秋の海に、銀の粒が踊る——。本日の主役は、茨城・鹿島灘の新ブランド「秋しらす」。わずか数センチの小さな命に、漁師たちは“海の旬”を見出してきました。
その美味しさの決め手は、「し」の字。水揚げから釜揚げまでのほんの数分、しらすが自らの筋肉をピンと張りながら“し”の字に丸まる瞬間、それが、鮮度が最も輝く証なのです。
潮風が香る港町で、命のきらめきを逃さぬように炊き上げる達人たち。海と人の呼吸が重なった、その一瞬に生まれる“秋の白”。「食彩の王国」は、鹿島灘に新たに誕生したブランド“秋しらす”の極意に迫ります。
鹿島灘に“秋しらす”の季節がやってくる
秋の光がやさしく海面をなでるころ、鹿島灘の港に白いきらめきが戻ってきます。漁師たちが「秋しらす」と呼ぶその季節は、海の恵みが最も穏やかに満ちるとき。
冷たすぎず、ぬるすぎない秋の潮が、しらすの身を引き締め、ふっくらとした甘みを育ててくれます。
朝まだき、船が沖に出ると、水平線の向こうで銀色の群れが陽に透けて見えてきます。海が静かに息づくようなその光景に、漁師たちは毎年のように胸を高鳴らせます。
やがて、港に戻るころには、白く透ける“秋しらす”が船の中で小さく跳ねています。その一匹一匹が、秋の海の物語を宿しているようです。
＜広告の下に続きます＞
鮮度を極める——“し”の字が教える命の証
港に戻るころには、釜場のあたり一面に白い湯気が立ちこめています。漁師が持ち帰ったしらすは、すぐに職人の手に渡されます。「時間との勝負だよ」と漁師たちは口をそろえます。
釜の中で踊るように炊かれるしらすの姿を、職人たちは目と音で確かめながら、わずかな変化も見逃しません。
「温度が一度違えば、もう別の味になるんです」そう話すのは、鹿島灘で長年しらすを炊いてきた達人。海の状態や風の向き、季節によって湯の温度や時間を微調整するのが腕の見せどころです。
しらすが“し”の字にくるりと丸まる瞬間、職人たちは迷わずざるを上げます。それは経験でしかつかめない、海と人の呼吸のようなもの。
炊き上がったしらすは、雪のように白く、そしてほんのり甘い香りを漂わせます。作業の合間に、湯気越しに見える海がきらりと光ります。
「今日もいい顔してるな」その言葉には、海への敬意と、命へのやさしいまなざしが込められているのです。
＜広告の下に続きます＞
炊き上げる職人たち——海と人の呼吸
港の釜場には、朝の光とともに白い湯気が立ちのぼります。炊き上げの作業は、まるで舞台のように張りつめた静けさの中で始まります。一人が火を見つめ、もう一人が釜をかき回します。言葉は少なくても、息づかいがぴたりとそろっています。
「火が強すぎると身がかたくなります。
でも、弱すぎると白くならないんです」
そう話す職人の目は、湯気の向こうにある“しらすの声”を聞いているようです。
しらすが釜の中でくるんと身を反らせた瞬間、ざるが持ち上げられます。釜から立ちのぼる湯気の中に、ほんのりと潮の香りと命の温もりが溶けていきます。
炊き上がったしらすは、まるで秋の朝霜のように白くやわらか。手のひらにのせると、ほろりと崩れ、口に入れると甘みが広がります。それは、海と人が呼吸を合わせてつくり出した、一瞬の芸術なのです。
＜広告の下に続きます＞
秋しらすの食卓——海の命を味わう
炊きたての秋しらすが、湯気をまとったまま食卓へと運ばれます。鹿島灘の港町では、釜揚げしらすをその日のうちに味わうのが何よりのごちそうです。ふっくらとした身を箸ですくうと、ほのかな潮の香りが立ち上り、噛むほどに優しい甘みが広がります。
釜揚げの柔らかさを生かした丼、しっとりとした風味を引き出すおろし和え、そして、獲れたての透明感をそのまま味わう生しらす。
同じ“しらす”でも、調理法によってまったく違う表情を見せてくれます。秋しらすの魅力は、ただおいしいだけではありません。それは、海の生命が最も穏やかに満ちる季節の恵みを、人の手がそっと受け取り、食卓へとつないでいるからです。
一匹一匹の小さな命が、家族の笑顔や、「いただきます」という言葉の中で、静かに輝きを放ちます。
＜広告の下に続きます＞
まとめ｜“し”の字に宿る、鮮度と命の美
秋の鹿島灘は、穏やかな風とともに海の恵みを運んでくれます。その小さな白い魚の姿には、海の豊かさと命の尊さが凝縮されています。釜揚げの湯気の中で“し”の字に丸まるしらすの姿は、まさに鮮度の証であり、命の美しさを語る一瞬です。
炊く人の手の温度、潮の香り、港に響く声——そのすべてが重なって、食卓に届くひと皿の味が生まれます。「秋しらす」は、海の恵みをそっとすくい上げるように味わう季節の贈り物。“し”の字の曲線には、自然と人が寄り添って生きる日本の食文化が息づいています。その小さな命の輝きは、今日もどこかの港で、静かに炊き上がっているのです。