紅葉に染まる日光の山あいに、150年の歴史を刻む名門「日光金谷ホテル」があります。アインシュタインやヘレン・ケラーなど、世界の偉人たちにも愛された日本最古のリゾートホテル。その伝統を受け継ぎながら、新たな味を生み出そうとしているのが、総料理長・中川健一さんです。
2025年11月2日(土)放送の『食彩の王国』では、中川シェフが地元のゆば工房で出会った“ちぢみゆば”を使い、和と洋をマリアージュさせた新作「ゆばフレンチ」に挑戦。
さらに、復刻メニュー「百年ライスカレー」に隠された“意外な食材”の秘密や、明治時代から受け継がれる「日光虹鱒のソテー金谷風」など、伝統と革新が交わる“金谷スタイル”の真髄に迫ります。
食と文化をつなぐ“日本の洋食の原点”が、いま再び息づく――。
🌸第1章:世界の賓客が魅了された「日光金谷ホテル」――日本最古のリゾートが語る150年の物語
日光の清らかな空気の中に、クラシカルな赤煉瓦の建物が静かに佇みます。ここ「日光金谷ホテル」は、明治6年(1873年)創業。日本最古のリゾートホテルとして、150年の歴史を紡いできました。創業者の金谷善一郎は、外国人宣教師を自宅に泊めたことをきっかけに“異文化と日本のもてなし”を融合させた宿をつくりました。
以来、この地は世界中の旅人を迎え入れる場所となり、アインシュタイン博士やヘレン・ケラー、チャールズ・チャップリンなど、名だたる賓客たちがこのホテルを訪れています。館内に足を踏み入れると、木の温もりとともに、どこか懐かしいヨーロッパの香りが漂います。
時がゆるやかに流れるラウンジ、手彫りの梁が支える重厚なダイニング――そのどれもが、職人の手によって守られてきた“生きた文化財”です。このホテルの名を一躍有名にしたのが、創業当初から受け継がれてきた洋食。フレンチの技法に日本の感性を取り入れた“和洋折衷”の料理は、やがて「金谷スタイル」と呼ばれるようになり、日本の洋食史を語るうえで欠かせない存在となりました。
金谷ホテルの料理には、ただの「美味しさ」だけではなく、日本人が異文化をどう受け入れ、どう自分たちの味に変えてきたかという“物語”が息づいています。
そして今、その物語を現代に受け継ぐのが、総料理長・中川健一さん――。彼の手によって、150年の伝統が、再び新しい一皿へと生まれ変わろうとしています。
<広告の下に続きます>
🍽️第2章:伝統を受け継ぎ、時代に合わせて磨く――総料理長・中川健一の哲学
「伝統は、守るためではなく“磨き続ける”ためにある」――そう語るのは、日光金谷ホテルの総料理長・中川健一さん。創業から150年、歴代シェフたちが受け継いできた味と精神を胸に、今も厨房の最前線に立ち続けています。
中川さんのもとには、創業当時からのレシピ帳がいくつも残されています。手書きで書き込まれた分量や調理工程の横には、先人たちのメモや感想が並び、まるで時間を超えた“料理人同士の対話”のよう。その一つひとつを読み解きながら、現代の食材・技術・感性に合わせてレシピを磨き上げていく――それが中川シェフ流の“継承”です。
しかし、ただ古き良き味を再現するだけではないのが、金谷スタイルの真骨頂。「時代が変われば、食べる人の感覚も変わる。だから料理も、進化していくべきだと思うんです」と中川さんは言います。
素材の扱い方ひとつ、火加減ひとつにも、現代のエッセンスを加えながら、“変わらないために、変えていく”。その姿勢が、金谷ホテルの洋食を150年もの間、第一線にとどめてきた理由なのです。
厨房の扉の向こうでは、銅鍋の底でソースが静かに泡立ち、ステーキパンからは香ばしいバターの香り。クラシックホテルの重厚な空間に響くその音こそ――伝統を守り、未来へつなぐ料理人の心音なのかもしれません。
<広告の下に続きます>
🌿第3章:地元の食材が導いた出会い――「ちぢみゆば」から生まれる新しい金谷フレンチ
ある朝、中川シェフは白いコックコートの袖をまくり上げ、車に乗り込みました。向かった先は、ホテルからほど近い「ゆば工房」。日光の名物として知られる“ゆば”は、古くから精進料理や懐石料理に使われてきた伝統食材です。けれどシェフがこの日出会ったのは、これまでのゆばとは一味違うものでした。
それが――“ちぢみゆば”。
丁寧に煮立てた豆乳からゆっくりと引き上げ、何層にも重ねて乾かす独自の製法。その表面に刻まれた細かな“ちぢみ”が、ほどよい弾力と香ばしさを生み出します。
「このゆばなら、フレンチの食感と香りに負けない」シェフの直感がそう囁いたといいます。ホテルに戻ると、中川シェフはすぐに試作を始めました。
バターとオリーブオイルで香りを立てたフライパンに、ちぢみゆばをそっと滑らせる。焦がさぬよう、丁寧に火を入れると、きつね色に焼けた表面がふわりと膨らみ、その香りが厨房いっぱいに広がりました。
合わせるのは、金谷ホテル伝統の「白ワインソース」。そこにゆばの繊細な旨味を重ね、ほんの少しの出汁で“和の余韻”を添える――フランス料理と日本の食文化が、ひと皿の上で静かに溶け合います。
中川シェフは言います。「料理は、出会いの積み重ねです。ゆばと出会って、金谷スタイルもまた新しくなりました。」
その言葉どおり、“ちぢみゆば”を使った新作「ゆばフレンチ」は、150年の伝統を未来へつなぐ“金谷ホテルの新たな顔”として生まれ変わりました。まるで旅人が再び日光の風に出会うように――金谷の厨房にも、また新しい風が吹いています。
<広告の下に続きます>
🍛第4章:百年ライスカレーに隠された秘密――受け継がれる“意外な食材”の物語
金谷ホテルの厨房の片隅に、古びた革表紙のノートが残っていました。そこには、明治期の料理人が書き残したレシピの断片。“百年ライスカレー”の原点は、その一冊の中に眠っていたのです。
当時のカレーは、まだ日本に輸入されたばかりの「異国の味」。しかし、洋食文化を日本人の舌に合わせていく中で、金谷のシェフたちは試行錯誤を重ねました。スパイスの配合を和らげ、バターや小麦粉でまろやかに整え、そこへ“ある意外な食材”――和の旨味を加えることで、独自の味を完成させたのです。その食材とは、「しょうゆ」。
当時の西洋料理には決して使われなかった日本の調味料を、思い切ってソースに取り入れたのが金谷のシェフでした。これこそが、“金谷スタイル”の原点。和の繊細さと洋の力強さが共存する、日本の洋食文化の幕開けだったのです。
中川シェフはこのレシピを復刻する際、「先人の知恵と遊び心を、今の時代にどう生かせるかを考えた」と語ります。現代の百年ライスカレーには、伝統のルゥに地元・日光の素材を重ね、深みのある甘さと香ばしさを兼ね備えた“記憶に残る味”へと進化させました。
ひと口食べれば、どこか懐かしく、けれど新しい――。明治から令和へ、百年を超えて受け継がれたこの味は、まるで時間そのものを味わうような、静かな感動を呼び覚まします。
<広告の下に続きます>
🌸第5章:150年の伝統が未来へ――「変わらないこと」と「変えていくこと」のあいだに
夜の帳が降りると、日光の森はしんと静まり返り、金谷ホテルのダイニングには、ランプの灯りがゆらめき、銀のカトラリーが小さく音を立てます。その中央で、総料理長・中川健一さんが見つめているのは、古びたレシピ帳と、明日のための新しい皿。
「料理は、終わらない物語です。」彼の言葉は、150年の時を経てなお、挑戦をやめないこのホテルの精神そのもの。金谷ホテルが大切にしてきたのは、豪華さよりも“手仕事の誠実さ”。
木の柱を削った職人の手も、ひと皿を磨くシェフの手も、同じ“日光の空気”をまといながら、次の世代へと受け継がれていきます。
伝統を守ることは、ただ昔の形を残すことではありません。その本質を理解した上で、今の時代にどう生かすか。そこにこそ、老舗が老舗であり続ける理由があるのです。「150年という節目を迎えても、まだ“途中”なんです」中川シェフの穏やかな笑顔に、旅の終わりと新しい始まりが重なります。
<広告の下に続きます>
🍁まとめ
明治の香りを今に伝える「日光金谷ホテル」。そこに流れるのは、変わらない伝統と、変わり続ける勇気。
“金谷スタイル”とは、単なる調理法ではなく、日本の洋食文化そのものの歩みなのかもしれません。
「百年ライスカレー」に込められた遊び心も、「ゆばフレンチ」に宿る新しい風も、どちらも未来へと続く一つの“バトン”。
150年の歴史を刻んだこのホテルには、これからも、時代を超えて人の心を温める料理が生まれ続けることでしょう。そして――その物語を味わいに、私たちもまた日光へ旅に出るのです。