春の瀬戸内海に、小さな海の幸の季節がやってきました。その名はイイダコ。お腹にたっぷり詰まった卵がご飯粒のように見えることから、「飯(いい)を抱くタコ」と呼ばれてきた春の味覚です。
香川県では古くから親しまれてきたこのイイダコ。煮付けにすれば、身は柔らかく、卵はほくほくとした独特の食感。まさに春だけのごちそうです。
しかし今、そのイイダコが大きな危機に直面しています。ここ20年で漁獲量はおよそ100分の1にまで減少。瀬戸内の海の恵みを未来へ残そうと、漁師たちの挑戦が始まっていました。
そしてその想いに応えたのが、日本フレンチ界の巨匠。小さなタコがつなぐ、海と料理人の物語とは――。今回の『食彩の王国』は、春の瀬戸内を舞台にしたイイダコの物語です。
【放送日:2026年3月7日(土)9:30 -9:55・テレビ朝日】
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飯を抱く小さなタコ──イイダコの名前の由来とは?
春の瀬戸内海で旬を迎える小さなタコ、イイダコ。香川県では古くから親しまれてきた春の味覚です。イイダコ最大の特徴は、お腹いっぱいに詰まった卵。
産卵前のメスのお腹には、米粒のような小さな卵がぎっしりと入ります。その姿がまるで「ご飯(飯)」を抱えているように見えることから、「飯(いい)を持つタコ」──イイダコと呼ばれるようになりました。
この卵こそが、春のごちそう。煮付けにすると身はやわらかく、卵はほくほくとした独特の食感を楽しめます。あなたも子どもの頃、家の食卓でイイダコの煮付けを食べた記憶があるかもしれません。
「卵が旨いんだよ」と大人は言うけれど、子どもの頃は濃い味の煮汁が染みた身の方が美味しく感じた──そんな人も多いはず。けれど大人になると、この卵のほくほくした味わいが、ふと気になってくるものです。
イイダコの楽しみ方は、煮付けだけではありません。瀬戸内では、さっと茹でたイイダコを酢味噌でいただく料理も親しまれてきました。ぷりっとした身に、甘みのある味噌と酢のさっぱりした風味。卵が入っていなくても、タコ本来の旨味を楽しめる一皿です。
小さなタコ一匹にも、さまざまな味わい方がある。それもまた、瀬戸内の食文化の豊かさなのかもしれません。そんなイイダコを求めて、漁師たちは春の海へと出ていきます。そんな瀬戸内海の春の味覚として長く愛されてきたイイダコ。しかし今、この小さな海の幸が大きな転機を迎えています。
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春の瀬戸内の恵み──イイダコ漁に密着!
春風が渡る瀬戸内海。穏やかな海として知られるこの海ですが、場所によっては潮の流れが速く、海の表情は決して一様ではありません。この海でイイダコ漁を続けてきたのが、漁師歴40年の額田善光さん。行うのは底引き網漁です。
イイダコが生息しているのは、水深およそ20メートルほどの浅い海底。日中は貝殻や石の隙間に身を潜め、夜になると餌を求めて砂地へと出てくるといいます。その習性を見極め、網を引き上げる。長年の経験がものを言う仕事です。
網を引き上げると、小さなタコが次々と姿を現します。春の瀬戸内を象徴する、小さな海の恵み。しかし、このイイダコが今、大きな危機に直面しているのです。
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激減するイイダコ!?──漁師たちの挑戦
春の瀬戸内の味覚として親しまれてきたイイダコ。しかし今、その数は大きく減っています。ここ20年で、漁獲量はおよそ100分の1。かつて当たり前のように獲れていた海の幸が、いま危機に直面しているのです。
原因は一つではありません。海の環境変化や餌となる生き物の減少、そして長年続いてきた漁のあり方――さまざまな要因が重なっているといわれています。
そんな状況の中、漁師たちが動き始めました。「このままじゃ、いなくなってしまう」そう感じた額田さんたちは、周辺の漁協と話し合い、香川県で初めてイイダコの禁漁期を設けることにしたのです。
漁師にとって「獲らない」という決断は簡単ではありません。海の恵みは、そのまま生活に直結しているからです。それでも彼らは考えました。
今、獲れるだけ獲ってしまえば、この海の恵みは未来に残らない。
だからこそ、あえて獲らない時間をつくる。さらに水産研究機関とも連携し、資源の調査や海の環境を見つめ直す取り組みも始まりました。「海は、みんなで守るもの」そんな意識が、少しずつ根づき始めています。
イイダコの養殖についても研究は進められていますが、タコは共食いをするなど飼育が難しく、まだ簡単に解決できる方法は見つかっていません。だからこそ大切なのは、海そのものを守ること。試行錯誤の末、いま瀬戸内の海には、少しずつですが希望の兆しが見え始めています。
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瀬戸内フレンチの新作──巨匠が引き出す魅力
瀬戸内の海で育まれたイイダコ。その魅力に惹かれた料理人がいます。日本フレンチ界の巨匠、池内渉グランシェフ。日本エスコフィエ協会の理事も務める料理人です。池内シェフが注目したのは、イイダコの個性。メスはお腹いっぱいに卵を抱え、ほくほくとした独特の食感を持っています。
一方でオスは、卵こそありませんが、身の旨味がしっかりと感じられる。小さなタコの中にある、それぞれの違い。その個性をどう生かすかが、料理人の腕の見せどころです。
池内シェフは、瀬戸内の海の恵みを生かしながら、イイダコの新たな魅力を引き出す一皿に挑みました。卵のほくほくした食感。やわらかな身の旨味。そして瀬戸内の食材が織りなす味の重なり。小さな海の幸が、フレンチの技で新しい姿へと生まれ変わります。
そこには、漁師たちの想いも重なっていました。瀬戸内の海を守りながら、その恵みを未来へつないでいく。漁師と料理人。海と皿。イイダコは、そんな人と人をつなぐ食材でもあるのです。
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まとめ:小さな海の幸がつなぐ未来
春の瀬戸内海に現れる、小さな海の恵み。お腹いっぱいに卵を抱えたイイダコは、昔からこの海の季節を知らせてきました。けれど今、その数は決して多くありません。だからこそ漁師たちは考えました。海を守りながら、恵みを未来へ残す方法を…。
「獲れるだけ獲る」のではなく、「残すために獲る」。その決断の先に、少しずつ希望の兆しが見え始めています。そして海から届いた小さなタコは、料理人の手で新しい一皿へ。瀬戸内の春の味は、漁師と料理人の想いに支えられながら、食卓へと届けられます。
小さなイイダコが教えてくれること。それは、海の恵みを味わう喜びと、守り続けることの大切さでした。春の瀬戸内海。潮風の向こうには、きっとこれからも豊かな海の物語が続いていくはずです。