「“やっかいもの”でおいしい名物」鹿児島・湧水町|桜島灰干しの味と楽しみ方【あさイチ中継】

桜島を背景に灰干しを食べるまどか BLOG
“やっかいもの”と呼ばれてきた桜島の火山灰は、、やがて味を育てる道具になって特産品を生み出した。
スポンサーリンク

「やっかいもの」で、おいしい名物――そう聞いて思い浮かぶのは、どんな風景だろう。
鹿児島・湧水町は、その名の通り、霧島の山に降った雨が、澄んだ湧水となって町にあふれる場所。おいしい水に恵まれ、湧水ニジマスや霧島サーモンなどの養殖も盛んだ。

けれど今回の主役は、水そのものではない。人々を悩ませてきた、桜島の火山灰。この“やっかいもの”を逆転の発想で生かしたのが、「桜島灰干し」という製法だ。
海の幸も、川の恵みも、灰と水、そして時間の力で、鹿児島ならではの味へと変わっていく。湧水町から始まる、おいしい工夫の物語をたどってみたい。

湧水町は「水がおいしい町」なのです

鹿児島県湧水町は、その名の通り、霧島連山に降った雨が地中で磨かれ、澄んだ湧水となって湧き出す町だ。この水の豊かさは、見た目の清らかさだけでなく、食の質にもはっきりと表れている。町では、清らかな湧水を使った養殖が行われ、湧水ニジマスや霧島サーモンといった魚が育てられている。

雑味が出にくく、身質が安定するのは、水温と水質が一年を通して安定しているからだ。また湧水町そのものでは獲れなくても、鹿児島の海で水揚げされるきびなご、タカエビ、スルメイカ、カンパチ、天然鯛など、県内には素材の力がはっきりした魚介がそろっている。

おいしい水と、良質な素材。この二つがそろっているからこそ、湧水町周辺では、素材の持ち味を引き出す工夫が自然と育ってきた。その工夫のひとつが、のちに“やっかいもの”を名物へと変える、あの製法につながっていく。

<広告の下に続きます>

“やっかいもの”と呼ばれる桜島の火山灰

鹿児島で暮らす人にとって、桜島の火山灰は切っても切れない存在だ。噴火のたびに降り積もる灰は、洗濯物を汚し、車をざらつかせ、畑や生活の手間を増やす。

霧島の麓に位置する湧水町でも、風向きによっては火山灰が降ることがある。自然の恵みである一方、日常の中ではどうしても「やっかいもの」と感じてしまう。それが、桜島の火山灰だ。

けれど、この灰にはもう一つの顔がある。火山灰は、非常に細かい粒子を持ち、水分を素早く吸い取る性質がある。さらに、遠赤外線効果によって、中までじんわりと熱を伝える力も備えている。長いあいだ厄介者として扱われてきた灰を、「どうにかできないか」と考えた人たちがいた。

捨てるのではなく、避けるのでもなく、使い道を見つけるという選択。その発想が、桜島の火山灰を“味を育てる道具”へと変えていく。やがて生まれたのが、灰の力を最大限に生かす、「桜島灰干し」という製法だった。

<広告の下に続きます>

桜島灰干し(はいぼし)とは?発祥と、その理にかなった仕組み

桜島灰干しは、火山灰の性質をそのまま生かした、とても理にかなった製法だ。工程は、一見すると静かで素朴。けれど、重ね方ひとつひとつに意味がある。

木製の箱の中に、火山灰、布、セロファン、干物にする魚やエビ・イカ、さらにセロファン、布、火山灰――この順番で丁寧に重ね、24時間以上、じっくりと冷蔵庫で熟成させていく。

火山灰は粒子が非常に細かく、吸水力が高い。余分な水分を素早く吸い取りながら、遠赤外線効果で中までじんわりと熱を伝える。そのため、臭みだけが抜け、旨みは外に逃げにくい。

この「短時間で水分を抜ける」という性質が、もうひとつの大きな違いを生む。一般的な干物のように表面が茶色くなりにくく、身は美しいまま。見た目も、味も、素材の鮮度がきちんと保たれるのだ。

灰干しした魚を焼くと、身は驚くほどふっくらと仕上がる。生の魚を焼いたときに近い食感で、干物特有の強い乾きや硬さは感じにくい。「干しているのに、生に近い」そんな不思議な感覚が残る。

この製法の原点は、和歌山で鳴門のワカメを灰干しにしたことにあるという。その発想が鹿児島に渡り、桜島の火山灰と結びついた。
厄介だと思われてきたものを、排除するのではなく、性質を理解して使い切る。桜島灰干しは、自然と真正面から向き合った結果、生まれた味だ。

<広告の下に続きます>

鹿児島の恵み × 灰干しで生まれる、忘れられない味!

桜島灰干しがいちばん力を発揮するのは、素材そのものの良さが、はっきりしているときだ。
鹿児島の海で獲れるきびなご、タカエビ、スルメイカ、脂ののったカンパチや、身の締まった天然鯛。どれも、素材の輪郭が明確で、余計な手を加えなくても成立する魚介ばかりだ。

そこに灰干しを施すと、臭みや余分な水分だけが静かに引き算され、旨みの芯だけが残る。味は濃くなるのに、重くならない。焼いたときに立ちのぼる香りも、どこか澄んでいる。

さらに、霧島の湧水に恵まれた土地では、湧水ニジマスや霧島サーモンといった淡水魚の養殖も行われている。安定した水温と清らかな水で育った魚は、身に雑味が少なく、灰干しの良さがいっそう際立つ。

山の水が魚を育て、海の恵みが素材を支え、桜島の灰が仕上げを担う。鹿児島という土地そのものが、ひと皿の中で、静かにつながっている。一口食べて、「派手じゃないけど、忘れられない」と感じたら、それはきっと、素材と向き合う時間が、ちゃんと味になっている証拠だ。

<広告の下に続きます>

どこで食べられる?どう買うのが正解?

桜島灰干しは、鹿児島市内から遠い湧水町まで行かなくても味わえる。鹿児島中央駅2階のぐるめ横丁にある「桜島灰干し屋・せいせん」では、灰干しならではのふっくらした食感を、できたてで楽しむことができる。旅の途中で立ち寄れるのも、うれしいポイントだ。

一方、自宅で楽しみたい人にはネット通販という選択肢もある。Amazonや楽天では、桜島灰干しの商品が数多く並んでいる。ただし、ここで少し注意したいのが送料。単品は数百円と手頃でも、送料が1,000円以上かかることが少なくない。そのため、購入するなら「2袋×3種」「14切入り」などのセット商品を選ぶほうが、結果的に割安感がある。

きびなご、タカエビ、カンパチなど、種類の違いを食べ比べられるセットは、灰干しの魅力を知る入口としてもちょうどいい。保存もきき、少しずつ楽しめるのも利点だ。
現地で味わうもよし、自宅でじっくり焼くもよし。桜島灰干しは、“知ったあとに、ちゃんと選べる”名物でもある。

<広告の下に続きます>

“やっかいもの”を名物に変える町の知恵

湧水町の名物を辿っていくと、ある共通点に気づく。きれいな湧水も、桜島の火山灰も、どちらも自然がもたらしたものだ。歓迎されるものもあれば、日々の暮らしでは扱いに困るものもある。けれど湧水町では、排除するのではなく、性質を理解して活かすという選択が重ねられてきた。

水は魚を育て、灰は味を育てる。一見すると相反する存在が、同じ食卓の上で、静かに役割を果たしている。桜島灰干しは、特別な技術を誇るためのものではない。「どうせ避けられないなら、使いこなそう」そんな、土地に根ざした感覚から生まれた味だ。

旅先で口にした一切れが、帰ってからもふと記憶に残るのは、その味の奥に、自然と共に暮らす時間が折り重なっているからだろう。“やっかいもの”は、見方を変えれば、この土地らしさになる。湧水町の名物は、そう教えてくれる。

<広告の下に続きます>

まとめ

鹿児島・湧水町の名物は、特別な材料から生まれたものではない。澄んだ湧水も、降り積もる火山灰も、ただそこに在り続けてきた自然だ。“やっかいもの”と呼ばれてきた桜島の火山灰は、性質を理解され、工夫され、やがて味を育てる道具になった。

水と灰、山と海。相反するように見えるものが、この土地では静かにつながっている。見方を変え、向き合い続けることで、日常は名物になる。湧水町の味は、そんな知恵と時間を、そっと教えてくれる。

タイトルとURLをコピーしました