぜ込むことで、紙全体の構造を支える。表面を薬剤で覆い隠すのではなく、紙そのものの“骨格”を強くする。その結果、NAORONは和紙らしい軽さと手触りを保ちながら、ペンで書いても破れにくく、水にも強い素材になった。

インクのにじみ方も、完全に抑え込むのではない。書き味を犠牲にせず、実用として成立するバランスを探った結果だ。つまりNAORONは、「にじませない紙」ではなく、「現代の道具と共存できる和紙」

和紙を守るために、別の素材に置き換えるのではない。和紙が持っていた長所を理解したうえで、足りなかった部分だけを補う。その考え方自体が、この素材のいちばんの特徴なのかもしれない。

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なぜ「破れない和紙」が必要だったのか? — 書くためだけでなく、使い続けるために

紙は、書くためだけのものではなくなっている。ノートや手紙だけでなく、バッグやポーチ、PCケースや収納用品。日常の中で、「触れられ、動かされ、使い続けられる素材」としての役割が、紙にも求められるようになった。

そのとき、和紙の弱点ははっきりする。引っ張れば破れやすく、水に濡れれば傷みやすい。いくら風合いがよくても、実用の場では選ばれにくい。大直が向き合ったのは、その現実だった。

破れないこと。多少濡れても、すぐには使えなくならないこと。それは、和紙を「特別な素材」から日常に戻すための条件でもあった。

NAORONは、和紙の質感を残しながら、水に強く、繰り返し使える強度を持つ。完全に防水というわけではないかもしれない。けれど、少しの雨や、うっかりした水濡れに耐えられることで、使い道は大きく広がる。書くだけなら、多少破れても困らない。けれど、持ち歩くもの、守るものに使うなら、強さは必要だ。

「破れない和紙」が求められたのは、和紙を飾るためではない。使い続けるためだ。風合いがよく、軽く、手にやさしい。それでいて、暮らしの中で遠慮せず使える。そんな素材があれば、和紙は再び、日常の中に戻ってこられる。だからこの素材は、伝統工芸の延長でも、新素材の実験でもない。暮らしの中で生き直すための和紙なのだ。

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和紙は、弱いままで強くなった — 変わらなかったから、続いていく

和紙は、もともと弱い素材だったわけではない。ただ、扱い方や使われ方が変わる中で、弱く見えるようになっただけだ。

大直が選んだのは、和紙を別のものに作り替えることではなかった。洋紙のように均一にすることも、合成素材に置き換えることもしなかった。和紙は、和紙のままでいい。その前提を、最後まで手放さなかった。

けれど同時に、「そのままでは続かない」という現実からも、目を逸らさなかった。弱さを消すのではなく、弱さを理解したうえで支える。和紙が本来持っている風合い、軽さ、やさしさを残しながら、現代の暮らしに必要な強さだけを加える。

そうして生まれた「破れない和紙」は、伝統の否定でも、革新の誇示でもない。続いていくための選択だ。強くなったからといって、主張しすぎることはない。見た目は相変わらず、やさしく、控えめで、和紙らしい。

でも、使ってみるとわかる。濡れても、破れにくく、繰り返し使える。ちゃんと、今の生活の中で役に立つ。和紙は、弱いままで強くなった。それは、変わらなかったからこそ、変われたということなのかもしれない。

あさイチ中継が伝えるのは、すごい新素材の話ではない。長い時間を生き抜くために、何を守り、何を足すのかを考え続けた人たちの物語だ。和紙は、まだ終わっていない。静かに、でも確かに、次の暮らしへと手を伸ばしている。

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